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「日本企業に女性はいらない」は本当か

2013年12月30日 18時50分 JST | 更新 2014年03月01日 19時12分 JST

先日、日経ビジネスオンラインで『「日本企業に女性はいらない」が、経営学者の総論』というタイトルの記事を見て、とても驚いた。実際記事を読んでみると、そのようなことは書かれておらず、さらに当惑した。目を引くために意図的にセンセーショナルな見出しを付けたのではないかと思われる。もしくは(よりネガティブな解釈だが)、日系ビジネスオンラインの読者の大半を占めると考えられる男性経営者は、心の底では女性の職場進出を嬉しく感じていないため、彼らを喜ばせるような見出しが選ばれたのかもしれない。どちらにしても、読者を惑わすような見出しは困る。特に今の時代は携帯で記事の見出しだけを読む人が多いためなおさら問題だ。

しかし、この記事を深く読むと、タイトルだけではなくてその内容にも疑問を感じた。著者である早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授は、「ダイバーシティ」(※1)とは何なのかをより深く考えるべきだと指摘しているが、それには私もまったく同感である。しかし、彼の紹介論文や結論には賛成しかねる。彼の結論は、異なるジェンダー(※2)、国籍、年齢などのダイバーシティは企業のパフォーマンスに影響しない、あるいはマイナスに影響する、というものだ。長くダイバーシティの分野でコンサルタントをしている私にとって、それはどうも賛成できない結論である。ここでは、なぜ私が賛成できないのか説明したい。

まず一つは、メタアナリシス(※3)の意味を取り違えた見出しである。入山准教授が引用している論文はメタアナリシスに基づいている。メタアナリシスは学者の「総論」ではなく、過去の学問的論文のまとめた分析だ。つまり、様々なダイバーシティ要素に関する幾つもの調査結果を総合的に分析している。しかし、記事の見出しは「女性」という言葉を使っており、ダイバーシティの一つの要素にすぎないジェンダーのみに着目している。当然読者は、企業にとっての女性の価値についての示唆を期待すると思われる。ところが実際のところ、この記事で取り上げられるのは、様々なダイバーシティ要素の総合的影響であり、ジェンダーが企業のパフォーマンスに直接及ぼす影響には触れていない。興味深いことに、この記事のタイトルとは反対に、女性がパフォーマンスに好影響を及ぼすことを示す学術的研究はいくつも存在する。

  • ホーゲンドーンその他が2013年に『マネジメント・サイエンス』誌に発表した論文によると、男性だけのチームよりも男女半々のチームの方が売上と利益が高いことが分かった。
  • フインクその他が2003年に『アカデミー・オブ・マネージメント・パースペクティブ』誌に発表した論文は、組織の中の女性の割合が増えるに従って利益性も高くなることを証明した。
  • ヘリンが2009年に『アメリカン・ソシオロジカル・レビュー』誌に発表した研究は、ジェンダーの多様性がより高い収益性、利益、顧客数に結びつくことを示した。

ここでは3例だけ挙げているが、ジェンダーの多様性のポジティブな効果を示している研究論文は、これ以外にも沢山存在する。これらの論文を執筆した学者たちは皆、日本企業は女性をもっと必要としていると考えるだろう。

入山准教授は記事の中で、多様性に2つのタイプがあることを紹介している。まず一つはタスク型の人材多様性(スキルと経験)、そしてもう一つはデモグラフィー型の人材多様性(ジェンダー、国籍、年齢など)だ。しかしこれはダイバーシティの分類法の一つに過ぎず、学術的研究では他の分類も使われている。例えば良く使われるのは、surface-level diversity(年齢、性別、人種、国籍など、表面に見られる要素)と deep-level diversity(価値観、態度、性格など、より深いレベルの要素)という分類法だ。日本企業は表面的な多様性を意識しすぎて、より深いレベルの多様性を見落としがちな傾向があるため、私は後者の分類法の重要性を強調したいと考える。

もう一つ指摘しなければならないのは、やや偏った論文の引用である。入山准教授が引用したメタアナリシスの論文とほぼ同時に、別のメタアナリシスの論文が出版されたが、後者は入山准教授が引用したものとかなり違った結果を示している。スタルその他が2009年に『ジャンル・オブ・インターナショナル・ビジネス・スタディー』誌に発表したメタアナリシスは、多様性はプロセス面での損失(タスクに関する衝突とチームの一体感の低下)を生じる一方、同時にプロセス面の利得(創造性と満足度の増加)をもたらすということを示している。さらに、多様性とパフォーマンスの関係は固定されたものではなく、チームのメンバーがお互いに仕事をするプロセスをどれほど上手に管理できるかによって異なる。これはつまり、日本企業が多様な人材を採用するだけではなく、多様なチームが一緒に効果的に働くために環境づくりを積極的に行う必要があることを示唆している。

入山准教授が引用している論文のもう一つの問題点は、チームがどれほど長い期間一緒に働いたかを考慮していないことである。実は、これはとても大切な要素である。ダイバーシティ分野の研究に定評がある『アカデミー・オブ・マネージメント』誌において、ワトソンその他は、チームが一緒に働いた期間がダイバーシティとパフォーマンスの関係に影響を及ぼすことを発表した。彼らは同質的のチームと多様なチームの行動を比較する実験を行った。最初は、多様なチームはどうやって一緒に働いたら良いか分からず、始めからスムーズに協力できた同質的チームと比べてプロセスもパフォーマンスも低かった。しかし時間が経つに従って、多様なチームのメンバーはより円滑に働けるようになり、同質的なチームとのパフォーマンスやプロセスの差はなくなった。さらに興味深いことに、「見解の幅広さ」と「提出した選択の数」において、多様なチームの方が同質的チームよりも高い結果を出した 。ちなみに、『アドミニストレ―ティブ・サイエンス・クオーターリー』誌に、ペレドその他が前出の研究を実際のビジネス場面において観察した調査を発表しているが、それも似たような結果を示している。

これらの調査結果は、チームの構成だけではなく、一緒に働いてきた期間を考慮することの重要性を示している。しかしながら、ダイバーシティにおける日本企業の大きな問題に、皆と異なる社員に対する排他的な文化が挙げられる。例えば総合職の女性社員、外国人社員、あるいは同僚と異なる考え方や価値観を持つ男性社員は離職率が高い傾向がある。そのため、多様なチームが経験しがちであるギクシャクした最初の時期をなかなか脱出できず、円滑に働ける時期を達成できないのではないかと考えられる。多様な人材を会社に留める対策を打つことが、日本企業にとって大切なのではないか。

もう一つ入山准教授が引用している論文が考慮していない要素として、多様なチームへのサポートの有無が挙げられる。多様なチームには、違った背景や価値観に対して理解を示し、自分と異なる人と一緒に上手く働くための心構えと態度に関する教育が必要であり、そのようなサポートはチームの生産性に影響を及ぼす。この点に関しては、多様なチームがより円滑に働くことを支援する研修とコンサルティングを提供している私は、中立的な立場ではないかも知れない。しかし、異文化研修の効果を測定した学術的研究はいくつも存在する。例えば、ブラックとメンデンホールは、『アカデミー・オブ・マネージメント・レビュー』に、異文化研修がパフォーマンスを高めることを示す研究を発表している。チームが多様かどうかのみを見るのではなく、多様なチームに対してお互いの理解を促進するためのサポートが提供されたかどうか考慮することは重要である。上記で、多様なチームはお互いに慣れるための時間が必要ということに触れたが、異文化教育があればそれに要する時間は短縮できるし、達成できるパフォーマンスレベルも上がるはずだ。そういったサポートを得た多様チームとそうではないチームを比較するのは、りんごとオレンジを比較するようなものである。

私の個人的結論としては、日本企業は女性、外国人、そしてその他の多様な人材を積極的に活用するべきだと思う。しかし、日本企業が多様性のポジティブな効果を得るためには、次の2つのことが重要だ。まずは、多様な背景や価値観を持つ社員を受け入れる環境を整えること。受け皿が整っていないのに多様な人材を置いても、良い効果は期待できない。それがなければ臓器移植をしたときの拒絶反応と似たような現象が起きて、多様な人材の離職を招いてしまうかもしれない。そしてもう一つ重要なのは、組織に入る多様な人材(女性、外国人など)及び彼らの上司や同僚となる社員を教育することだ。日本企業の場合、この種の「多様性受け入れ」研修は非常に少ないが、アメリカでは企業の大半で実施されている。

入山准教授は、今日本では「昨今のブームに乗っただけの『中途半端なダイバーシティ経営』」が行われていると指摘しているが、それには私も同感である。日本の職場が多様性を上手に受け入れ、そのメリットを最大限に享受するためには、まだまだやらなければならないことが山ほどあるだろう。今は、その最初のステップの段階にあって、そこで失速してしまわないことが重要である。女性にしても、外国人にしても、その他の多様性のある人材にしても、企業はその社員が働きやすい環境、長く働きたい環境、スキルを発揮できる環境を作る必要がある。日本企業は多様な人材を必要としているには違いないが、彼らを活かす環境を提供できていないのが現状である。そのような環境の不備から多様性自体を否定することはあってはならない。多様な人から構成された職場のポテンシャルを最大限にするために、企業はサポートを提供するべきだ。私はそれに一役買えたらと願っている。

※1 ダイバーシティ(diversity)  多様(性)、種々、雑多、変異、分岐度;相違点。ここでは、職場における(人種的・文化的)多様性

※2 ジェンダー(gender)  1.社会的・文化的観点からみた性別・性差 2.(男女の)性別;(集合的に)男性(女性)たち

※3 メタアナリシス(meta-analysis)  メタ分析。分析の分析。特定の問題について統計的分析がなされた別々の調査(研究)を集め、さまざまな角度から比較検討したり統合したりする分析法

(「リーダース英和辞典第3版」より)