クラウドファンディング成功には「腹をくくる覚悟」〜 捕鯨問題を描くドキュメンタリー映画監督・佐々木芽生さん

2016年02月07日 23時29分 JST
The Huffinton Post

水族館の人気者といえば、イルカ。ダイナミックなパフォーマンスや、好奇心旺盛で愛嬌のあるしぐさは、いつも私たちを楽しませてくれる。

イルカやクジラなどのいわゆる“鯨類”は、こうした観賞用だけではなく、日本では食用としても親しまれている地域がある。イルカの追い込み漁を古くから行っているのが、“捕鯨の町”といわれる和歌山県太地町だ。その目的は、観賞用、食用、生態調査用などさまざま。

一方このイルカ漁をめぐり、世界からは反発の声が上がっている。現在も、国際的な論争を続ける「捕鯨問題」をテーマに、ドキュメンタリー映画を撮っているひとりの映画監督が、佐々木芽生さんだ。

佐々木監督は映画の制作にあたって、朝日新聞社が運営するクラウドファンディングサイト「A-port」(エーポート)で制作資金の一部を集めた(応援期間は終了)。目標額1500万円を大きく上回る2325万円の資金を調達している。なお、映画は現在制作中。完成前でありながら、期待と注目度の高さが見てとれる。

佐々木監督が「A-port」で資金を集めたのはなぜか? 太地町のイルカ追い込み漁が、世界の反捕鯨国から大きな批判を浴びる中、この難しいテーマで映画製作に挑んだ決意とは? 佐々木監督に話を聞いた。

佐々木芽生(ささき めぐみ)

フリーのジャーナリスト、NHKのキャスター、レポーターなどを経て、ドキュメンタリー映画の監督、プロデューサーに。 初監督作品『ハーブ&ドロシー 』(2008年)では世界30を越える映画祭に正式招待され、最優秀ドキュメンタリー賞、観客賞など多数受賞。続編にあたる『ハーブ&ドロシー2〜ふたりからの贈りもの』(2012年)では、クラウドファンディングによって当時の日本での最高額1463万円を調達し完成後は、日米他世界各国で広く劇場公開された。1987年以来NY在住。

映画を撮りながら、答えを探す旅をする

——数ある映像表現の中で、佐々木監督はなぜドキュメンタリー映画を?

やっぱりリアルな世界の、リアルな人間の話が一番おもしろいと思うからです。

もともと映画好きで映画監督になったわけではないのです。報道の仕事に携わっていくうちにジャーナリストになりましたが、テレビ報道的なニュースの伝え方とは違う、人の心に深く残るものを作りたかった。その答えがドキュメンタリー映画だったのです。リアルな人間のリアルな話をどう伝えるべきかと、今も勉強中です。

——アート作品コレクターのご夫婦の活動を取材した前作「ハーブ&ドロシー」と、今回は題材が大きく変わりました。作品のテーマはどのように決めているのでしょう?

気になっても、しばらく経つと忘れてしまうような題材は映画にはなりません。頭から離れないほど気になってしかたがないってくらい、気になる人やテーマがあって、自分がその真実を知りたくてたまらないときが出発点です。ドキュメンタリーを撮りながら、その答えを探す旅をしているような。

——それが今回は捕鯨問題だった。

私はニューヨークで30年近く暮らしてきました。反捕鯨国であるアメリカでは、この問題についての運動や、日本への批判の声に触れることがたびたびあったので、以前から気になっていました。

今は“クジラやイルカは貴重な動物だから、守らなくてはいけない”それが欧米では一般的な考えです。でも400年も昔から、伝統的に捕鯨をしてきた日本の小さな漁村が、世界中から非難の的に晒されていることには、違和感を覚えました。私は映画を作ることで、この問題について考えたいと思いました。

クラウドファンディングは民主的に支援を集められる

——「A-port」の支援者からは、どのような声が寄せられましたか?

SNS上ではこれまで、海外の活動家らから私へのバッシングや嫌がらせは少なからずありました。血に染まった海や、死んだイルカの写真が投稿されたりもしました。そうした投稿に対して「どんな人でも、賛成・反対の声を聞く権利があるでしょう? あなたのやり方は偏っています」と反論してくれた人もいました。コメントは今でも消さずに残してあります。

そんな中、A-portでは、好意的な応援コメントばかりでありがたかったです。

捕鯨に賛成、反対、そのどちらでもない方からも支援が集まりました。アメリカやオーストラリアなど、反捕鯨国に住んでいる日本人から「いつも悔しい思いをしています。がんばってください」といった声も。それが私の映画作りのエネルギーになっています。

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——テーマがセンシティブだと、企業からのスポンサードが得難い?

実際、それもあると思います。

企業だけではなく、個人でも……。ですから、クラウドファンディングで支援を募ることにも、はじめは懸念があったんです。インターネットの拡散力は素晴らしいけれど、捕鯨問題を発信することで、バッシングを受けるのではないか? それを恐れて広まらないのではないかと。

——結果的に、目標を超える支援を得られたのはなぜだと思いますか?

賛成でも、反対でもなく、そのどちらも尊重することを伝えられたからだと思っています。クラウドファンディングはもっとも民主的に資金を集められる方法です。今回のテーマ(捕鯨問題)にはマッチしていたように思います。

A-portは朝日新聞社が運営しているサービスなので、新聞社とクラウドファンディングの化学反応を期待した部分もあります。実際に、朝日新聞の記事で取り上げていただく機会があり、記事を見てくださった企業からの協賛が決まるなど、その反響の大きさは、当初の期待を超えるものでした。

——A-portならではの科学反応があった。

ジャーナリズムを追求する朝日新聞のサイトですから大きな社会性が出てきますよね。さらに、多数のメディアがこの取り組みについて取材し、記事で紹介してくださいました。産経新聞の記者は記事にサイトへのリンクまで貼ってくださって……。新聞社としては競合に当たりますが、メディアの枠を超えて取材していただけたことがうれしかったです。

朝日新聞社は、センシティブな捕鯨問題を扱うことで、騒がれたとしても受け止める覚悟の上、A-port立ち上げの企画のひとつに選んでくれました。A-portを運営している皆さんが「このテーマやらないでどうするの?」っていう熱量を持った方たちでした。そこはすごく思い切ってもらえたと、感謝しています。

支援を募る際には、適切な言葉選びや発信方法、メディアへのアプローチまで、貴重なアドバイスをいただけたことが幸いでした。A-port は、資金調達のためのプラットフォームを超えて、社会に変革を起こすパワーを秘めた「発信基地」にもなり得るのではないかと期待しています。

賛成でも反対でもない。公平な立場で伝えたい

——捕鯨問題に対する日本人の賛否はどうなのでしょうか?

賛成派、というか“反対ではない”という人が多いです。日本人のイルカ・クジラ肉の年間の摂取量は平均30g、ハムのスライス1枚程度なんです。でも 「自分は食べないけど、食べる人がいる限りそれを尊重するべき」との考えが日本人には多い。

一方反捕鯨派にとって、イルカは可愛くて賢い特別な生き物です。よく言われる「イルカの賢さ」の背景にあるのは、「イルカの自己認識能力」つまり自分の姿を鏡で見て自分とわかる能力です。反捕鯨国の欧米では広く知られていますが、日本でも同じ考えで捕鯨に反対する人も多いかと思います。

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——反捕鯨をテーマに描かれ、2009年に公開されたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」を観て感じたことは?

率直な感想としては、ストーリーテリングが見事で映画としての仕上がりが良い。それだけに、この映画が世間に与えるインパクトは計り知れないだろうなと感じました。

私は、メインストリームのメディアが取り上げない問題や大きな権力に対して、違う視点でカメラを向けることがドキュメンタリー映画であるべきだと思っています。しかし「ザ・コーヴ」では、その矛先が、太地町という小さな漁村の漁師に向けられていることに対して、ある種の暴力性を感じました。一方的であり独善的な視点、そして多くの事実誤認やミスリーディングな点もありました。これはドキュメンタリー映画の倫理に抵触するのではないかと思ったのです。

——ザ・コーヴが映画を撮るきっかけに?

背中を押してくれましたが、ひとつのきっかけに過ぎません。ザ・コーヴへの反論と思われるのは嫌だし、それは危険なことだと思っています。

ザ・コーヴによってこの問題が肥大し、対立や憎しみを招いた。でも私は、その反証のために映画を作ったわけではないんです。誤解や正確な情報の欠如が続いていくと、両者の間で憎しみだけが募っていくし、さらに対立を招く危険性があります。なるべく公平な視点で伝えたいのです。

——公平性を保つうえで、なにを意識しましたか。

誰かを悪者に“仕立てない”ということです。

どちらの主張にもいいところがあり、悪いところもある。でもそこには複雑な事情が絡んでいる。一方だけが善で、他方は悪という結論であってはならないと考えています。

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——公平性を持って向き合うべき問題は、捕鯨に限らずともありそうですね。

そうですね。私がアメリカに渡って一番最初に叩き込まれたことは“人はみんな違って当たり前”ということ。肌や髪の色はもちろん、人の思想は違って当たり前。LGBTなどのセクシャルマイノリティに関しても。

日本では逆に、みんな同じが当たり前。そもそも認識のスタートラインが違います。世界で起きている多くの問題がダイバーシティに辿り着くのです。

多様性を認めるアメリカで暮らした経験が、映画を撮るテーマの根幹につながっているのかもしれません。

多くの人からお金を集める「覚悟」をもつ

——佐々木監督は、今回のA-portでの資金調達の前にも、前作「ハーブ&ドロシー」で日本の過去最高額を調達された実績があります。クラウドファンディングでの資金調達、成功の秘訣は何でしょう?

日本では、クラウドファンディングに対する認知がまだ進んでいないですし、オンラインでの買い物にも抵抗がある人がとても多いです。特に、ネットでのクレジットカード払いが大きな障壁となってしまいます。

決して簡単ではないところから、始めるわけですから、信頼を得ることが大前提。そのためにオフラインの場でも、人に会って対話することを心がけています。ライブイベントも実施しましたが、全国各地に足を運んで、映画への思いを伝えていきました。

支援は寄付ではありませんから、「一時的にみなさんからのお金を預からせていただくけれども、とても有効に使わせていただきます」という思いがあります。私が作る映画というメディアを通じて、世の中に発信することで、健全な議論や対話が生まれるきっかけとなれる、そのように還元したいと願って取り組んでいます。

——市場規模が年々拡大していることからもわかるように、クラウドファンディングを通じて作品を発信したい人、新しいテクノロジーやプロダクトに挑戦したい人が増えています。これから資金調達を目指す人たちにメッセージを。

支援をお願いすることをためらってはいけないし、そこに罪悪感をもってはいけないと私は思います。

「お金をください」とお願いしづらい気持ちはよくわかります。もちろん支援していただく方に対して最大限感謝の気持ちを持たなくてはいけないし、謙虚になるべきだけれども、そこに罪の意識があってはいけない。

クラウドファウンディングでお金を集めるからには、支えてくれた人たちに還元できるものでなければなりません。お金は、ひとつのツールであって、コミュニケーションの手段です。たとえば1000円支援してもらったとしたら、その1000円が、10倍、100倍もの価値あるものにするという気持ちを持てば良いのではないでしょうか。そういう価値があるプロジェクトだからこそ、クラウドファンディングで資金調達できるわけです。

だから堂々と支援をお願いするべきだと思います。そして、その期待を裏切らない覚悟……。

そう腹をくくるということです。

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