「人権デューデリジェンス」とは?企業に求められる人権リスクの管理手法。欧州では義務化も

企業はサプライチェーンの全工程において、人権侵害のリスクをチェックする必要があります。

海外と取引のある企業に勤めている人、SDGsや人権問題に関心のある人は最近、「人権デューデリジェンス(人権DD)」という言葉をよく耳にしませんか? なんとなく知っているけれど、正確な意味はわからない……。そんな人のために、この用語と、企業に求められる人権侵害のリスク管理について解説します。

人権デューデリジェンスとは
人権デューデリジェンスとは
ハフポスト日本版

「人権デューデリジェンス」の概要は?

「デューデリジェンス(Due Diligence)」といえば、金融の世界では「投資先の価値やリスクを調査すること」ですが、「人権DD」は次のような取り組みを意味します。

自社や取引先の企業において、どのような場所や分野で、どのような人権に関わるリスクが発生しているかを特定し、それに対処すること

グローバル化によって、企業のサプライチェーンは世界中に広がってきています。人権DDではその全ての範囲、全ての過程において、人権侵害のリスクをきちんと管理することが求められます。

人権侵害の例としては、「賃金の不足・未払い」「過剰・不当な労働時間」「社会保障を受ける権利の侵害」「パワハラ」「セクハラ」「強制労働」「児童労働」「外国人労働者の権利侵害」「差別」などがあります。

自社の都合で取引内容を一方的に変更したことで、取引先の従業員の長時間労働を誘発した場合。住民を脅迫して立ち退きを迫る企業に金銭を貸し付けた場合。これらも企業の人権に対する責任が問われることになります。

国連「指導原則」で世界に広まる

人権DDの必要性が叫ばれるようになったのは、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が2011年6月に採択されたのが一つのきっかけでした。

指導原則では、人権保護は国の義務だけでなく、企業にも責任があると指摘。その一環として、企業に人権DDを行うよう求めています。

2013年にはバングラデシュで、大手アパレルの縫製工場が入った商業ビルが倒壊し、1000人以上が死亡。工場の劣悪な労働環境が明るみに出たことで、人権DDがさらに重視されるようになりました。

サプライチェーンの人権問題は「経営リスク」になりえる
サプライチェーンの人権問題は「経営リスク」になりえる
ハフポスト日本版

人権DDを6つの施策に分けると

人権DDの取り組みは、以下の6種類の施策に分類できます。

人権への影響評価

・人権侵害の特定、分析、評価

教育・研修の実施

・人権研修の実施

・ダイバーシティ(多様性)に関する社内啓発活動など

社内環境・制度の整備

・人事・評価・働き方など社内制度の改善

・バリアフリー設備の導入など

サプライチェーンの管理

・「サプライヤー行動規範」の策定

・持続可能な責任ある原料の調達など

モニタリング(追跡調査)の実施

・従業員や取引先への定期的なアンケート

・従業員の勤務状況、労働時間のモニタリング

・労働組合との意見交換など

外部への情報公開

・人権報告書、サステナビリティ報告書の作成・公開

・人権に関するリスクの評価結果に関する情報公開など

このほか、国連の「指導原則」は企業に対し、自社の「人権方針」の策定や、社内・サプライヤー向けのホットラインといった「救済措置」の整備も求めています。

主な国内企業の対応
主な国内企業の対応
ハフポスト日本版

欧州は人権DD法制化の流れ

国連は各国に「『ビジネスと人権』の国別行動計画」の作成を奨励しています。イギリスが2013年に策定したのを皮切りに、イタリア、アメリカ、ドイツ、フランスなどが続きました。

日本政府はやや遅れて、2020年10月に行動計画を作り、そのなかで企業に対し「人権DDを導入することへの期待」を表明しました。人権DDは「推奨事項」というのが日本での位置づけです。

しかし、イギリスは2015年、奴隷労働の根絶に向けた取り組みの情報開示を企業に義務づけた「現代奴隷法」を制定し、フランスも17年に一定規模以上の企業に人権DDを義務づけた法律を策定。欧米各国では、企業による人権保護の取り組みを法律で義務づける動きが進んでいます。

海外では法整備が加速している
海外では法整備が加速している
ハフポスト日本版

経団連は義務化に慎重

日本では、経団連が2019年11月、人権DDについて「企業負担増大への懸念」や「人権DDに関する認知度が低い」ことを理由に、「直ちに義務化すべきではない」などと意見を表明しました。行動計画の策定に一定の影響を与えたと見られています。

国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局次長の佐藤暁子弁護士は、次のように指摘します。

「イギリスで事業をしている企業のHPには、現代奴隷法に対するステートメント(声明)が載っていることもありますが、日本にはこれに対応する法律がない。日本企業としては、何かやらないといけないが、何をどこまでやったらいいかわからない、というのが正直のところだと思います。先進的な取り組みをしている企業もありますが、全体でみると、まだまだごく少数というのが現状です」

一方で 「人権DDは当然、自社の従業員も対象です。ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(包括)や働き方改革、ワークライフバランスなど、企業が行っている従業員への取り組みにもつながります。自分が働くとしたら、どういう企業がいいか。就活や転職においても、人権DDが対象とする問題やテーマが一つの選定基準になる」と述べています。

(取材・文/小林豪 グラフィック/高田ゆき)

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