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2015年日韓・世界知識人共同声明――東アジアの「過去からの自由」をもとめて

2015年07月29日 17時03分 JST | 更新 2015年07月31日 17時50分 JST
ASSOCIATED PRESS
South Korean Foreign Minister Yun Byung-se, right, shakes hands with his Japanese counterpart Fumio Kishida, left, during their meeting at the foreign ministry in Seoul Saturday, March 21, 2015. The foreign ministers of South Korea, China and Japan will meet for the first time in three years this weekend after bitter disputes over history and territory drastically scaled back high-level contacts and even raised security fears. (AP Photo/Jung Yeon-je, Pool)

われわれ韓国と日本、そして世界の知識人は、東アジアの歴史にとって重要な記念の年である2015年に、東アジアと世界に生きる人間の共通の憂慮と共通の希望を表明する。

2010年「韓国併合」の100年にさいして、日本と韓国の知識人1000余名は、「韓国併合」過程が不義不当であり、「併合条約」もまた不義不当であると宣言し、この条約が当初よりnull and voidであるとした日韓基本条約第二条の韓国側解釈を共通の解釈と受け入れることを主張した。その声明には中国の歴史家400名が支持を表明した。日本政府はこの声明に応えて、2010年8月10日、菅直人総理談話を発表し、植民地支配が韓国の人々の意に反して実施されたものであることを認めた。

そのときから5年が過ぎた。この間われわれは「2010年の約束、2015年の期待」という標語を掲げて、事態の推移を見守ってきた。だが今日日本において、われわれの眼前にあるのは、2010年の願いにあまりに逆行する現象である。右派政治家たちは自己の政治的目的のために、すでに歴史家の研究によって論破された偽りの歴史神話を再生させ、一部の体制派知識人と保守派メディアを通じて拡散させている。安倍首相は河野官房長官談話と村山総理談話は継承すると公言しているが、政府の周辺と与党の中では二つの談話を空洞化させるような動きがたえない。街頭ではヘイトスピーチも度をこしている。歴史の逆流は高まりをみせているのである。

他方で、日本の状況に対する周辺国の批判にも問題がないわけではない。反日感情がかってないほどに高まり、民族主義を煽って、民主化の動きを抑圧し、国内政治的利益をえようとする一部の動きもあるようである。

だが、われわれはこのような事態の悪化をみて、失望したり、沈黙したりするわけにはいかない。歴史家をはじめとする知識人は歴史の真実を証言して、歴史の歪曲や政治的誤用を阻む責任がある。今日ほど知識人の責任が重要である時はない。

東アジアは日清戦争開始の1894年からベトナム戦争終結の1975年まで、80年間、戦争の連続であった。はじめの50年間は日本の朝鮮半島、中国、東南アジアへの侵略戦争がつづき、太平洋戦争に帰結した。その後は、米ソ冷戦が世界をおおう中で、東アジアでは、中国内戦、インドシナ戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争が30余年間つづいた。米ソの冷戦はそれからなお15年ほどつづき、1991年に終わる。だが、朝鮮戦争は停戦協定が結ばれただけで、緊張状態がつづいている。国家間の紛争も、また終わる日がない。東アジアのこのような120年来の戦争と緊張の歴史に対して、われわれすべては心から反省し、しっかりと学習し、この間に人々が蒙った被害と苦痛を癒し、和解にむかって進まなければならないはずである。

ところが、ここに来て中国の経済大国化と軍事力整備の動き、日本の安倍政権の「積極的平和主義」路線、さらにオバマ政権の「アジア・リバランシング」戦略とが対立する様相を深めている。東アジア全域で緊張が高まり、とくに南シナ海、尖閣諸島(中国名釣魚島)の周辺、及び朝鮮半島の休戦ラインでは、いつ軍事的衝突がおこっても不思議ではない状態である。120余年続いた戦争と緊張ののちに、ふたたび深刻に軍事的衝突を心配しなければならなくなるのでは、われわれは、この地域の人間と文明を根本から問い直さざるをえない。このままでは、東アジアの民は世界の市民社会の中で名誉ある一員たることはできないであろう。

戦後冷戦に対応するサンフランシスコ講和条約の枠内で、日韓間で植民地責任を問う道を失ってしまったが、安倍政権は新日米同盟強化戦略の枠内で村山談話以来すすめられてきた植民地支配を反省する努力を逆転させようとねらっている。しかし、それは空しい妄想に終わるだろう。

文明史的にみれば、東アジアは、いま150年余におよぶ西洋化のトンネルを抜けだして、20世紀のイデオロギー対立もこえて、自らアジアの未来を設計できる、新たな文明史の入り口に立っているのである。20世紀後半以来市場経済を基盤として、高度産業化を達成した結果、約9億の中産層と約11億のネチズンが形成され、その中で一部の国家はすでに市民社会と民主主義を達成した。いまや中国とアセアン諸国もその方向へ歩みを進めている。東アジアは市民社会と民主主義の時代が胚胎する前夜にいたっているのである。

数十、数百億の水滴が混ざり合って、海をなすように、いま東アジアの数億数十億の民が中産層になり、ネチズンになって、互いに交流し、まざりあって、西洋に期待した目が隣人に期待する目に変わっていて、経済協力を拡大深化させ、互いに相手の文化を受け入れ、Civil Asiaあるいは People Asia をなしつつある。ここでCivilとは、市民または人民、文民統治(civilian Control)、そして文明(Civilization)を意味する。この市民・人民は国家のあやまった歴史解釈と排他的ナショナリズムの宣伝から自由にならなければならない。国家からの相対的自律と過去史からの解放を獲得して、市民相互間、あるいは人民相互間の国境を越えた交流と連帯を一層拡大・深化させねばならない。決して自由はただで与えられるものではない。

民主主義が発展すれば、過去史問題克服の内在的条件が成熟する。慰安婦問題がいまのように浮上したのも、韓国民主革命の結果である。いま慰安婦問題の解決はアジア民主主義の試金石であると信じる。ときあたかも、欧米、日本、韓国の知識人が慰安婦問題の解決を促す共同声明をあいついで発表して、歴史の天に雷鳴がとどろくようである。われわれは強く鼓舞されており、われわれはこの雷鳴の声に合流する。安倍首相は慰安婦問題の解決にすみやかに踏み切ってもらいたい。

われわれは、米国が東アジアのあらたな戦争の可能性にではなく、東アジアの新しい民主的可能性に回帰して、その可能性を支援することを期待する。そのような意味から、米国のアジア・リバランシング政策は軍産複合体主導型ではなく、平和産業や市民社会主導型であるべきであり、過去温存と軍拡の道ではなく、過去克服と軍縮の道であるべきであり、中国、北朝鮮排除型ではなく、彼らを抱擁する平和協力型であるべきである。

安倍首相はあらたな「総理の談話」を出すことを予告している。いずれにせよ安倍談話は、河野談話、村山談話、菅談話といったこれまでの日本政府の歴史問題談話を継承確認するところから出発し、それらを一歩なりとも進めるものでなければならない。アジアの諸国に対する侵略と植民地支配がアジアの近隣諸国に途方もない損害と苦痛をもたらした事実を再確認し、真正な反省と謝罪の気持ちを表明しなければならない。日本の戦争中、多くの朝鮮人が日本の炭坑で働くことを強制されたという事実を認めたのなら、そのことに対して謝罪を表明すべきであり、問題が解決済みだと言い張るのは見苦しい態度である。この世によい植民地主義はなく、よい戦争もない。そして未来は過去を隠して語るものではなく、過去を清算して語るものである。ねがわくはアジアとの歴史的和解に成功する談話を出すように期待する。

過去史をめぐる衝突は、ナショナリズムの衝突につながり、領土紛争と安保の不安に拡大して、経済統合を後退させる。それはさらに軍拡の悪循環にエスカレートすれば、結局民主主義が後退するようになる。過去回帰が戦争危機に帰結する「歴史の逆流」だ。ここにわれわれは過去が現在を虜にして、未来を規定してしまう現象を発見する。東アジアの過去をめぐる歴史認識の争いが理性的な到達点に至らなければ、この地域に葛藤や緊張をもたらして未来を暗くすることになる。この逆流現象に身をまかせて、過去の問題はそのままにしておき、未来に進もうとするのは過去を温存させ、未来を支配しようとする陰謀でもある。過去は公開して、謝罪し、許し、克服するのである。現在を過去から自由にし、未来を過去から解放させる東アジアの「過去からの自由」は輝くシビル・アジア時代を開くであろう。

Proposal Committee

JAPAN

荒井信一(駿河台大学名誉教授)

和田春樹(東京大学名誉教授)

小田川興(ジャーナリスト)

内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)

中塚明(奈良女子大学名誉教授)

水野直樹(京都大学教授)

山田昭次(立教大学名誉教授) 他

KOREA

Kang Man-Kil (Koryo University)

Ko-Eun(poet)

Kim Kyong-Hee(Jisiksan'eop Publisher)

Kim Yong-Ho(Kyonbuk National University)

Kim Yong-Deok(Seoul National University)

Kim Jin-Hyon (The World Peace Forum)

Kim Chang-Rok(Kyongbuk National University)

Nam Si-Uk (Dong-A Ilbo)

Baek Nak-Cheong (Seoul National University)

Shin Yong-Ha (Seoul National University)

Yun Dae-won(Kyujanggak Archives, SNU)

Lee Si-Jae(Catholic University)

Lee Jang-Hee(Korean Foreign Language University)

Yi Tae-Jin(Seoul National University)

Choe Won-Sik (Inha University) etc.

International Supporters

Alexis Dudden (University of Connecticut)

Bruce Cumings (University of Chicago)

Charles Armstrong (Columbia University)

Herbert Bix (Binghamton University

Franziska Serphim (Boston College)

Gavan McCormack (Australia National University)

Jeff Kingston (Temple University of Japan)

Kerry Smith (Brown University)

Laura Hein (Northwestern University)

Mark Selden (Cornell University)

Patrick Manning (University of Pittsburgh)

Peter Kuznick (American University)

Prasenjit Duara (National University of Singapore)

Tessa Morris-Suzuki (Australia National University) etc.

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この声明は韓国の金泳鎬元産業資源省長官が提唱し、日本側の和田春樹東京大学名誉教授らと韓国側の学者らでまとめた。