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「仕事と家庭の狭間で男も悩んでる」男性学・田中俊之さんに聞く"夫婦のコミュニケーション"

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TANAKA
Yuko Soma
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男性だからこそ抱えてしまう問題を扱う「男性学」の研究者、武蔵大学社会学部助教の田中俊之さん。子育て中の夫婦間でのすれ違いの原因となる、「男性が家事育児を自分事として認識していない」理由や、役割分担における夫婦の上手なコミュニケーション法を聞いた前編に続き、後編では現代の男性が抱える葛藤や、これからの働きかたのヒントについて聞く。

■よかれと思って言ったことが、夫たちを傷つけている

男性は子供の頃から競争するように育てられており、何事も周囲と比較して見栄を張りやすい生き物であることを前編で聞いた。それをふまえると、女性がよくありがちな「誰々のご主人は、保育園の送り迎えを毎日してくれるんだって」といった、“友人の夫はこうしている”という話題は、男性を傷つける行為なのではないか。

「男性に言ってはいけないことでいえば、これはかなりショックが大きい部類ですね。競争原理の中で生きている人に対して、妻という自分を一番理解して評価してくれているであろう人から、誰かと比較された挙げ句に『あなたは劣ってますよ』と言われるわけです。人より優れていたいという男性の見栄を一番傷つける行為ですよね」

妻は、1つの情報として「こうやって頑張っている人もいるよ」といっているだけで悪意は無いことも多いが、男性はポジティブな情報としては捉えないようだ。もし女性が逆にこのようなことを言われても、そこまで傷つかないだろうが、この感情は男として育てられていないと理解できないものらしい。

■真逆な男性像を同時に求められても実現不可能

さらに、もうひとつ男女間のコミュニケーションでよくいわれる“言わなくても察してほしい”という問題。恋愛の記事などでも、よく取り上げられるテーマだが、田中さんいわく「エスパーでも無い限り、男性には無理です」とのこと。

「女性が考える『察することができる男性』とは、おそらく“普段”は優しいけど“イザというとき”に重大な決断をしてくれる男性ということですよね。例えば、こちらが好意を示したら、それを察して男性から告白して欲しいとか。でも、現代の女性はおそらく、“イザというとき”に出して欲しい男の部分を、“普段”から出されるのは嫌なんですよね」

「現代では、“俺について来い、みたいな男”は、あまり求められていないですよね。『今がイザだ!』って思って男らしい一面を出したら『そんなにマッチョな人だと思わなかった』って幻滅されてしまいそうですし」

確かに、女性にとっては、男性が先回りして何かをして、間違ったことをされると、希望を察してくれない以上にイライラするのは事実だ。

「だから、今の男性は、“イザというとき”に察することよりも、“普段”から相手を不快にしないように、優しくすることをベースに生きているので、その2つを両立するのは、大変不可能なミッションだと思います(笑)。男女が話し合うには、察するとか察しないとかではなしに、きちんと言葉でコミュニケーションを取ったほうがいいのではないでしょうか」

女性の立場からすると、不満を伝えたつもりが「また怒ってる」と思われるのは避けたい。しかし、なかなか理解してくれない男性に何度もこちらの意図と伝えるのは面倒なことで、言わなくてもやってくれると嬉しいなという淡い期待があるのは事実だ。

「言いにくいことを言葉で伝えないことによって、問題を深刻化しているだけだと思うんですよね。男性にとっては『それくらいのことなら、早めに言ってくれればよかったのに』ということはよくあります」

「溜め込んでいたことを、急に言われたほうからすると、何でこんなに怒ってるの? となるし、不満が溜まった段階なので、ものすごく感情的に切れられちゃったりするわけです。だから、その都度いわれたほうが、お互いに交渉のしようがあるので、問題は解決されると思います」

■仕事第一か家庭優先か、2つの価値観の狭間で苦しんでいる

ところで、今まで「仕事が第一」と思っていた男性の意識が、根本的に変わることはあるのか。妻がひとりで家事育児を主に担っているような場合、男性の意識が変わる有効な手段はあるのか?

「そもそも今日本の男性は、何かモヤモヤしていると思うんです。自分の生きかたはこれでいいのかな、っていう漠然とした不安を抱えています。それは彼らに対して相矛盾する2つのメッセージが送られているからです」

「男性は、一生働き、家族を養わなければいけないと思っています。しかし今は、正社員という立場は不安定です。一方で、世の中では、長時間残業をやめてワークライフバランスを考えようとか、イクメンとして家事育児に関わろうということがいわれています。男性にとっては、家庭を支える責任感を持ちながら、不安定な雇用のなかで、働きかたも変えるのは、簡単なことではありません」

そもそも、「男は良い学校を出て、良い会社に入り、一生働いて家族を養うべし」という考えかたは、戦後の高度経済成長期に、終身雇用や年功序列で賃金が保障された社会において広まったもの。それ以前は、労働は家族全員で担うものであり、「主婦」は一部の上流階級にだけ許された存在だった。

その後、アメリカのホームドラマが多く輸入されたことなども影響して、父は外で働いて、母は専業主婦になるのが理想の家庭像として広く認識されたのだという。今の60代、70代は、その時代に子育てをしたため、その価値観のもとで育った今の子育て世代にも、その価値観が受け継がれているのだろうと、田中さんは語る。

「幼い頃からの価値観を変えるためには、家族の指摘くらいでは変わりませんね。例えば、本を読んだり、講演会に参加したりするなどして、自分が今置かれている状況を、第3者の立場から客観的に説明してもらうのが効果的だと思います。自分を振り返りながら、これからどんな生きかたがしたいのかを考えることが必要ではないでしょうか」

最近では、男性の生きかたに関する田中さんの講演会には、20代の若者から、団塊世代まで、幅広い世代の男性が参加するという。男性の意識が変わるには、社会も多様な働きかたや、多様な家族のありかたを認めることも大切なことだと田中さんは語る。

「今一番問題なのは、男性が仕事との関係の中でしか、自己肯定感を得られないということですよね。仕事から離れたときに居場所を作ることができない、そのことが、男性の多様な生きかたを阻害する原因の1つとなっているのでしょう」

「例えば、もし男性が平日の昼間に、公園で子供と一緒にいたら、仕事してないのかと疑問に思う人も多いと思います。そういう社会も変わっていかなければならないと思います。家族がどうあるべきなのかも、その家々によって違いますし、できることとできないことにも違いがありますから、あまり人と比べて振り回されないことが大切かと思います」

今の日本では、男女が共に働きながら子育てする家族のモデルケースは、まだ確立されていない。これからの家族のありかたを個人個人が模索していくのは非常に難しい。しかし明らかに、少しずつ社会が変化しているのは事実だ。

社会制度の充実とともに、子育て世代も、お互いの違いを理解しながら対話していくことによって、新しい夫婦や家庭のありかた、これからの働きかたを学んでいくことが大切だろう。

(相馬由子)

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