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シリーズ 脱北者の脱南物語① 「在韓脱北者の脱南現象を再考する」 玄麦

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シリーズ 脱北者の脱南物語

①「3万人を迎えた在韓脱北者と脱南現象を再考する」
②ワーキングホリデーを活用した合法移住-オーストラリアの事例
③「海外留学・研修」を終えた脱北者の更なる苦悩
④海外にある脱北者支援NGO


「脱北者の脱南物語」の連載を始めるにあたって

北朝鮮から離脱した住民を指す「脱北者」の存在が国際社会に知られてから20年以上が経過した。そして、その脱北者を取り巻く状況は最近になって大きく変化している。

いまだ北朝鮮国内の食糧は不足し、民主化の兆しも見えないが、いわゆる「苦難の行軍」と言われた1990年代半ばのように食糧不足が蔓延した時とは状況が大きく変わり、脱北者たちは基本的人権としての生命権を求めるよりも、より豊かな社会での暮らしを求める傾向が増えつつあるようでもある。

もちろん個々人の脱北の動機はケースバイケースであるが、それでも彼らの存在は「難民」的な存在よりも、「移住者」的な存在に変わりつつある。脱北後、中国や周辺諸国を経由し、韓国や欧米諸国にたどり着くまでには金銭的な取引を伴うブローカーの存在があることも忘れてはいけない。

長年の間、多くの脱北者が定住する地は韓国であり、現実的にその状況は変わっていない。

しかし、脱北者の増加、そして脱北者たちの脱北動機やバッグランドなどが多面化してきたため、受け入れ先の韓国では試行錯誤が繰り返されている。同じ朝鮮民族であるという期待とは裏腹に、差別や社会的不適応などによる問題が可視化されてきた。

結果的に、具体的な数字の根拠はさておき、韓国に定住した脱北者の2人に1人は欧米諸国など海外へ再び移住したがっているという声が出るほどである。

したがって、変わりつつある脱北者を取り巻く環境を理解するために、これから「脱北者の脱南物語」を企画し、数回に及ぶ連載シリーズとしてお届けしたい。

連載シリーズ①「在韓脱北者の脱南現象を再考する」


在韓脱北者が3万人を突破した

北朝鮮の人口が2300万から2500万であると推計した場合、韓国にたどり着いた脱北者が3万人以上になったということは、1000人に1人以上の北朝鮮住民が韓国に移住したということを意味する。ここ2-3年は中朝国境地帯や中国内での取り締まりが強化されたためか、韓国にたどり着く脱北者の数は減少傾向におかれているが、それでも在韓脱北者の数は持続的に増え続けるだろう。

しかし、流入する脱北者が増え続ける反面、韓国籍を取得後、韓国パスポートを活用し、再び海外へ移住しようとする流出人口や、そもそも韓国に定住することを希望しない脱北者が増えていることにも着目しなければいけない。

少し古いデータになってしまうが、2014年3月18日付の「朝日新聞」報道をみると、韓国に定住した脱北者が2万6千人(当時)であることをはじめ、英国3,300人、ドイツ2,200人、カナダ500人、オランダ300人、アメリカ200人、日本200人、オーストラリア150人の脱北者が世界各地に定住しているという推計が出されている。単純に足し算すると7千人近くの脱北者が韓国以外に定住したことになる。

しかし、実際海外へ再移住した脱北者は7千人までには及んでいないと私は考える。つまり、この推計には一種のカラクリがあると私は捉えているのだ。

一つには韓国に定住した脱北者が海外に出かけている場合がほとんであり、もう一つには、難民申請が却下されたり、強制退去にあったり、あるいはその国での生活が思うようにいかなかった場合、再び別の国へ再々移住する人たちが多いということである。例えば、英国で難民申請をしても韓国経由がばれてしまい強制退去されることがある。

けれども、その後、韓国に戻り再びカナダやオーストラリアで難民申請を行ったり、またはそのままオーバーステイしてしまうパターンが増えている。今では、韓国のパスポートを所持することは、日本のパスポートを所持するのと同様、ほとんどの国にノービザで入国できることを意味する。

滞在期限が切れた後の不法滞在や資格外活動は、韓国政府と滞在国政府との間の外交問題にも発展し得るが、当事者はそのことについては気にも留めないだろう。追い返されてもたどり着く場所は韓国なのだ。


韓国政府と国際社会の取り組みにみる課題

電子パスポートの導入以来、韓国を経由せずに欧米にたどり着いたという虚偽申告はほとんど通じなくなった。結果的に、韓国からの観光客を装ってオーバーステイや資格外滞在を試みる手法に変わりつつある。そして、ある国で強制退去にあえば、また別の国で同じことを繰り返すケースが増えつつあるようだ。効果はさておき、そのための改名(ネーム・ロンダリング)などもあると聞いた事がある。

そのような違法行為を繰り返す脱北者の個々人を批判することは簡単であるが、私は少し冷静かつマクロレベルで考える必要があると思う。要するに、韓国政府、韓国社会、そして国際社会の取り組みにおける課題もここにはあるからだ。

そもそも、なぜ脱北者たちが海外へ再移住しようとするのだろうか。そこには韓国社会の統一への願望とは裏腹に、北朝鮮出身者に対する偏見と差別がある。そして、そのような現実を理解したうえで国際社会は、韓国だけにこの問題を任せば良いのだろうか。

結論的な私のメッセージを先取りすると、脱北者が永住を目的とした海外への再移住や留学・ワーキングホリデー、出稼ぎなどを目的とした合法的な移住制度を活用することがカギになるという点だ。

一例として、脱北者の海外への合法的再移住にオーストラリアのNGOや教育機関などがモデル事業として取り組んでいる。

ワーキングホリデーと留学ビザを活用して若い人材の合法移住を促進するパイロットプロジェクトとも言えよう。この取り組みは、アメリカ政府が一部の脱北者を選別的に難民として受け入れてきた制度とも異なるし、日本における在日帰国者の受け入れとも異なる。

私はまさにこの取り組みから、突破口を生み出せるのではないかと考えている。日韓両国には、留学制度もワーキングホリデー制度もある。その気になれば、在韓脱北者が日本にもワーキングホリデーや留学のビザを使って来ることができる。

問題は、韓国同様、日本社会の偏見と差別、そして政府の外国人政策であろう。国境を超える人の移動が盛んなグローバル化の今日、もはや脱北者を取り巻く支援は韓国、日本、アメリカなど個別の国だけでは対処でない局面になった。

したがって、シリーズ本連載を通じて、オーストラリアの先駆的な取り組みを数回にわたって伝えたいと思う。 

(文/玄麦/北朝鮮難民救援基金NEWS May 2015 No.094より加筆・修正し転載)

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