ため息のススメ|イライラ・不調を上手に逃がす秘訣は「ため息」だった

呼吸法の最大のメリットは誰でもいつでもどこでもできるということです。

この記事は2018年9月22日サライ.jp掲載記事「ため息のススメ|イライラ・不調を上手に逃がす秘訣は「ため息」だった」より転載したものを元に加筆・修正したものです。

ヨガ、太極拳、禅など、「呼吸」を意識した健康増進法はあまた存在します。呼吸に変化をつける事でなぜ気持ちを落ち着かせたり、体を健康したりできるのでしょうか?

近年の研究で、そのメカニズムが明らかにされ、注目が集まっています。そこで今回は自律神経と呼吸法について解説します。

自律神経の働き

まず、神経は「体性神経」と「自律神経」に大別されます。

体性神経は感覚や運動を司る神経です。一方、自律神経は内臓の動きをコントロールする神経系で、体を活動させる働きを持つ《交感神経》と、体を休ませる働きがある《副交感神経》の二種類の神経で構成されます。この相反する神経が「バランス」を保って臓器の働きを調整しています。(※ただし消化管など一部の臓器は、副交感神経に紐づいています)。

自律神経は、カラダが安定するように全身をコントロールする働きを持つため、バランスが崩れると全身にいろんな支障をきたしてしまうのです。例えば、不眠、動悸、心身症、神経症、高血圧、メニエール病、肩こり、眼精疲労、疲れやすさ、便秘などは自律神経の機能異常を疑わせる症状です。

年齢とともに自律神経機能は落ちる

そんな自律神経ですが、年齢とともに不安定になり、バランスが崩れやすくなると報告されています(*1)。自律神経の機能は30歳代までは比較的変化がありませんが、40歳代以降で顕著になるものと考えられています。この原因は、年齢自体が自律神経機能に影響を与えることの他に、加齢と密接な相関を有する高血圧や脳血管障害などの「病気」が自律神経機能に重大な影響を与えることが挙げられます。また、安静状態で高齢者は交感神経系が優位の状態となっていることが多いと言われています(*2)。

自律神経は「呼吸」でコントロールできる

心臓や大腸などの内臓は意識的にその働きをコントロールできません。一方、呼吸は無意識的になされるものですが、同時に意識的に呼吸をコントロールすることも可能です。呼吸のもつこうした性質を活かし、ヨガや太極拳、自己制御の方法として「呼吸法」が重視されてきました。

英語の「take a deep breath」には「落ち着いて」という意味もあり、深呼吸が落ち着きをもたらすことは昔から経験的にわかっていたのです。実際、不安感情は交感神経を活性化させ副交感神経を不活性化させ、普段より早く浅い呼吸になることが判明しています(*3)。それを意識的にコントロールすることができるのは「呼吸」であり、呼吸の科学的研究が注目を集めています。

様々な呼吸法が自律神経に及ぼす影響

呼吸法がリラクゼーション効果や副交感神経の働きを高めるメカニズムは次のように考えられています。

腹式呼吸では、ゆっくりと大きな呼吸を行うことで、副交感神経系の「迷走神経(心臓や大腸などの内臓を動かす神経)」が刺激され過度な圧受容器反射(血圧の値を一定の範囲に保持するための反射システム)を抑制します。

呼吸状態の変化は心臓に戻る血液の量にも影響し、その結果、副交感神経優位の状態がもたらされると考えられています。さらに、循環反応でみると「ストレスホルモン」と言われているアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール濃度が減少し、全身的にストレス負荷の少ない状態が作り出されます(*4)。

太極拳、ヨガ、瞑想の呼吸法の特徴

太極拳やヨガでも呼吸が健康効果をもたらすという研究報告が多く見受けられます。実際、これらの呼吸により脳波のα波(落ち着いている時に出る脳波)成分の変化と脳内の幸せ物質「セロトニン」が活性化することで、大脳皮質が活動的になり、リラックス効果や副交感神経優位な状態をもたらすと報告されています(*5)。

太極拳:平均年齢 57 歳の壮年期にある健常者が「太極拳式呼吸」を行うと、ストレス解消や副交感神経機能の亢進が起こり、リラクゼーション効果があったと報告されています(*4)。

*太極拳式呼吸:腹式呼吸ですが、息を吐くときに腹部を張り出させず、さらに動きと一体化して行う方法

ヨガ呼吸法:呼息を意識的に長くし、心臓迷走神経機能を亢進状態に導く方法。

ヨガ呼吸をおこなうことで副交感神経機能評価指標が何もしない時よりも35%上昇したという報告があります。また腹式呼吸併用のヨガ式体操は、仰臥位ではリラクゼーション効果を、立位ではリラクゼーション効果に加え活力を誘発したという報告があります(*6)。

副交感神経を高める(自律神経を整える)呼吸法のやり方

副交感神経優位な状態をもたらすのは「意識的腹式呼吸」です。意識的腹式呼吸は「吸気時間:呼気時間を約 1:2」とし、深くゆっくりとした呼吸で1分間に6回とします。

この意識的腹式呼吸に入る前に、腹式呼吸の練習として、腹部に手を当て、吸気のときはその手を押し上げるように空気を吸入すること、また、呼気のときは口をすぼめてゆっくり吐き、腹部の手には抵抗がない状態になるようにします(*7)。

意識的腹式呼吸の継続時間は研究により一定ではありませんが、概して10~20分程度継続することが良いとされています。現実的に、会社や外出先で意識的腹式呼吸にそこまで時間を避けないという人も多いと思いますが、少ない時間でも効果を実感できるかもしれません。

以上、自律神経と呼吸法について解説しました。呼吸法の最大のメリットは誰でもいつでもどこでもできるということです。深呼吸は時に「ため息」と感じられるかもしれませんが、ため息を吐ききることがイライラ・不調を上手に逃がす秘訣かもしれません。

【参考文献】

1.J Appl Physiol 81: 743-750

2.Hypertension 1990: 21; 498-503

3.Biological Psychology 2010: 84; 394- 421

4.形態 ・ 機能 2011: 10; 8-16

5.自律神経 2004: 41; 338-42

6.体育の科学 1999: 49; 388-93

7.高齢社会白書