「指示があったと言って欲しかった」。監督には届かなかった日大アメフト選手の無念(一問一答)

「『潰せ』は怪我させる意味と思った」とも語った
記者会見で頭を下げて謝罪する宮川泰介選手=東京・日本記者クラブ
記者会見で頭を下げて謝罪する宮川泰介選手=東京・日本記者クラブ
Kazuhiro Sekine

アメリカンフットボールの関西学院大と日本大の定期戦で、関学大の選手が日大の選手に反則タックルをされて負傷した問題で、タックルをした宮川泰介選手(20)が5月22日に日本記者クラブで記者会見し、詰めかけた報道陣らの質問に答えた。一問一答は次の通り。

――ご自身にとって、内田監督の存在とはどういうものなんでしょうか。そしてコーチの存在というのはどういうものでしょうか。今回の一件を通してその見え方に変化はあったでしょうか。最後にもう1つ。今、監督やコーチに伝えたいことはありますでしょうか。

「先ほども話した通り、いくら監督、コーチからの指示があったとはいえ、僕がやってしまったことについては変わらないと思っていて、とても反省しています。監督、コーチに対して僕がどうこう言うことではないのかなっていうふうに思っています」

――ご自身の、その部内での在り方について、監督の存在というものはどういうものだったか、教えてください。

「日本代表に行くなって言われた時もそうですし、『なぜですか』とかいう意見を言えるような感じではなかったと」

――今伝えたいことありますか。

「僕の方から伝えたいことはないです」

――去年の甲子園ボウルで素晴らしい活躍を見せてくれたあなたが、こういうことにならなければならなかった。どこで判断を、自分としては誤ってしまったんだろうと思われますか。

「この試合があった週、1週間を通してですけども、監督、コーチ陣からのプレッシャーがあったにしろ、プレーに及ぶ前に、自分で正常な判断をすべきだったなと思います」

――関学のクォーターバックの選手は謝罪は受け入れてくれたんでしょうか。

「僕の謝罪をうなずく形で受け入れてくれました。聞いていただきました」

――これまでチーム内で、こういったケースというのがあったんでしょうか。先輩などもこういったことがさせられてきたんでしょうか。

「僕では把握していないです」

――試合直後、涙を流されたということですが、つまり、その直後からもう大変なことをやってしまったという思いがあったということでしょうか。明らかな反則行為なわけですけれども、もう直後から悔悟の念がよぎるその行動を、なぜしてしまったのか。監督の指示が、ご自身のスポーツマンシップを上回ってしまったその理由は何でしょう。

「監督、コーチからの指示に自分で判断できなかったという、自分の弱さだと思っています」

――逆に言えば監督コーチがそれだけご自身にとって怖い存在であったということですか。

「はい」

――陳述書の内容と少し重複しますけれども、監督コーチからの指示は『潰せ』という内容だったんでしょうか。それ1つでしょうか。

「コーチから伝えられた言葉は『潰せ』という言葉だったと思うんですが、あの、上級生の先輩を通じて、相手の選手をどこでもいいから潰してこいと。秋の関西学院との試合の時に備えて、クォーターバックが怪我をしていたらこっちも得だろうという言葉もあり、怪我をさせるという意味で言っているんだと思いました」

――クォーターバックが怪我をすれば、秋の試合に出られなくなるのでこちらの得だろうと。その言葉を聞いて、ご自身は『潰せ』の意味を、怪我をさせるととらえたということでしょうか。日大側が言う、指導と受け取った側の乖離、これは一切ないというふうにお考えでしょうか。

「自分としては、そういう意味で言われてる以外にとらえられなかったので、やるしかないという状況でした」

――もしこれを拒否していたらどうなっていたとお考えでしょうか。やってしまってもフットボールができなくなってしまった可能性も高いし、やらなかったらやらなかったでフットボールができなくなっていたんでしょうか。

「この試合の前までに練習に入れてもらえなかったっていうのもありますし、どうなっていたかは、はっきりは分からないですけども、今後ずっと練習に出られないとか、そういう状況にはなりたくなかったっていう気持ちです」

――ご自身にとってアメリカンフットボールというのはどのような存在なんでしょうか。

「私自身、高校のころからアメリカンフットボール、コンタクトスポーツを初めてやるということもあってとても楽しいスポーツだなと思い熱中していました。大学に入って、厳しい環境といいますか、徐々に気持ちが変わっていってしまった部分もあります」

――気持ちはどのように変わっていたんですか。

「好きだったフットボールがあまり好きではなくなってしまったという部分です」

――それはどうしてでしょうか。

「何が原因とは分からないですけど、徐々に気持ちがあまり好きじゃなくなってしまったのかなと思ってます」

――今後ご自分としてはどのようにすごしていくことが望ましいと考えていらっしゃいますか。

「もちろん、今後僕がフットボールを続けていくという権利はないですし、この先、今のところ、何をしていくべきなのかもわからない」

――内田監督の会見はご覧になりましたか。

「あまりちゃんと見れてないです」

――少しはご覧になりましたか。どんな印象を抱きましたか。

「それに関しても僕がどうこう言うことではないと思っています」

――日本代表の発言があった時に、「『行くな』と言われて何も答えられなかった。『はい』としか言えなかった」と。日頃から監督に対しては、そういった指示に対しては否定できない空気だったんでしょうか。

「基本的に監督と直接お話しする機会はあまりないんですけども。そういう意見を言えるような関係ではなかったです」

――厳しいという言葉が部内でありましたけれども、厳しい中に理不尽ということも多々ありましたか。

「理不尽といえば理不尽な部分もあったかもしれないですけど、練習すべてを含めて今日の結果も出たと思っているんで。理不尽なことがありながらも、練習してると思います」

――最後に申し訳ありません。ご自身にとって監督、コーチ、信頼はありましたか。

「井上コーチに関しては、高校2年生の時から監督をやっていただいていたので、その頃から信頼はしていたのかもしれないです」

――内田監督については。

「内田監督については、そもそもお話しする機会が全然ないので、信頼関係と言えるものはわからないです」

――コーチや監督の理不尽な指示があってこういう形になった後、例えば同僚とか先輩とか周りの人達から「いや、お前は悪くないんじゃないか」「監督とコーチの責任じゃないか」という声は上がらなかったんでしょうか。

「上がっていたと思います」

――それを聞いてどう感じていらっしゃいますか。

「指示があったにしろ、やってしまったのは私なわけで。人のせいにするわけではなく、やってしまった事実がある以上、私が反省すべき点があると思います」

――もうアメリカンフットボールやらないということでしたが、今後調査で明らかになって、関学の被害者の方々が許して、「もう一度アメリカンフットボールやってくれよ」と言われたらやった方がいいんじゃないですか。

「今はそのようなことは考えられないです」

――将来的にはどうですか。もう一度仲間と一緒にアメリカフットボールをやりたいという気持ちはないですか。

「今のところはないです」

――試合当日、整列の時に、コーチから「できませんでしたじゃ済まされないぞ。わかってるな」と声をかけられたということですが、これはコーチからの念押しととらえてよろしいんでしょうか。

「はい、そうだと思います」

――そのコーチはいつもそういったことを言ってくるような人物なんでしょうか。

「このような状況は滅多にあることではないので、それは分からないです」

――ただ、その声を他にも聞いている選手がいた?

「うーん、まあ、整列をしている時なので、隣の選手に聞こえていたかもしれないですけど、はっきり聞こえてたかどうかはわからないです」

――試合の後、口止めなどは感じられたことがありますか。

「口止めというのはないです」

――もしかしたら代理人にうかがえばいいかもしれませんが、この会見は、日大側の本部なのか運動部なのか、監督、コーチ、どこまで把握されてるんでしょうか。

(代理人の弁護士)「それは私の方から。昨日、事情聴取を大学本部の方で受けた時に、『近い将来、極めて近い将来に事実について話をする機会を設けさせていただくつもりでおります』ということは申し上げました。その時点ではまだ、会場は決まってなかったんですが、昨日の夜の時点で公表しましたし、それについては当然ご存知のはずだと考えています。それから大学の窓口になっていただいている事務の方には会見を開くことは明確に伝わっています」

――今後、ご自身が監督やコーチと会う機会は設けられているでしょうか。その予定はありますか。

(代理人の弁護士)「それも私の方からお答えした方がよろしいでしょうか。実は昨日、大学当局、総務部でお話をした後に、代理人の弁護士さんとおっしゃる方から接触がありました。それは先ほど申し上げた通りでございます。その時に事情を聞きたいというふうにおっしゃってたのは、あくまで部から頼まれた代理人として聞きたいということでしたので、接触があったのはそれだけでございます。ですから、監督とかコーチから何かを聞きたい、事実について聞きたい、あるいはなぜそういうことをしたのか聞きたい、というのは今の今まで、ただの一度もありません」

――退部届を出してまだそれは受理されてない?

「退部届というものは、あまりよくわからないです」

――新監督も含めて、新たなチーム、マネジメントができる可能性もあるということですが、その新たなチームのメンバーに対して、何か一言あればお願いできますか。

「それは僕の方から言うことではないと思うので」

――これから先の人生長いと思うんですが、今回の件で一番、ご自身として勉強になったことはどういうことですか。

「少し考えれば、自分がやったことが間違ってるっていうのを前もって判断できたのに、自分の意思というのを持つことが今後重要だと思います」

――先ほど「弱さ」とおっしゃっていましたが、今改めて振り返って、あの時違反行為をしないという選択肢はありましたか。

「あの時の自分は、そういうことは考えられませんでした」

――それはどうしてでしょうか。

「(試合の)3日前では、その1週間で追い詰められていたので、やらないという選択肢がないという感じでした」

――あの時、今思っても、やっていたっていうことになるわけですかね。

(代理人の弁護士)「すいません。今のは仮定の質問なので、よろしいですかね」

――ご自身で「指示があったとしても従わなければよかった」「私の責任です」とおっしゃいますが、追い詰められた状況で、あの指示が出されたら、非常に酷な状況だと思います。そういった指導のあり方について、今後アメフトをやられる後輩たちもいますから、そういった状況、環境、そして指導についてはどのように考えますか。

「指導については僕が言える立場ではないので。二度と同じようなことが起きないことを望みます」

――今日、会見に臨むという、強い意志を持つ方が断れない状況になっているということは、また繰り返される可能性もあるという意味もあって、ここで伝えておかなければならないメッセージをお持ちかと思うのですが。

「自分の意思に反するようなことは、フットボールに関わらずですけども、全てにおいてするべきじゃないと思います」

――指導する側に求めるものもあると思いますが。

「指導する側については先ほどから言ってる通り、僕がどうこう言うことではないと思っています」

――試合当日、5月6日、どういう形であれ、あなたはグランドに立ったわけですが、最初に反則をしたプレーで、審判の笛は聞こえていましたか。

「投げ終わったということはもう気づいていました」

――プレーが終わったということは認識していた?

「はい」

――危険な最初のプレーが終わった直後、どんな思いだったんでしょうか。

「何かを考えられるような状況ではなかったです」

――交替のあと、テントの中で涙をしていたあの時、(井上コーチから)「優しすぎるからだめなんだ」と言われて、どのように受け止めましたか。

(十数秒の沈黙)「その時はあんまり考えられていません」

――こうやってきちんと説明している中で、いまだに内田監督、日本大学はきちんと真実について説明をしていない。そういう態度についてどう感じていらっしゃいますか。

「自分がやってしまったことなので。監督、コーチをどうこう言うことじゃないですけども。償いの一歩として、真実を話さないといけないんじゃないかなと思って、この場にいます」

――その意味で言うと、内田監督や日本大学は関学の被害者の選手に対して、誠意ある謝罪をしようという、そういう気持ちは感じられないですか。

「僕の方から言うことではないと思います」

――今回、井上コーチからあった「1プレー目でクォーターバックを潰せ」といった指示ですが、日大アメフト部では通常そういう指示というのはあるものなのか。それとも今回は特別、あなたに指示があったのか。

「特別です」

――去年も甲子園ボウルで活躍されてますけれども、5月3日以降から、突然そういうプレッシャーが強くなったのか。それとも入学した時からずっとそういうプレッシャーはあったのか。

「突然ですね」

――その理由についてはどう思われますか。

「やる気が感じられないとか、闘志が感じられないっていうふうに監督、コーチから言われていたので、そういう理由だったのかなと思います」

――やる気がないように見える、何か要因があったんですか。

「それはわからないです」

――内田監督は、具体的な指示をすべて井上コーチだったり、コーチを通じて選手にするものですか。

「その場合が多いです」

――今回のケースも、そもそもの指示というのは、内田監督からの指示だと認識していいですか。

「僕はそう認識してます」

――あのタイミングでのあのタックルというのは、関学側の会見の中でもスポーツではなく暴力だという発言がありました。今ご自身の中で、あの行為はスポーツの中のプレーだったのか、それともやはり、暴力と言われても仕方がない行為だったのか。

(代理人の弁護士)「恐れ入ります。法的な責任の問題にからみます。このことについてはご容赦頂きたいと思います」

――スポーツを逸脱した行為だったかというレベルでうかがうのは大丈夫でしょうか。

(代理人の弁護士)「皆さんもうお分かりだと思いますけれども、客観的な行為からみて、刑事事件、民事事件の可能性が含まれている事件だというふうに私は認識しています。そういう意味では今後の責任が生じる形でのご質問をお控え頂きたいということでございます」

――監督が辞任しました。ご自身からみて、今後、日大のアメフト部にとって監督が辞任するということは、チームのためによくなっていくととらえていますか。それとも、このまま残った方がよかったととらえていますか。

「僕がここに今日来たのは、謝罪をするためであって、真実を話すために来たので、今後チームがどうなるとか、そういうことは僕の口から言うことじゃないと思ってます」

――指示があったにもかかわらず、かばってくれなかった監督に対して何か裏切られた気持ちはないでしょうか。

「最初から両親と監督と面会した時に、指示があったってことを出してほしいということは伝えていたので、出してほしいという気持ちはあります」

――昨日、被害者の父親が被害届を提出したという話がありました。もちろん内容に関してはお答えできないことがあると思うんですが、選手個人に被害届が出されて大阪府警が受理をしたということに関しては、どのようにお感じになりますか。

「被害届を出されても仕方がないぐらいの、向こうの選手、ご家族からしたらそれは当然だと思っています」

会見の最後、宮川選手の両親の言葉を代読する代理人の弁護士
会見の最後、宮川選手の両親の言葉を代読する代理人の弁護士
Kazuhiro Sekine

会見の終わりに、代理人の弁護士はこう述べた。

「私の方から、今後の取材についてのお願いを申し上げたいと思います。本件の後、本人とそのご家族は平穏な生活が営めなくなっております」

「本人にとってこの会見は、本件に幕を引くためのものではなくて、今後様々な責任を果たしていく出発点でもあります。そのためにも代理人としては、本人とその家族には、一日も早く平穏な生活を取り戻し、再度のスタートさせていただきたいと願っております」

「そこで本件についての今後の取材については、本人への直接の取材はぜひお控えくださるようお願いいたします」

「必要な取材の申し出については皆様にお配りした資料の裏側の下の方に代理人の連絡先を記載してございます。これを窓口とさせて頂きますのでよろしくお願いいたします。代理人としては皆様のご要望にできる限りお答えすることをお約束いたします」

そして、涙ぐみながら、宮川選手の両親の言葉を代読した。「どうか皆様には、将来に向かって歩もうとしている本人の今後を、静かに見守って下さるよう、心からお願い申し上げます」

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