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移民問題とアメリカ政治の行方 『移民大国アメリカ』著者、西山隆行氏インタビュー

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シノドス編集長・荻上チキ
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2050年までには、白人人口が50%を下回ると予測されるアメリカ。そうしたなか、白人の多数派にアピールするために移民排斥を唱えたトランプが、次期大統領に就任する。人種による分断が進むなか、アメリカはいま移民とどう向き合おうとしているのか。西山隆行氏に話を伺った。(聞き手・構成/芹沢一也)

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2016年大統領選と中南米移民


――本日は、移民からみたアメリカの政治と社会について、西山先生に教えていただきたいと思います。

最初にトランプの大統領選勝利についてお聞きします。白人票に依存するところが大きい共和党は、移民やマイノリティ票が獲得できなければ未来が危ういとしばしば言われます。しかしながら今回、トランプは白人にアピールするために移民問題を争点化しましたね。

2016年大統領選挙で移民問題が争点化されたことは、多くの人にとって驚きでした。

移民問題は、基本的には党派を横断する争点で、民主・共和両党ともに、移民受け入れに積極的な人々と消極的な人々を抱えています。今日のアメリカでは、1100万人を超える不法移民が存在していて、何らかの対応が必要なのはコンセンサスになっていますが、立法を行うためには超党派で呉越同舟的な連合を形成しなければなりません。そのためには、大統領選挙でこの問題を争点化するのは得策でないと考えられていました。

なかでも、共和党主流派は移民問題を争点化したくないと考えていました。というのは、近年のアメリカでは共和党の白人政党化が進んでいて、マイノリティからほとんど票をとることができていなかったからです。

アメリカではマイノリティ人口が増大しつつあり、2040年代のいずれかの段階で、中南米系を除く白人の人口が過半数を下回ると予測されています。

もちろん、今日のアメリカの有権者の7割以上を白人が占めているので、今回の大統領選挙だけを考えればマイノリティ票を捨てて白人票獲得を目指すという戦略もありうるのですが、党の長期的な利益を考えれば、マイノリティ票を徐々に獲得できるようにしたいというのが共和党主流派の立場でした。

それに対してトランプは、党に忠誠を尽くしておらず、今回の選挙のことだけを考えていたので、この問題を争点化することができたといえるかと思います。


――短期的にのみ有効な戦略だった、ということでしょうか?

評価が難しいところです。というのは、私が『移民大国アメリカ』で想定していたのとは少々違う現象が発生したからです。

当初は、トランプが勝利したとしても、移民問題をめぐってトランプと共和党主流派の間で紛争が起こるのではないかと予想していました。ご指摘通り、短期的にのみ有効な戦略であって、共和党主流派にとっては大打撃になると思っていたからです。しかし、必ずしもそうとも言えないかもしれません。

じつは、トランプがあれだけ中南米系に対して批判的な発言を繰り返したにもかかわらず、中南米系の民主党に対する投票率はむしろ下がっているのです。中南米系が民主党に票を投じた割合は、2008年の67%、2012年の71%と比べると低く、今回の選挙は65%となっています。これは、驚くべきことです。


――この数字をどう読み解けばよいのでしょうか?

トランプの言動がアメリカ社会を分断したのは間違いないことですが、じつは中南米系の人々が一枚岩にまとまっていない、ということが今回の選挙では明らかになったのかもしれません。不法移民に対して不満を持つ中南米系有権者が、一定程度、存在していた可能性が高いのです。

たしかに、共和党を支持する中南米系が増えつつあるのではないか、という指摘は、時折なされていました。

たとえば、ピューリサーチセンターが2016年6月に実施した調査によれば、バイリンガルかスペイン語のみを話す中南米系のうち、クリントンを支持するのは80%、トランプを支持するのは11%だったのに対し、おもに英語を話す中南米系については、クリントン支持が48%、トランプ支持が41%となっていたからです。

クリントンは中南米から多くの支持を得ているとはいえ、移民第一世代と、スペイン語を話す中南米系からの支持の高さがその大きな要因であり、その他の中南米系のなかにはトランプを支持していた人が、思いの外含まれている可能性があります。この理由については以後、調査しなければなりません。

しかし、たとえば苦労して正規の手続きを経て、合法的な地位を得ることに成功した中南米系の人のなかには、既存法規に反してアメリカ国内で活動する人々のせいで、自分たちまでもが差別の対象となっていると考えている人がいます。そのような人のなかに、不法移民を国外退去処分にするというトランプの立場を支持する人がいた可能性もあります。

このように考えれば、民主、共和両党ともに中南米系の票を獲得するための戦略を変化させる可能性があり、これがアメリカ政治を今後どのように変化させるかには注意が必要だといえます。今回の選挙結果を踏まえて、アメリカのエスニシティをめぐる政党政治のあり方がラディカルに変わる可能性があるかもしれません。


――トランプが集めた白人票は、実際は歴代の共和党大統領に比べて振るわなかったとのことですし、ヒラリーは300万票近くトランプを上回り、落選した候補としては過去もっとも多くの票を集めました。選挙戦後によく言われていた、トランプの地すべり的大勝利やヒラリーへの根強い嫌悪というのとは、だいぶ様子が違いますね。

今回の選挙では、多くの人が選挙結果の予測を誤りました。しかし、大統領選挙は州ごとに戦われることを考えると、実際予測が間違っていたのは、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルヴェニア、フロリダなどごく一部の州だけです。しかも、それらの州でのトランプとクリントンの得票率の差は1%程度で、ごく僅かです。

選挙直前にFBIのメールの再調査問題が浮上していなければ、クリントンが勝っていた可能性はやはり高いと思います。


――メール問題の再調査は大きかったんですね。

クリントンが勝っていた可能性も高かったとなると、トランプの勝利はアメリカ社会に生じているラディカルな変化の表れだとは、あまり考えないほうがよいのでしょうか?

メール問題が争点化されたのは、本選挙の11日前でした。アメリカは一度の選挙で、大統領のみならず連邦議会の上下両院、さらに地域によっては学校区の選挙なども含めて膨大な量の投票をする必要があるので、投票日に投票に行くと、二時間待ち、三時間待ちというのはざらにあります。

それを避けたい人のなかには、期日前投票に行く人が多いです。そうした理由もあり、選挙の60日前を過ぎると、FBIは候補者について争点化しないという内規があります。にもかかわらず、期日前投票が始まっている段階で、内規を破ってまで争点化されたことは、有権者に悪印象を与えたと思いますね。

私の基本的な評価は、トランプが勝ったというよりもクリントンが自滅したということです。クリントンは歴史的大勝を目指して、伝統的に共和党が勝利するとされていたようなユタ州やジョージア州でも勝利できるよう、それらの州を中心に活動していました。

その結果、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルヴェニアなど、民主党の勝利が確実だとされていた州での選挙キャンペーンを怠りました。中南米系の票についても獲得がほぼ確実という判断で、白人票の上積みを狙っていたように思います。クリントン陣営の戦略ミスだと言わざるを得ません。

移民受け入れをめぐるアメリカとEUの差異


――アフリカや中東から100万人を超える難民が流入し、ヨーロッパ諸国は上を下への大騒ぎとなりました。他方、アメリカには毎年100万人程度の合法移民が入国し、それに加えて不法滞在者が1000万人を超えています。

素朴な質問なのですが、アメリカはなぜこれほどの移民を受け入れることができるのでしょうか? ヨーロッパ諸国のように移民を禁止しようという議論にならないのはなぜなのでしょうか?


アメリカはもともと「移民の国」としてのアイデンティティを持っていることもあり、毎年一定程度の移民や難民を受け入れるのは当然だというコンセンサスがあるように思います。

移民については、高度技能を持っている人や、離散家族の受け入れについて、他の国と比べればかなり積極的だと言えます。政治でおもに争点になっているのも、移民問題と言いながら、じつは不法移民対策です。もっとも、これは連邦政府と州以下の政府の間で温度差があることに注意する必要があります。

EUとアメリカの大きな違いとして、社会福祉の問題があります。移民にせよ難民にせよ、社会に定着してもらわなければなりませんが、そのためには一定のサービスが必要となります。ヨーロッパの場合、移民や難民を社会に定着させるための福祉関連支出が大問題になっています。

しかし、アメリカに関しては、日本の生存権に当たるものが、合衆国憲法から当然に導き出される権利とは位置づけられていません。1996年のクリントン政権による福祉改革の結果、移民は公的扶助を受給することができなくなりました。

したがって、アメリカの移民については、福祉などの社会支出に関しては、基本的には連邦政府は提供しないのです。

――連邦政府は移民を受け入れるだけで、移民の生活に責任をもたされるのは州政府や地方政府だと。

そうです。アメリカにやってきたばかりの人が様々なサービスを必要とするのは当然ですよね。ところが、連邦政府は何もやってくれないため、州政府と地方政府が具体的なサービスを行わなければなりません。

ですので、アメリカの場合は連邦政府が移民受け入れに積極的な場合でも、州以下の政府が消極的な場合があります。

逆に、連邦の政治家が気楽に移民批判をして、たとえば不法移民への厳格取締りを求めたりしても、実際に移民に直面しなければいけない地方政府の人たちは、波風を立てず、取り締まりをしたがらないという場合もあったりします。

アメリカのなかでも、移民が多いニューヨークやカリフォルニアではかえって移民問題が争点になりにくいのは、争点化を避けようとするからです。

他方、移民に批判的な発言をするのは、むしろ移民が多くない地域出身の政治家です。彼らは、移民の実態を知らない人たちに対して、抽象的な脅威としての移民問題を訴えることで、社会に漠たる不安を感じている人たちの支持を得ようとします。

そのような政治家に影響されて、移民とのもめ事があまり発生しない地域の人々(移民によって職を奪われるなどの恐れがほとんどない人)の方が、移民に対して批判的で、トランプを支持したりしていたりするのです。


――いわゆる「体感治安」と同じ理屈なんですね。

もうひとつ、EUの難民問題との違いという点で重要なのは、アメリカはイスラム教文化圏とは陸続きになっていないので、ムスリムの難民がやってくるのが難しいということかもしれません。

EUの場合は陸続きで、トルコからバルカン、そしてドイツへという経路で、中東やアフリカから難民がやってきますが、アメリカの場合は海を越えなければならないので、中東からの受け入れ数は非常に少ないのです。

――なるほど、EUの場合、移民や難民問題はイスラム問題でもあるわけですね。

移民に対する反発の背景として、治安の問題がありますが、アメリカでも911テロ事件以後、米墨国境地帯を超えてテロリストが入国するのではないかという議論がなされました。実際に、そのような脅威を煽る政治家も存在しました。しかし、それが実体としてほとんどいないことは、多くの有権者にとって明らかなので、EUとは反発の仕方が違うのかと思います。


――他方で、移民の社会統合のために、アメリカ的な理念を教育する公式の制度はないんですよね。

アメリカでは、国境管理政策は連邦政府が実施していますが、それ以外の教育や社会福祉などのサービスは、州以下の政府が実施しています。具体的に何をやっているかというのは、じつは地域によってバラバラになっています。

とくに、教育に関する問題は重要なのですが、アメリカでは、日本の教科書検定のようなものはありません。そもそも、子どもが教育を受ける権利はあるとされていますが、それは学校に行かなければならないという意味ではないので、自宅で教育を行うことも可能です。学校に通う場合でも、アメリカでは学校区の長を選挙で選んだりすることもあります。

このようななかで、どのような教育を行うかは大問題となります。

白人の人たちは、英語を使ってアメリカ文化を教えてほしいと思っています。しかし、マイノリティが集中している地域の中南米系の親などは、スペイン語で教育を行うことを希望したりしています。そうなると、実際の社会統合に困難をきたす可能性もあります。

また、州以下の政府が具体的な教育内容を決めなければいけないのですが、州や地方政府にはそのようなことをする能力が十分に備わっていない可能性もあり、これが、サミュエル・ハンティントンらがアメリカ社会の分裂を危惧するようになった背景にあると言えます。

不法越境する移民と犯罪取り締り


――不法移民を防ごうと国境警備を強化することで、「コヨーテ」のようなプロフェッショナルによる密入国斡旋産業が興隆したというのは皮肉な結果ですね。

アメリカと中南米では圧倒的な経済格差があります。サンディエゴなどで定められている一時間の最低賃金は、メキシコの平均的労働者の一日の給料に匹敵すると言われています。このような経済格差がある以上、コヨーテと呼ばれるような密入国斡旋人に頼んで不法越境を試みる人がいても不思議ではありません。

コヨーテによる不法越境は、査証の偽造やオーバーステイを助言するなどの方法を除けば、横断が困難な砂漠地帯を越境するとか、トラックの荷台に人を詰め込んで越境するという方法が多いです。米墨国境地帯は気候が悪く、夏には摂氏50度近くなることも多いので、健康や生命に甚大な影響を及ぼす可能性も高いです。

コヨーテが不法越境者からとる手数料は、取り締まりリスクが高くなるに伴って高くなります。しかし、たとえ手数料が高くなっても、不法越境を試みたい人は当然存在するので、コヨーテの取り分はどんどん増えていきます。


――麻薬の取り締まりと一緒ですね。

そうですね。麻薬取り締まりが厳格化されると麻薬の末端価格が上昇するけれども、中毒になっている人は価格が上昇しても麻薬を使い続けるため、結果的に密売人や犯罪組織の利益が増えるというのと同じような現象です。取り締まり強化策の悲劇的な帰結だといえます。

さらには、コヨーテを介する越境が大変だというのは不法移民にはわかっているので、いったん入国した人々は、出身国に帰るよりはアメリカ国内で密かに生活し続けることを選ぶ可能性が高くなったとも言えます。

国境警備厳格化政策の結果、従来ならば出身地域に帰った可能性のある不法移民が、アメリカ国内で滞留し続ける結果になったのは、これもまたある意味悲劇です。


――そして、トランプのような政治家が移民排斥を煽っています。

トランプは不法移民は犯罪者だと言っています。しかし、これは実態を反映しているとは言えません。たしかに出入国管理に関する法律違反(行政法違反)はしていますが、一般の人が思い浮かべるような犯罪に着手する人は少ないのです。

移民、とりわけ不法移民の人々は、アメリカ国内で罪を犯せば強制退去処分になる危険があることを理解しているので、罪を犯さないように努めます。一旦強制退去処分になると、再入国することが難しくなるからです。

むしろ、逆に犯罪被害にあっても、訴えると不法滞在がばれてしまうので、訴えることができず泣き寝入りせざるを得ないことも多いとされています。不当に安価な賃金で働かされている人々が泣き寝入りしているのも、同じ事情によるといえます。

もちろん、移民が何ら罪を犯さないということではありません。移民を含めて、経済的に困窮している人が犯罪行為に着手せざるを得ない状況になり、その犯罪行為を正当化しようとするインセンティブを持つのはおそらく事実です。食うに困った人が盗みを働いたりするのは、まさに背に腹は代えられない状況だといえるかもしれません。

日本でも、外国人犯罪の問題が、しばしば実態から離れて過大に論じられることがありました。しかし、いま述べたようなことを考えると、不法移民は横に置くとして、合法移民についてはアメリカ社会に問題なく定着することができるように、各種社会サービスを提供する方がむしろ合理的ではないでしょうか。

また、移民が罪を犯すとしばしば指摘されるのは、移民が多数居住している地域の文化が他の地域とは異なっているため、移民居住地域を訪れた人々が不安を感じていることによる面もあると思います。そうした点を考えても、移民をコミュニティのなかに統合していく方法を考えることが、重要な意味を持つのではないかと思います。


――移民を犯罪化することで、それを摘発するための警察力の強化がなされ、また収監者の増加に利益を見出す民間刑務所が、さらなる取締りの強化を働きかけるなど、なかなか社会統合の方向には向かわないですね。

その通りです。ただし、それは状況が変わる可能性も、ひょっとするとあるかもしれません。

2010年代になってから、ティーパーティが影響力を増大させるようになると、警察や刑務所に対する予算の増額が問題だという議論が州レベルで展開されるようになりました。

じつは、その議論の中心になっていたのが、元テキサス州知事のリック・ペリーや、元下院議長のニュート・ギングリッチでした。彼らは、犯罪対策を厳格化し過ぎるのがまずいという議論を、2015年にはし始めていたのです。


――その結果、民間刑務所や移民収容施設を運営する企業が不振に陥っていたのが、トランプの勝利によって息を吹き返すかもと報道されていますね。

今年の大統領選挙でトランプが「法と秩序」という、昔ながらの議論を持ち出してきて、ルドルフ・ジュリアーニやクリス・クリスティなど、検察官出身の、犯罪対策強化派を重用するようになったからです。それを受けて、ペリーやギングリッチも、トランプにおもねるような形で犯罪対策強化をふたたび言い始めました。

ただ、トランプが国民から一定程度の支持を得ているあいだは、ふたたび警察権力の増大などがみられるかもしれませんが、トランプの信頼が大幅に低下するようになると、また風向きがわかるかもしれません。


――ちょっと面白いのは、ティーパーティにとっては、警察や刑務所予算の増大も大きな政府を意味するんですね。

ティーパーティというのは雑多な集団なので一概には言えないのですが、無駄な支出を削減したいと考える人は多いと思います。ニューディールの社会福祉政策は弱体化しましたが、今日では刑事司法予算が圧倒的に大きくなってしまっていますからね。

ある論者に言わせれば、20世紀後半のアメリカは福祉政策の拡充を目指すニューディール型国家だったのが、最近のアメリカは犯罪対策強化を目指すクライムディール型国家となっていて、福祉に支出されていた予算が今は刑事司法関係の支出に回されているというのです。

アメリカ二大政党と中南米系移民


――共和党は白人の政党、民主党はマイノリティの政党だと言われますが、実際はもっと複雑だというのが、ご著書を読んでよくわかりました。

民主党のなかでは、移民がアメリカを作ってきたのだと信じている人や移民出身者がある程度存在し、彼らは移民に好意的な立場をとります。

しかし、民主党の支持母体のひとつである労働組合などは、移民に対して批判的な立場をとります。移民が低賃金で働いてしまうことは、アメリカ人の労働者の賃金を低下させる可能性もあるからです。

共和党の方には、トランプのように徹底的に移民を批判する人もいますが、その一方で、企業経営者などは安い賃金で働いてくれる移民を好んで受け入れようとする人もいます。冒頭で、移民問題は党派を横断する争点だと言いましたが、民主党、共和党ともに、移民に好意的な人、批判的な人の両方を抱えているということです。

このような事情で、近年のアメリカでは移民をめぐる政治が動きにくかったのですが、最近では労働組合の組織力、影響力が低下してしまいました。そのため、民主党内で彼らの発言力は弱くなってきています。

そして、従来は労働組合に入って民主党を支持していた、移民に批判的な人々、とりわけホワイト・エスニックと呼ばれるような人々が、マイノリティを重視し過ぎる民主党から距離を置き、今回の選挙ではトランプを支持するようになったということだと思います。


――リベラルの民主党、保守の共和党というイメージが強いからだと思いますが、アメリカの政党はヨーロッパのように、共産主義や保守主義などの明確なイデオロギーに基づいて組織されていない、というのもとても意外でした。

まず、ヨーロッパの政党とは違い、アメリカの政党は綱領政党ではありません。アメリカの政党は、伝統的に討議拘束(政党規律)が弱いです。

それは、政党が候補の公認権を持たず、候補者が予備選挙や党員集会で選ばれること、また、議院内閣制の国では与党が首相を支えなければならないのに対して、大統領制の国では立法部が行政部を支える必要がないこと、などが大きな理由になっています。そうであるがゆえに、トランプと共和党主流派で意見の一致を見ないということが発生するのです。

アメリカの政党の大きな特徴は応答政党であることです。首尾一貫したイデオロギーや理念に基づいて政策を実現しようとするよりも、むしろ、選挙区内の有権者から出された個別具体的な要求にできる限り応答しようとするところが特徴になっていると言えます。


――そうした関係性にあって、エスニック・ロビイングはアメリカ国民の政治参加の度合いの高さを示すものであり、寄付は政治的意思表明、表現の自由の一種として擁護されているわけですね。

そうです。アメリカの政党が応答政党としての特徴を持つため、利益集団はロビイングを積極的に展開しようとします。アメリカの政党は、各種団体の要求に耳を傾けようとする傾向が強いからです。

アメリカには様々なエスニック集団が存在するので、エスニック・ロビイングも活発に展開されます。ユダヤ系やキューバ系によるロビイング活動は有名でしょう。

そして、政党が必ずしも強固な組織力を持っておらず、様々な利益集団の要求を巧みに調整することができるわけでもないので、利益集団の方で自発的に社会的な連合と言いますか、協力関係を作ろうとすることも多いように思います。


――日本人がもっているデモクラシーのイメージとはだいぶ違いますね。

日本では選挙を行い、その結果に従うことがデモクラシーだという認識が強いかもしれません。しかし、選挙は数年に一度行われるだけであり、有権者がその一票にどのような意味を込めたかはわかりません。

一方、利益集団は日常的に政治家や官僚に対して自分たちの利益関心を主張することができます。アメリカでは伝統的に、何らかの利益関心を持っている人が(場合によっては集団をつくって)、その利益関心の実現を主張するのが当然だという認識があります。利益集団の声に耳を傾けることは、デモクラシーの重要な要素だと考えられていると思います。


――そこでお聞きしたいのですが、投票行動において、はたして「中南米系」や「ヒスパニック」というカテゴリーが機能するのでしょうか? 「白人」というカテゴリーが一枚岩ではないのと同じように、教育程度や経済条件のほうが、エスニシティよりも強い境界線になりうるのではないでしょうか?

非常に重要なご指摘をいただいたと思います。中南米系の人を一枚岩的にとらえることには大きな問題がありますが、その一方でその必要性もあると思われます。

まず問題点という点では、中南米系のなかでもキューバ系の人は伝統的に共和党支持の傾向が明確です。カストロ政権に対して、共和党の方が強硬な態度をとってきたからです。

今回の選挙で、フロリダ州でトランプが勝利した理由のひとつに、オバマがキューバとの交渉をしてしまったことに対する反発があったともいわれています。もちろん、キューバ系のなかでも第二世代の人などは、社会経済的な観点から民主党を支持する度合いが、第一世代よりは強いと言われていますが。

その一方で、中南米系をまとめて考えることに一定の意義があるのも、少なくとも今は事実かと思います。というのは、州以下のレベルの選挙では、中南米系有権者は、中南米系候補が存在すれば、党派に関係なくその候補を支持する度合いが高いとされているからです。

もっとも、このような現象は過渡的な現象かもしれませんし、州以下のレベルでいま述べたようなことが起こっているからといって、連邦レベルでも同様のことが発生するかはわかりません。その意味で、中南米系というカテゴリーが機能し続けるかどうかは、評価が難しいところかと思います。

2016年の大統領選挙で、共和党主流派は、キューバ系のマルコ・ルビオを大統領候補にしようと努めていた時期がありました。アメリカでインタビューを行っても、ルビオが共和党候補になれば、中南米系の票が相当共和党の方に流れて、アメリカの政党政治のあり方が大きく変わるのではないかと言う人が多かったようです。

今日、中南米系の人は多様性を増大させているにもかかわらず、基本的にはアイデンティティ・ポリティクスの次元で勝負しているように思います。これは黒人と同様です。

黒人も、実際にはイデオロギー的にリベラルな人から保守の人まで存在するのですが、選挙のときには大半の人が民主党に投票します。それは、1960年代にゴールドウォーターが黒人に批判的な言質を繰り返す一方で、民主党のジョンソンが公民権法を推進したからだと言われています。

中南米系については、黒人の公民権法ほどの一体感を持たせるような集団体験を持っているわけではありません。その意味で、中南米系の人は黒人よりは党派的な投票行動をせず、投票先を変える可能性はあります。共和党主流派はそのあたりを念頭に置いて行動していたと思いますが、その試みをトランプがつぶしてしまいました。


――今後の行方はいかがでしょうか?

もし、今回の選挙でトランプが歴史的な大敗を喫したりしていれば、中南米系も民主党と強固な関係を築くことになったのかもしれませんが、トランプが勝利したので、予測が難しくなったと言えます。

トランプも、実際に政権運営をするようになると中南米系に配慮するようになるのではないかと言う人もいました。しかし、今の段階では、組閣の状況を見ても、あまり中南米系などのマイノリティに配慮をしているとは思えません。

ただ、今回の選挙でもある程度、中南米系の票が割れたというのは重要かと思います。中南米系の人も、ホワイト・エスニックと同様、時間はかかっているけれどもアメリカ社会に同化するようになっていて、彼らも多様な利害関係を示すようになっていることの表れでしょう。

かつては民主党に投票していたアイルランド系やポーランド系などのカトリックの人々は、レーガン政権以降、共和党の強い支持基盤になっています。中南米系についても同様のことが起こる可能性は考えられるかと思います。ただし、それを実現するための方法を共和党がどのように作り出していくかが、今後のアメリカ政治のポイントになるように思います。

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西山隆行(にしやま・たかゆき)
比較政治、アメリカ政治

1975年神戸市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。
甲南大学法学部教授を経て、現在、成蹊大学法学部政治学科教授。

主な著書に、『移民大国アメリカ』(筑摩書房、2016年)、『アメリカ政治』(三修社、2014年)、『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会、2008年)など。

(2017年1月10日 「SYNODOS」より転載)