
平等な権利を求めて闘ってきたLGBTQ+の人々の、活動の歴史や功績を祝うプライドマンスである6月は、世界各地でパレードなどのイベントが開催される。
しかしアメリカでは、LGBTQ+コミュニティやDEI(ダイバーシティ、公平性、インクルージョン)を標的にするトランプ政権からの報復を恐れて、多くの企業がプライドイベントのスポンサーから撤退している。
ニューヨークタイムズによると、NYCプライドでは、マスターカード、シティバンク、ペプシ、日産、PwCを含む約4分の1の企業が支援を中止、もしくは縮小させた。支援金は推定75万ドル減少したという。
ワシントンD.C.のワールドプライドでは、コンサルティング大手のブーズ・アレン・ハミルトンやデロイトなどがスポンサーを降りた。
バドワイザーやバドライトなどで知られる大手ビール会社アンハイザー・ブッシュは、サンフランシスコ、オハイオ州コロンバス、本社のあるミズーリ州セントルイスのプライドイベントで、スポンサーを取りやめた。
プライドイベントと企業支援
トランプ氏は就任初日に、DEIを推進するための連邦機関や助成金を廃止する大統領令に署名。DEIの取り組みを「違法かつ不道徳な差別」と非難した。
さらに、性別は男性と女性の2つしか認めないとする大統領令にも署名し、「ジェンダー・イデオロギー」に関連する助成金も終了させた。「ジェンダー・イデオロギー」は保守派がよく使う言葉で、トランスジェンダーの人々をイデオロギー運動の産物であるかのように主張し、否定する際に使われる。
アメリカの企業は、米連邦最高裁が2015年に同性カップルの結婚を憲法上の権利として認めてからこの10年間、積極的にプライドイベントを支援してきた。
6月には多くの企業がプライドイベントのスポンサーとなり、服からクレジットカードまで、レインボーカラーの商品があふれるようになった。
支援が広がる一方で、プライドマンスを利用して儲けようとする動きに対しては、「レインボー資本主義」と批判する声も上がった。
他にも、プライドマンスだけ支援を表明してそれ以外の月には沈黙していることや、反LGBTQ+の政治家への多額の寄付などの問題も指摘されてきた。

近年の企業支援のあり方は、プライドの起源と異なると主張する人もいる。
スバルの元マーケティングディレクター、ティム・ベネット氏は「年配の世代は、社会に受け入れられることを求めて闘ってきました。『私たちは全体の一部となることを望んでいる。切り離された存在ではなく、仲間でいたいのだ』と訴えてきたのです」と、2021年のマーケットプレイスのインタビューに語っている
「でも今のプライドは、ある意味ではフェスティバルで企業主導のパーティーのようになっています。かつてのようなアクティビズムではなくなってしまいました」
プライドパレードは、性的マイノリティ当事者の抵抗運動である1969年の「ストーンウォールの反乱」が起源だ。
ストーンウォールの反乱では、ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーの人らが集まるニューヨークのバー「ストーンウォールイン」に対する警察の差別的な取り締まりに、性的マイノリティの当事者が抵抗した。
このストーンウォールの反乱の1周年を記念して1970年にニューヨークで行われたデモ行進が、プライドパレードに発展した。
第2次トランプ政権が誕生し、トランスジェンダーの権利やDEIに対する圧力が強まる今こそ、LGBTQ+コミュニティは支援を必要としている。しかし一部の企業は、アメリカ以外の国でも支援を取りやめるようになっている。
カナダ最大のプライドイベント「プライド・トロント」では、Google、ホームデポ、日産、アディダス、クロロックスがスポンサーから撤退した。
プライド・トロントのエグゼクティブ・ディレクター、コジョ・モデスト氏は「私たちは彼らはコミュニティの味方だと思っていましたが、そうではなかったようです」とガーディアンに述べている。

支援する企業も標的にされてきた
LGBTQ+コミュニティへの支援から撤退する動きは、2025年以前から起きていた。
近年、アメリカの複数の州で、トランスジェンダーの医療的ケアや、学校スポーツへの参加、性自認に沿ったトイレの使用などを制限する法律が可決されてきた。
その動きの中で、LGBTQ+コミュニティを支援する企業も標的にされてきた。
アンハイザー・ブッシュが2023年に、トランスジェンダーのインフルエンサー、ディラン・マルヴェニーさんをバドライトの宣伝に起用すると、保守派は不買運動を展開。
共和党のテッド・クルーズ上院議員とマーシャ・ブラックバーン上院議員は、アンハイザー・ブッシュ社はマルヴェニーさんを起用して「若年層にアルコールを宣伝している」と主張し、上院での調査を求めた。
同じ年には、ターゲットのプライドマンス商品に対する不買運動も起き、同社では6年ぶりに四半期売上が減少した。このボイコットについてターゲットの幹部は「この反応は、私たちが立ち止まり、適応し、学ぶための合図だ」と投資家との会議で述べた。
地方に及ぶ影響
トランプ氏のDEIやトランスジェンダーに対する敵意に加え、関税導入による経済的な負担も、企業による支援を困難にしている。
その影響はこれまでも資金集めに苦労してきた地方のプライド団体にも及んでいる。
スティーヴィー・ミラーさんは2024年、仲間とともにミズーリ州南部の保守的な都市ウェストプレーンズで初めてプライドイベントを開催した。
限られた予算の中でイベントには900人が参加。ミラーさんらはその後組織を非営利団体にして、年間を通してドラァグショーや教育イベントなどを開催してきた。
活動を続けるため、ミラーさんらは企業にスポンサーシップを打診したものの、ほとんど断られたという。
ミラーさんは「(LGBTQ+コミュニティに向けられた)敵意のために、活動の継続は容易ではありません」とハフポストUS版に語った。
「この町には、『堂々と祝うくらいなら、出て行って他の場所でやってほしい』というような“スモールタウンメンタリティ(小さな町根性)”があり、多くの地元企業は沈黙を守っています」
現在、ミラーさんらは州内のLGBTQ+団体との提携やドラァグショー、アートイベントで集めた資金で活動を続けている。
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。
