欧州とアジアで今年に入って天然ガスの価格が急落している。これにより、世界中の液化天然ガス(LNG)輸出プロジェクトが想定される投資利益の引き下げを迫られ、コスト面で重圧にさらされるばかりか、一部では中止に追い込まれる案件も出てきそうだ。
英国の天然ガス価格の指標は、8月受け渡し分が年初からほぼ半分になった。背景には、暖冬や省エネの取り組みによる全般的なガス使用量の減少、再生可能エネルギーなど他の燃料との競合の高まり、人口伸び率低下を受けて需給が緩んでいることが挙げられる。
アジアでも、需要鈍化や太平洋地域で新規の供給源が利用できるようになったことから、今年のスポット価格は40%超も下がった。
ロシアからウクライナを経由した欧州へのガス供給になお支障が出ていて、日本では東日本大震災の影響に伴う原発の運転停止が続いているが、それでもこうした価格下落が起きている。
アナリストによると、価格水準が低いままならば、北米から東アフリカに至る大規模でコストのかさむLNG輸出プロジェクトの多くは、問題に見舞われることになるという。
ロイヤル・ダッチ・シェル
欧州とアジアの価格下落は、米国の価格に対するプレミアムが急速に縮小していることも意味しており、この流れが続くようなら、一部の米国のLNG輸出プロジェクトの採算が厳しくなる恐れが出てくる。
米国ではシェールガスなどの非在来型ガスの開発が活発化したため、天然ガス価格は2008年以降で大きく下落し、足元では100万英国熱量単位(BTU)当たり3─5ドルとなった。
業界のデータでは、現状で米国のLNG輸出プロジェクトが黒字を出すには、欧州の価格が100万BTU当たり9ドル、アジアでは10.65ドルでなければならない。
しかし7月初めの英国の価格は100万BTU当たり6.25ドルで、米国のプロジェクトの黒字化可能範囲を大きく逸脱している。またアジアの価格も11ドルまで下がっており、採算性が微妙になってきた。
さらにアナリストによると、米国がLNG輸出を予定通り来年から始めれば、供給が海外で増えて国内で減るため、欧州とアジアの価格が下がり、米国の価格は上昇してしまう。
米国のあるLNG輸出プロジェクト関係者は「われわれは以前行ったコストとリターンの見通しを再検討中で、より低いガス価格の環境で競争力を保てるように生産コストも減らさなければならなくなる」と嘆いた。
日本で計画通りに一部の原発が再稼働し、ウクライナ危機も終息した場合は、欧州とアジアのガス価格は一段と下落する事態もあり得る。
<価格下落局面は続くか>
天然ガスは今年最も需給が引き締まる時期が経過したことから、全般的には弱気な価格見通しが広がっている。それでも再び価格を押し上げる可能性がある要因が、なおいくつか存在する。
ガス市場が天候に非常に敏感であることは、昨年末から今年初めにかけての米国の寒波が価格高騰を引き起こしたという事実からも明らかだ。このためトレーダーによると、2014/15年の欧州の冬が長く厳しいものになれば、ガス価格は50%超上がって昨年の水準まで戻ってもおかしくないという。
またガス市場は、11年の北アフリカや現在のウクライナで見られるような政情不安にも価格が左右される傾向がある。
欧州においては北海の天然ガス資源が減少してきているという問題もある。英国のガス生産量だけみても、11年の452億立方メートルから昨年は365億立方メートルに落ち込んだ。英国のガス生産は、シェールガス生産を開始しても全体としては減少傾向が続くと予想されている。 [ロンドン 10日 ロイター]
(Henning Gloystein記者)
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