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保坂展人 Headshot

「相模原事件」から3カ月、「優生思想」の根を絶つには

投稿日: 更新:
SAGAMIHARA
ASSOCIATED PRESS
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あの目覚めの悪い真夏の朝から3カ月余がたちました。公園の木々も色づいてきて、東京でもマフラーやコート姿の人たちが目立つようになり、事件から100日の時の流れを感じさせます。私は、7月26日未明に相模原市の「津久井やまゆり園」で起きた事件にふたつの衝撃を受けました。ひとつは、事件そのものからで、もうひとつは事件後に白熱した報道のあり方や一部の世論に対してでした。とくに後者のわだかまりを、すぐにツイートしたことを覚えています。

その「わだかまり」は、被害者が「匿名」のままに伏せられ、加害者の「手紙」や「犯行予告」がテレビで何度も紹介されている状況への危機感につながり、緊急のブログ投稿を準備しました。

「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」の拡散・連鎖の根を絶つために (2016年7月28日)

残念ながら、今日の日本社会はヘイトクライム(憎悪犯罪)を誘発する直前の言説が珍しくありません。障害者を対象とした大量殺傷事件の容疑者が語る「社会的弱者を暴力的に排除する」ことを正当化する言説こそ、障害者差別解消法や障害者権利条約の理念を全否定し、障害者福祉を土台から突き崩してしまうものです。

今回の悲惨な事件は単独犯ですが、ヘイトクライムが拡散しない対策を進めるためには、誰もが障害者差別解消法や障害者権利条約を知り、その理念を共有する社会を力強く築いていくしかありません。「二次拡散」も止めて、ヘイトクライムの根を断ち切る声を、今こそ大きくあげるべき時です。

このブログを発表した翌日に、岩波書店の編集者から「この内容を緊急に出版できないか」との連絡をいただいた。はたして、短期間のうちにまとめて問題提起するという要望に応えられるか不安もありましたが、引き受けることにしました。8月に、この事件を障害当事者として受けとめた藤井克徳さん、横山晃久さんのお話を聞いて、資料を読み続け、9月に原稿を書き上げました。今週、11月3日に「相模原事件とヘイトクライム」(保坂展人・岩波ブックレット) と題した小冊子になって世に出ることになります。

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事件から3カ月となった10月27日に日比谷野外音楽堂で、集会が開かれました。横山晃久さんから連絡があり、人口89万の自治体首長である私にも、集会での発言を求められました。この数カ月、小冊子に取り組みながら考えてきたことをまとめ、集まった人たちの前で発言することにしました。


「骨格提言」の完全実現を求める10・27大フォーラム
ここでの骨格提言とは障害者権利条約を批准するための国内法整備の準備に向けて、障害当事者や団体、支援者、家族、事業者、首長、学識経験者等55名で構成される「障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会」で、2011年(平成23年)8月に求められたものです。民主党政権の時代につくれた提言です。(参考→http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n364/n364003.html)

私は、久しぶりに日比谷野外音楽堂のステージに立って、次のように語りかけました。

類まれな今回の「事件の残虐性」と、「深夜の障害者施設内の障害者」を大量に殺害するという犯行の一部始終の詳細について、加害者個人の「生育歴」「特異性」に焦点をあてた報道が続きました。しかし、今回の事件は大量殺人・傷害事件としてのみ語られるべきではなく、私たちの社会に残存し、また新たに生まれてきている「優生思想」を徹底的に問わなければなりません。

残念ながら、テレビや新聞等のメディアの報道の中に、今回の事件と、国連・障害者権利条約が掲げている理念について、また障害者差別解消法の施行からわずか4カ月足らずのうちに発生したことについて、どれだけ紹介されていたでしょうか。お寒い限りと言わざるをえません。3カ月前の事件後の報道ラッシュは、今や激減しています。このままでいいのでしょうか。

もちろん、いいわけはありません。テレビのワイドショーはリオデジャネイロのオリンピック・パラリンピック以降は、「豊洲」「オリンピック会場」のふたつ問題を集中的に取り上げていて、「津久井やまゆり園」をふり返る報道は、ほとんどありません。地道な取り組みとしては、藤井克徳さんが70数年前のドイツで起きた「障害者抹殺のためのT4作戦」を取材したNHKのドキュメンタリーが9月末に再放送されたことが印象に残ります。

加害者は、内閣総理大臣や衆議院議長という政治的権威に向けて、「虐殺行為は正義の実現」であるかのように訴え、詳細な手口を予告するような記述も添えた上で、実際に文面通りの事件を起こしました。

私は長い間、永田町・国会で活動してきました。この事件は、「津久井やまゆり園」で起きただけでなく、衆議院・国会議事堂の現場で始まったと見るべきです。国会は、政府は、事件の当事者であるという認識のもと、しっかりと受けとめたでしょうか。

私は、国会にいた経験から、ただちに与野党を超えて「相模原事件」の集中審議を行なうべきだと思います。障害者権利条約を批准し、関連法制を審議し成立させたのは、唯一の立法府である国会です。19人の死者、27人の重軽傷者の犠牲と被害の前に、二度とこのようなことが起きない社会をどうつくるのか、かつて「骨格提言」を作った時のように、障害当事者の声を聞き、政策に反映させていく場をスタートさせるべきだと思います。

相模原事件の真相はまだ不明の点も多く、加害者も鑑定留置中です。捜査の行方を待ってという考え方もあるでしょう。それでも、臨時国会が始まって、補正予算審議の機会もありました。与野党から「相模原事件の集中審議」の提案があったという話も聞こえてきません。かつての国会では、政官財をまきこむ疑獄・汚職事件や大型経済事件等があった際に、たびたび集中審議が行われてきました。真相が解明されているか否かは判断材料ではなく、社会に対しての衝撃や影響を受けとめて、与野党で協議がなされてきたことを思い出します。

障害当事者の方から、今回の事件直後から恐怖に襲われ、外に出ることを控えたとの話を聞きました。集会では、「政治の場に長くいる者として、そのような辛い思いをさせたことに対して、申し訳なく思います」と詫びました。その上で、次のように結びました。

「優生思想」とは徹底的にたたかいます。その根も、見過ごしてはいけないと考えています。差別が意識されず、排除が正当化されていた時代に戻るわけにはいきません。次の世代に、私たちは障害者権利条約の理念をしっかり伝え、 二度と悲劇が起きない社会をつくりあげる責任があります。

世田谷区でも、11月4日午後6時30分より成城ホールでシンポジウム「せたがやで共に生きる」を行ないます。区の障害福祉部が、今年4月に施行された障害者差別解消法の理解が広がるをことをめざして準備したものです。厳しい状況をひとつひとつ乗り越えて、差別の壁をとりはらうために進みたいと思います。

〔参考〕

第1部 講演 テーマ「共生社会に向けた実践と今後の課題」
向谷地生良氏(北海道医療大学教授、ソーシャルワーカー)
久保厚子氏(全国手をつなぐ育成会連合会会長)

第2部 報告とパネルディスカッション テーマ「『せたがや』が目目指す共生社会のありかたについて」
パネラー
向谷地生良氏
久保厚子氏
荻野陽一氏(世田谷区自立支援協議会副会長)
野々村武志氏(区立烏山福祉作業所施設長)
コーディネーター
松本俊一氏(世田谷区自立支援協議会虐待防止・差別解消・権利擁護部会部会長、弁護士)