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女性活躍推進法施行から1年。グローバルの最新の潮流からの考察

2017年04月04日 15時06分 JST

昨年4月1日に女性活躍推進法が施行されてから一年。この一年の成果や今後に残る課題について、学識経験者や政府の専門家、メディアなどが様々な検証をされることだと思います。私は、国内でのアドバイザリー業務を通じた経験及びグローバルの視点から私見を述べたいと思います。

法施行当時から、行動計画の策定と届出が義務付けられたとは言え、特段の罰則もない中で効果があるのかという声が聴かれましたが、効果は既に出ていると思います。内閣府男女共同参画局によると、策定・届出の義務付け対象とである従業員300名以上の民間企業のうち実に99.8%が行動計画を策定・届出しているということは、何より一つの前進です。

ただ、効果が表れる段階として、①現状が見える化される、②課題の真因が明らかになり、取り組みの必要性が認識される、③具体的で効果のある取り組みが実施される、という3つの段階があるとすると、現在は段階①~段階②である企業がほとんどであるように感じます。

法律を遵守する観点から、とりあえず行動計画を策定しデータを公表してみたものの、社員の多く(男性も女性も)が、女性活躍推進法の本旨が腹に落ちていないという企業は、段階①です。法律によって求められているからということではなく、企業のトップや管理職層が自社のビジネス上の戦略を明確に結び付ける形で必要性を語ることができる、社員の一人一人が自分事として必要性を感じている、その状態をもって必要性が腹落ちしていると言えます。

必要性が腹落ちしていない企業では、往々にして女性の活躍推進は女性による女性のための施策の域を出ないものになっており、その対象となる女性は下駄をはかせてもらっているかのように男性からも女性からも見えるがゆえに、実力ある女性はそういった施策から距離を置きたがるという状況が生まれています。

実際には、まだ必要性が腹に落ちる手前の段階①の企業が多いと思いますが、それでも現状の見える化がある程度行われただけでも進歩ではあります。

段階①から段階②への移行には、ビジネスのリーダーによるコミットメントが必要です。例えば、社長が自社特有のビジネスケース(女性活躍を推進するビジネス戦略上の明確な理由)について社員にコミュニケーションする、社長自身が女性社員やそのサポートをする幹部層、社員ネットワークなどとの対話に時間を投じるといった形でロールモデルとなることことで、段階②への移行が実現していきます。

ビジネス上の戦略と結び付く形での必要性が理解されてくると、ようやく段階③として、正しい方向性を持った取り組みの実施に向けて動き始めることができます。

例えば、人事だけでなくビジネスラインのリーダーが率先して、優れた実績やポテンシャルを持つ女性社員を見出し、将来に向けて枢要な経験ができるような業務に携わることができるよう後押しすることで、組織として必要なパイプラインを強化する、また、一部の女性のための施策ではなく、あらゆる社員が属性や抱える事情によらず最大限組織に貢献できるような働き方・組織風土改革に優先的に着手するといった取り組みが生まれてくるのがこの段階です。

このように、いわゆるコンプライアンスからコミットメントへという形で日本の企業の取り組みの現状を観察してみると、これからの一年は是非コミットメントの高まりを期待したいと思う状況です。

一方、グローバルの最新の潮流を踏まえて、日本の企業の取り組みの現状を観察してみると、もう一つ異なる角度からの議論が必要だと感じます。国際女性デーでもある3月8日に、カタリストが第30回目となるカタリスト・アワードの表彰式をニューヨークにおいて行いました。本年の受賞企業は、3MロックウェルオートメーションBMOファイナンシャルグループの3社で、その取り組みから学びを得ようと世界各国のビジネスリーダーを含む2000名以上の参加者が集いました。

取り組み内容は三者三様ですが、3社にはっきりと共通して言えること、そしてより多くの日本企業にも向き合ってほしいこととして、女性活躍だけを究極目的にした取り組みではなく、フォーカスは「インクルージョン」の実現にあるということです。

例えば、2017年カタリスト・アワードを受賞した3Mの「I'm in」イニシアティブは、ネットワーキング、メンタリング、人財開発、ワークライフや職場の柔軟性を高めるプログラム、そして外部コミュニティへの取り組みなど多様な人材管理とリーダーシップ育成によって構成されており、70か国以上の国々で組織全体のインクルージョンを推進するものとなっています。

日本では、ダイバーシティとインクルージョンといったときの「ダイバーシティ」についてはある程度説明ができても、「インクルージョン」についての理解は一般的にはまだ十分ではないと思います。

カタリストのある調査研究結果では、インクルージョンとは従業員が「自分らしさの発揮」と「組織に帰属している感覚」を感じることができている状態であると定義しています。従業員がインクルージョンを感じることができればできるほど、その従業員は個人のイノベーションと、チームとして最大限能力を発揮しようというモチベーションが高まると表明するということを見出しました。

グローバル企業が考える女性活躍推進の必要性は、この「インクルージョン」の実現が更なるビジネスの発展にとって不可欠であるという基本的な理解のもとに形成されているのです。

カタリスト・アワードの表彰式において、カタリストプレジデント兼CEOであるデボラ・ギリスはこのように語っています。「私たちの世界は今、分断に直面しています。世界的な女性の抗議、人種的な暴力の波、信条に対する不寛容。阻害しあうのではなくインクルージョンこそをもたらすべきです。誰もが成功するための機会を得るべきです。このことはかつてない程に重要性を増しています。」日本では、それほど分断への直面を感じないで済んでいるかもしれません。

しかし、女性活躍推進の陰で、例えば未婚の女性と既婚・子持ちの女性が分断されたり、ビジネスのグローバル化に応じて外国人経営幹部やエキスパートが増えるに応じて、生え抜きの日本人と外国人の間での軋轢が生まれたりしていることも事実だと思います。より多くの企業がダイバーシティを進めようとする一方で、ダイバーシティの負の影響を懸念している経営幹部も少なくありません。実際、インクルージョンが伴わないダイバーシティは、ビジネスにとって真に得策になるとは言えません。

冒頭でも述べたとおり、女性活躍推進法の施行をきっかけに、日本でも多くの企業がダイバーシティの現況を見える化し、行動を起こそうと努力を始めたことは素晴らしい前進だと思います。しかしその一方で、世界の潮流は「インクルージョン」の実現にあるということをもっと多くの皆さんに知って頂きたいと思います。「インクルージョンは終着点ではなく、旅のようなものである。」という言葉があります。女性活躍推進法施行から一年立った今、是非この言葉の趣旨を考えてみて頂きたいと思います。