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研究能力向上に取り組むブータン/豊かな森林の下で環境保護にも力

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森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。9月号の「時評」欄では、環境保護などの研究能力向上に取り組むブータンについて、京都大学名誉教授の松下和夫さんが報告しています。

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ブータンは、チベット仏教を事実上の国教とし、人口は約76万人、面積は日本の九州とほぼ同じ、北は中国、南はインドに国境を接する国である。南は海抜約200mの熱帯林、北は7000m級のヒマラヤをひかえた急峻な山国で、ヒマラヤ氷河の融水やアジア・モンスーンがもたらす大量の雨を受け、険しい国土が形作られている。

2011年秋に新婚間もない国王夫妻が来日したことで、日本でもよく知られるようになった。2016年は、日本とブータンの外交関係樹立30周年に当たる。

ブータンでは2008年に施行された憲法で、国土の60%を森林として永遠に保全することを定め、今では73%を占めている。国土の51.4%は保護区ないし生態系回廊システムに指定され、これらの森林は、地域に貴重な生態系サービスを提供するとともに、国家収入の45%を占める水力発電を支える主要河川の水源ともなっている。

ブータンは2009年に国として未来永劫にカーボン・ニュートラル=二酸化炭素(CO2)の純排出量ゼロ=を維持することを将来世代への約束として宣言した。現在のブータンは、豊富な森林が大気中のCO2を吸収していることから世界的にも稀なCO2の純吸収国となっている。ただし1人当たりのCO2排出量は1990年から2000年の間に3倍に増えている。

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●ブータン王立大学の教員たちと筆者(中央の椅子右側)

ブータンの指導層は、厳しい国際環境と自然条件の下で賢明な将来の選択をすべく知恵を絞っている。ブータンが世界に門戸を開いたのはごく最近であるにもかかわらず、世界の最先端知を鋭敏に吸収しながらも巧みにグローバリゼーションへの選択的対応を行っている。

そのため教育に特に力を入れ、小学校から大学まで授業料は無料で、ほとんどの授業は英語で行われている。筆者は一昨年からブータン王立大学の研究能力向上プロジェクトの科学技術顧問を務めている。

ブータン王立大学は2003年6月に、ブータン各地に点在する八つのカレッジを統合して設立されたブータン国内唯一の総合大学である。「国民総幸福」の概念の下に、人材を育成し、未来に向け新しい道を切り拓くことを目指している。学部学生数7400人、教職員955人である(2012年時点)。

その使命は、「国家が必要とする学識豊かで技能に秀でた人材を育成するために、適切で質の高い高等教育プログラムを開発し提供すること。そして研究の促進実行を通じて国際的に通用する知識の創生に貢献し、適切な知識をブータンに移入すること」としている。

ただし、研究活動はまだまだ端緒についたばかりで、独自の研究能力の向上が課題となっている。

去る7月11日から4日間、ブータン王立大学ニードゥップ・ドルジ総長をはじめとする各カレッジの代表11名が京都を訪れ、京都大学の研究活動経験から学ぶとともに、将来の共同研究の可能性につき真剣な討議を行った。小さな国ながら志は高く、環境保護と教育や医療に力を入れる姿には心を打たれる。