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飯村和彦 Headshot

目を見張る人間力!平均年齢83歳、米国人気コーラスグループ「ヤング@ハート」の歌声が受刑者の心に響く理由とは?(動画あり)

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「きょうも元気にロックしてるなあ~」

彼らのステージや練習風景を見るたびにいつもそう感じる。アメリカの人気コーラスグループ「ヤング@ハート」のことだ。総勢およそ30名。平均年齢は83歳。であるにもかかわらず、このおじいちゃん、おばあちゃんたちが披露するのはパワフルでエネルギッシュなロックンロールでありリズム&ブルース(R&B)なのだ。

先ごろそんな彼らの野外ライブコンサートが開かれた。"日頃のご愛顧に感謝を込めて!"ということで、毎年地元で行っているもの。

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(photo:kazuhiko iimura)

夏の日の夕方、開演の1時間前には緑の芝生が人で埋まった。その数700~1000人。会場になった広場だけでは収まりきらず、多くの人たちが駐車場や歩道にまで椅子を並べるほどだった。場所は米国マサチューセッツ州にあるフローレンスという小さな街。お年寄りや中年夫婦、子ども連れの家族やヒップホップ世代の若者まで、文字通り老若男女がヤング@ハートの歌声を楽しみ、ロックなサウンドにからだを揺らした。

動画 「Y@H 野外ライブハイライト」


(Video by Kazuhiko Iimura)

ローリングストーンズにボブ・ディラン、ジェームス・ブラウンにビリー・ジョエル、ビートルズ、デビッド・ボーイ...彼らの幅広いレパートリーには驚かされる。

音楽ファンの中には、「どうせ有名な曲を歌ってるだけだろう?オリジナルにかなう訳ないし、そんなのねぇ...」という方々もいるでしょう。けれどもそんな狭い了見の人たちの想像を超えるものが彼らのステージにはある。こればかりは実際にライブ会場でその空気を体感するしかないのだろうけど、ヤング@ハートの人気は、音楽そのもののほかに彼らの「在りよう」が大きな要因になっているのだ。

では、そのヤング@ハートの「在りよう」とはいかなるものなのか。

ヤング@ハートが結成されたのは1982年のこと。現在も音楽監督と指揮を務めるボブ・シルマンさんが公営住宅に住む高齢者に呼びかけて、「ロックとR&Bを歌う」コーラスグループとして結成された。

だからもうすぐ誕生から35年。残念ながら結成当時のオリジナルメンバーはもう残っていないというが、90歳を過ぎた今でも元気にステージに立つメンバーはいる。

94歳のドーラ・モロウさんは今年4月のライブコンサートでJames Brown(ジェームス・ブラウン)の「I feel good」を熱唱、会場全体が揺れるほどの喝采を浴びていた。

彼らのファンは海外にも多く、ヨーロッパやオーストラリア、そして日本では2度コンサートツアーを行っている。日本でのライブで「リンダリンダ」や「雨あがりの夜空に」といった楽曲を披露したように、海外で公演するときはその国の曲を何曲か頑張って練習して歌えるようにしているらしい。

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(Y@H 音楽監督 ボブ・シルマン/ photo:kazuhiko iimura)

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(94歳のドーラ、「I feel good」を熱唱/ photo: kazuhiko iimura)

当然ながら「ヤング@ハートのメンバーになりたい」という人も多いらしい。参加条件は「75歳以上」。ただし、いまのメンバーに欠員がでたとき、つまり誰かが病気等で活動できなくなった場合なので、実際に新メンバーになるのはとっても「狭き門」のよう。

ともかく、「ヤング@ハート」の面々はすこぶる元気だから。

練習は週に2回。ボブの指導のもと、生バンドに合わせて2時間きっちり歌い込むわけだが、これが実に賑やかで楽しそう。歌っていないときは、ほぼ笑っているという状態だ。

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(週に2度の練習風景/ photo: kazuhiko iimura)

彼らの活動は地元の企業や多くの個人の寄付によって支えられている。国や行政に頼ることはない。自分たちにできることに全力を注ぎ、彼ら自身も楽しみながら地域の人たちをその輪の中に巻き込んでいく。つまり、単なるエンターテイメントとしてではなく、地域に根づいた音楽活動としても高い評価を得ているわけだ。

そんな「ヤング@ハート」がここ数年力を注いでいるのが社会貢献活動。
なかでも目覚しい成果をあげているのが2年前から行われている「プリズン・プロジェクト」と呼ばれる、地元の刑務所で行っている活動だ。

活動の基本は毎週1回の練習とおよそ半年ごとに開かれるコンサート。もちろんすべてボランティア活動だ。

練習では音楽監督のボブたちが刑務所(一般刑務所と女子刑務所の2箇所)を訪れ、希望者に2時間のレッスンを行う。ヤング@ハートのメンバーも数人単位で刑務所にやってくる。受刑者の歌う曲のコーラス部分の練習は必須事項だから。わきあいあいの雰囲気ながら、参加者はみんな真剣に練習に取り組む。

歌う曲は受刑者が自分たちで選ぶそうだが、彼らのオリジナル曲もある。多くがラップで、各自が歌詞を書き、好きなテンポの曲に合わせて声をだす。

「Old Souls」...それが受刑者たちのグループ名だ。この名前も彼ら自身が決めたものだ。

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(刑務所での練習風景/ photo: kazuhiko iimura)

練習の成果は、プリズン・コンサートで明らかになる。

収監されている受刑者、一部の家族、刑務所スタッフや関係者向けのものだが、観客はそれなりの人数になる、だから「Old Souls」のメンバーにとっては緊張もの。ほかの受刑者仲間からの評価も気になるところだ。

ところが実際にコンサートが始まってしまうと空気は一変する。ヤング@ハートのおじいちゃん、おばあちゃんたちの歌声はすぐに会場の空気を温かなものに変える。それにつられるように受刑者のメンバーもベストを尽くす。

腕や肩、人によっては顔にまで刺青を入れた受刑者が、白髪のコーラスグループをバックにロックやヒップホップを熱唱する。それは大げさではなく感動的な光景だ。そして最後はいつも全員でボブ・ディランの「Forever Young」の合唱。出演者全員が拳を高く掲げると、観客の側の受刑者たちも右手を高く突き上げる。その直後、会場全体は大きな歓声に包まれることになる。

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(「Forever Young」合唱/ photo: kazuhiko iimura)

ヤング@ハートの歌声や気負いのない仕草は、受刑者たちの心の奥にあって通常ではなかなか動かないある種の感情をほんの少し揺さぶるのだろう。それが何度か続くうちにいつの間にか受刑者たちはヤング@ハートの虜になっていく。おそらくそのようなことじゃないかと思う。
彼らの持っている人間力には、ただただ目をみはるばかりだ。

ヤング@ハートがプリズン・プロジェクトを始めるきっかけはなんだったのか。

音楽監督のボブによると、それは2007年に開いた刑務所でのコンサートだったらしい。最初は何が起こるかまったく予想していなかったが、結果は想像をこえるものだったという。

「あれは一種のマジックだった」とボブは振り返る。

「本当に魔法のような瞬間だった。そして気づいた。この場所は再びやってくるところだと。そしてそのときは、受刑者向けにパフォーマンスをするだけではなく、彼らの歌声が聴けたらどんなに素晴らしいだろうと思った」

そこでボブは、受刑者がヤング@ハートのコーラスメンバーと一緒に歌えるようなプロジェクトをつくったのだという。

ヤング@ハートのメンバーの一人、80歳のクレアはあるときこう語っている。「帰るときに時々受刑者にハグしたくなるけどそれは(規則で)認められていない。でもときにはやっちゃうのよ。どうしても我慢できないから」

受刑者は窃盗や強盗、武器や禁止薬物の不法所持...等々、多種雑多な罪で収監されている。けれどもクレアは誰がなにをしたのかは知らない。

「他のメンバーもその方がいいと思っているはず。それが正直な答え。彼らの過去の生活は気にしない。私たちが見ているのは彼らの今、そして将来の希望だから」

この点に関してはボブも同じ考えだ。

「受刑者たちがなにをやってここに来ているのかは知らないし、それに興味はない。それは私たちに関係ない話。一つはっきりしているのは、彼らがコミュニティに戻ってくること。そして私たちは彼らにできるだけ最高の状態で戻って欲しいと考えている。小さなことかもしれないが、私たちの活動はその手助けになっていると思う」

「平均年齢83歳の集団」にしかできない音楽を伴った活動、もう少し具体的にいえば彼らの音楽に対する「ポジティブな姿勢」や好きなものに打ち込む情熱。

そしてなにより彼らの発する「何かを始めるのに遅すぎることなんてない!」というメッセージは強烈である。また実際にそれを実証している姿はともかく圧倒的だ。

ところがこのヤング@ハートのメンバーには押し付けがましいところがまったくない。いつだって肩の力を抜きリラックスしているように見える。このあたりは長い人生経験の賜物に違いない。

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(ネルソンとY@Hメンバーのスティーブ/ photo:kazuhiko iimura)

プロジェクトに参加している受刑者の一人、ネルソン受刑囚の言葉は象徴的だった。

今年38歳の彼は少年時代から窃盗などの犯罪を繰りかえし、これまでの人生の半分以上を壁の内側で過ごしてきた。いまの刑期を終えるころには41歳。「もう後悔するのに疲れ果てた」というネルソンだが、ヤング@ハートのプロジェクトに参加することで「負のサイクル」から抜け出すきっかけをつかんだのだという。

「負のサイクルから抜け出すためには、何か違うことに挑戦しなくちゃダメだと思った。音痴だけど子供の頃から音楽は好きだったから今回はやってみようと...。みんな凄くいい人たちで偏見を持たずに接してくれるのが嬉しい。一度コンサートにもでた。 とても緊張したが、あれを経験してもっと素直になれた。人生でうまくいかないことはあるけど、やらないで後悔するよりは何でもやってみたほうがいいと思えるようになれた」

さらにネルソンは、この経験は出所後の自分の救いになると話す。

「これをきっかけに自分も人の輪の中に入ることができた。年齢なんて関係ないことも学んだし、彼らを目の当たりにして自分も変わらないとダメだ...と気づかされた。社会に異なる役割がたくさんあるように、自分もできることをやっていい人生にしていきたい」

動画 「ネルソン受刑囚インタビュー&プリズン・コンサート」


(Video by Kazuhiko Iimura/ 翻訳:飯村万弥)

「何かを始めるのに遅すぎることなんてない!」

人生の終盤になっても達成することのできる"なにか"に向っているヤング@ハートの「在りよう」が、受刑者の心に訴えかけ、彼らのものの見方、考え方をいい方向に変える一助になっているのだろう。

長い間抱え込んでいた劣等感や他者に対する不満、自分を取り巻く環境へのストレス、後悔、そして「人生をやり直すなんて大変だ」というネガティブな姿勢...そんな受刑者たちの思考が少しずつポジティブな方向に向っていくようだ。

ハンプシャー郡刑務所のロバート・ガアビー所長は、ヤング@ハートの活動について「受刑者が普段とは違った自分たちの役割を知るいい機会になっている。目的に向って努力するというある種のコミュニティができた」と絶賛。さらに「何かのメンバーになっているということは受刑者たちにとって非常に大切。同時に社会の人たちとの繋がりを築ける大切な場にもなっている」として、この活動が、新しい「変化」を受刑者や地域社会にもたらしている話す。

たぶん、日本にもヤング@ハートのメンバーようなお年寄りたちが沢山いるに違いない。愉快でエネルギッシュ、それでいて豊かな人生経験に裏打ちされた包容力をもった方々。そんなお年寄りが活躍できるようなコミュニティができあがれば、少なからず問題も解決されていくのでは?

国や行政がセーフィティネットを充実させることはもちろん必要できちんとやって欲しいけれど、その上でコミュニティの面々が互いにそれぞれが打ち込んでいることに目を配り、少しづつでもポジティブな係わり合いを持つようになれば地域の空気はぐ~んと良くなる。ヤング@ハートの活動はその一例のような気がする。

(2016年8月4日「TVディレクター 飯村和彦 kazuhiko iimura BLOG」より転載)