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性犯罪に関わる刑法改正「性的関係における同意とは何か」など本質的な検討を

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政府は3月7日、刑法の性犯罪規定部分の改正案(http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00140.html)を閣議決定した。今通常国会で審議入りする見込みである。 

前編はこちら:性犯罪に関わる刑法改正、今国会で成立させるべき3つの理由

改正で重要なのは、外国の法制度や議論等も参考にしながら、「性的関係における同意とは何か」「どういうことによって被害者の同意の有無を判断してよいか」ということの本質的な検討を深め、法改正・解釈あるいは捜査実務に生かすことである。

法制審議会で配布された外国法の資料(法制審議会第一回配布資料11―1〜11―7 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00122.html)を見ると、たとえばイギリスのSexual Offences Act1条1項では、レイプを「a) Aが陰茎を他人Bの膣、肛門又は口に故意に挿入したこと b) Bが挿入に同意していなかったこと、かつ c) AはBが同意していると合理的に信じていないこと」と定義し、同条2項で「Bが同意していると信じたことが合理的かどうかは、Bが同意しているか確認するためにAがとったあらゆる手段を含む全事情を考慮して決める」とも規定している。

私は、ハフィントンポストに投稿した別のブログ記事「合意があると思っていた」なら「悪質ではない」のか 高畑裕太氏弁護人コメントへの疑問」(http://www.huffingtonpost.jp/keiko-ota/post_13165_b_11960902.html
で、まさにこのようなこと、つまり、相手が自分との性行為に同意していたと信じさえすれば故意は無く犯罪ではないというのはおかしい、そう信じたことについて合理性が必要なはずだ、という考えを念頭に置いて書いた(注2)。

また、カリフォルニア州刑法には「同意が争われた場合には、その「同意」とは、自由意思に基づく、行為又は態度による積極的な協力を意味することとする。その場合、当該被害者は、自由かつ任意に行動できることを要し、また、関連する行為ややりとりの特性について知識を有していることを要する」(261.6条)と、性的関係における「同意」がどのようなものであるかが明記されている。

「同意が争われている場合に、被害者が、被告人に対し、コンドームその他の避妊具を用いることを示唆、要求その他の方法で伝えたという証拠については、更なる同意に関する証拠がない限り、それのみでは、同意があったとするには不十分である」(261.7条)という記載もある。

おそらくは、「彼女とセックスはしたけれど、彼女も同意していたのだからレイプではない。彼女のほうからコンドームを渡してきたのだから、同意があったことは明らかだ」という加害者の弁明が繰り返され、それに対し「そんなものは、せめて妊娠だけはさせられないようにと防御しただけであって、セックスへの同意ではあり得ない」という、性暴力の実情を知る当事者らの血が滲むような抗議が、このような条文に反映されたのであろう。

日本とは裁判の仕組みや手続自体が違う外国の法律を単純に模倣して取り入れることが適切だとは考えていないし、そのようなことは現実的でもないだろう。ただ、これらの外国法の条文の背後にうかがえる、「性的関係における同意とはどういうことか」「どうすれば、同意がない性的関係を、同意がある性的関係から切り分けて処罰対象にすることができるか」についての本質的な議論を、日本でもなんとか深め、法改正や捜査実務に生かしていかなければならない。

■今後に向けて


今回の改正案は、述べてきた通り、全体に、内容面では歓迎すべきものではある。

しかし、作成経過をみると、直接には、この問題に関心があった松島みどり元法務大臣が性犯罪の罰則に関する検討会設置を指示したことから始まっており、もちろん以前から性犯罪規定の問題点を訴える方々はいたが、それが大きな世論につながって国会を動かしたというのとは違う。改正の具体化は、率直にいえば偶然実現したという経緯である上、いわば「上からの改正」とでもいうべきものである。「性暴力被害の当事者や支援者達で勝ち取った改正」というような性格のものでは必ずしもない。

今後の更なる改正に繋げるためには、このテーマについて今度こそ広く世論を喚起し、当事者と支援者の声を大きなうねりにしていかなければならない。現在罰せられていない行為を可罰的にする方向性の改正には、各方面から激しい抵抗が予想される。それに対して、「今まで処罰されてこなかったことのほうがおかしかった」という理解が拡がるためには、広く世の中に性暴力の実相についての認識を浸透させていかなければならない。

冤罪を生んではならないことは当然であり、行うべきことは、処罰すべきなのに法律の不備で処罰できないという現在の法律の隙間を埋めつつ、処罰すべきでない行為を処罰しないという厳格な構成要件を検討することである。

これは決して簡単な道のりではないだろうが、性暴力被害者の泣き寝入りを許さないために、性暴力被害当事者の経験と苦悩に根差した、被害救済のための法改正を、私たちの世代でなんとかやりとげなければならないことだと考える。

(注2)法制審議会では、精神科医の小西聖子委員も同趣旨の次の指摘をしている。「言葉を尽くして裁判で専門家の意見として意見を書いたりして、抗拒不能だということが認定された場合に、結構、相手はそのことを認識していなかったのだから、結局、罪に問えないというような結論が、自分が持っていたケースでは2件ぐらいあった。(中略)それはやはり、そうすると、物分かりが悪い偏見に満ちた人は無罪になるのかと、極論すれば、そういうことを私は素人ですから考えてしまいます」(法制審議会第二回議事録http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00124.html 23頁)。

「確かにセックスはしたが、レイプではない。なぜなら彼女も合意していたからだ」という加害者の言葉は、私も被害者代理人の業務を行うなかで、よく聞く。「どうして彼女があなたとの性的関係に同意していたと思えるのか」とあきれはてるような思い込みをしている加害者もいるが、「同意があった」と加害者が思い込みさえすれば、刑事責任を問うために必要な「故意」はなく、犯罪は成立しないということでは、より厚顔無恥で思い込みが強い人の行為ほど犯罪が成立しづらいということにもなってしまう。

合理的な根拠なく「相手も性的関係に合意していた」と考えて実は相手の意思に反する性的関係を強要した、という場合にはきちんと刑事責任をとらせることができるようにするためにはどのような規定にすればいいのか。容易ではないが、議論を重ねて理論を構築し、次の法改正に繋げなければならない。