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2014年11月21日 23時28分 JST | 更新 2014年11月21日 23時28分 JST

企業価値260億円のノジマが850億円のITXを買収。大勝負に出た本件ディールを検証

【ハイライト】

・ITX企業価値850億円のバリュエーションは適正

・ITX単体での返済だけでは重く、ノジマとの合算で何とかクリア

さて、18日に家電量販店のノジマは投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)携帯電話販売5位のアイ・ティー・エックス(ITX)を買収すると発表しました。この買収により、ノジマは携帯電話販売で現在の10位前後から3位に浮上することになります。株式取得額は約513億円、負債含めて850億円という年間売り上げの半分弱に相当する投資に踏み切り、自社を上回る規模の企業を手に入れるディールとなりました。

今回はこのディールについて、見てみましょう。

【市場環境は横ばい若しくは漸減、競争環境は再編・大規模化】

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出所:(株)MM総研, 内閣府経済社会総合研究所

国内携帯電話端末の出荷台数は、2007年の総務省勧告によって販売奨励金が廃止された結果、端末の価格上昇により、買い替えサイクルが長期化したことで、年間販売金額は大きく落ち込みましたが、スマートフォンの登場によって、2009年度を底に端末出荷量は回復となりました。ただし今後はスマートフォンもほぼ横ばいになり、フィーチャーフォンが漸減していくと予想され、出荷台数全体も3500万台程度になると思われます。

従来から、この業界はスケールメリットを目指すべく、再編が活発に行われている業界であり、以下のような再編が行われました。

2008年

・三井物産系テレパークと三菱商事・住友商事系MSコミュニケーションズが合併し、ティーガイア発足。

・アイ・ティー・シーネットワークによる日立モバイルの買収

2009年

ITXによるソニーマーケティングの携帯電話販売事業、パナソニックテレコムのソフトバンク・au部門の買収

2011年

・丸紅テレコムによる中央自動車工業の携帯電話販売事業の買収

2012年

・アイ・ティー・シーネットワークによるパナソニック テレコムの吸収合併(コネクシオ発足)

・オリンパスによるJIPへの非事業ドメインのITXの売却

2013年

・丸紅子会社のMXホールディングスによるNECモバイリングの買収

そして、今回はJIPのエグジットとしてのディールになります。

【業績は堅調、バリュエーションは適正】

さて、ITXの業績を見てみたいと思います。

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出所 : SPEEDAでデータ抽出、弊社で作成

上記の表とグラフは、ITXと上場同業他社の携帯端末販売セグメントの業績比較になります。ITXとティーガイアはセグメントの業績予想を開示していますが、光通信とコネクシオは開示していないので、直近2期の数値ですね。新ITXは会社分割で前々期に設立されたので、数値は省略します。

コネクシオはパナソニックテレコムを買収したので、売上は大きく上がっていますが、それITXとティーガイアは市場環境の通り漸減、光通信が頑張っている感じでしょうか?

利益ベースでは、光通信とコネクシオの今期予想がわからないのですが、ティーガイアが置いていかれている感じです。利益率が低いですね。ITXの営業利益とEBITDAの差が大きい理由はJIPがオリンパスから買収した時に、約350億円程度ののれんを引き継いでいるため、その償却と思われます。

バリュエーションですが、各社の予想EV/EBITDA倍率ですが、ティーガイアは7.0倍、光通信は10.2倍、コネクシオは6.6倍です。光通信が高いのですが、これは別セグメントの法人事業の利益率が10%程度あり、それに引っ張られているためだと思われます。ほかの2社は80%以上が携帯端末販売セグメントなので、概ね、この事業は6倍から7倍程度と考えて良さそうですね。

そこでITXですが、発表資料では、負債込みで最大850億円と書かれており、今期予想のEBITDA112億円で割ると7.6倍となります。買収プレミアムも含まれているでしょうから、概ねバリュエーションとしては適正ですね。

【返済能力としてはかなりリスキーな印象。】

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出所 : SPEEDA

表がノジマの概要ですが、株式時価総額が210億円。(発表後株価が上がっているので、実態は200億円程度)負債含めた企業価値は260億円です。その発行体が企業価値850億円、株式価値513億円の買収をすべて借入でしようとしているわけですから、かなり思い切った買収だと考えてよいでしょう。ただ、仮に公募増資で行うにしても、今の時価総額では、最大でも50億円くらいまでしか調達できないわけで、やはり綿密なシンジケートローンを設定する必要があります。

負債の目安ですが、シンジケートローンであれば、本来はデット・サービス・カバレッジ・レシオ(Debt Service Coverage Ratio / DSCR = 直前12ヶ月の連結フリーキャッシュフロー ÷ 「連結金融費用 + (直前12ヶ月の元利金支払総額(除リボルビングファシリティ返済額))」で計算するわけですが、詳細がわからないので、単純なネット有利子負債÷EBITDAで行ってみたいと思います。

ITXのみで計算すると、シンジケートローン850億円 ÷ EBITDA 112億円 = 7.6倍となり、限界が5倍までと考えると、 単体ではちょっと難しいそうですね。(参考までにソフトバンクのボーダフォン買収時は5.2倍でした。)

そこでノジマの返済能力を見てみます。

直近開示でノジマのネット有利子負債は47億円、今期予想EBITDAは58億円ですから、

ITXとノジマを合算すると

(850億円+47億円)÷(112億円+58億円)= 5.3倍

となり、負債から、ここではわからないITXの現預金を差し引いて、なんとか5倍ギリギリという感じです。いずれにしろ、かなりリスキーな判断ではあります。ノジマとしては、本体への買収のシナジー効果などの業績底上げを織り込んだ上での判断なのでしょうね。

家電量販店の環境も厳しい中、大勝負に出たノジマにしばらく注目して行きたいと思います。

(2014年11月21日「Hiroの「グローバルで負けないリスクテイク出来る日本へ」」より転載)