海外でこそ磨かれる「変化」に強いキャリア〜台湾ワーホリから中国・深センでドローン事業を立ち上げた川ノ上和文さん〜

もったいないのは「自分が海外キャリアに向いていることに気づけていない人」がいること。
川ノ上 和文

xyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)CEOの川ノ上和文さんが、寿命100年時代のキャリアを高める"戦略的ワーホリ論"について語る連載の第8回。

画一的なキャリア観の根強い日本を飛び出して出会ったのは「自分にしっくりくる環境」だった?「海外へ出るべきか辞めるべきか」悩むあなたの背中を押してくれること間違いなし!

海外へ出たら「自分に合う環境」が見つかった

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-これまで台湾・深センと活動の舞台を移しながら、川ノ上さん自身に何か変化はありましたか?

川ノ上:いえ、私の場合は海外経験によって自分自身が変わっていったというよりも「自分に合う環境を見つけられた」という方が合っていると思います。

今でこそこうして自分なりの考えを持って生きるようになりましたが、20代前半の頃は自分のキャリアや在り方を模索する日々でした。

目標を定めて深く深く掘っていく「垂直型キャリア」が主流の日本では、その道から一歩外れてしまうと、すごく戻りにくい雰囲気があるじゃないですか。

私自身、いわゆる日本的なキャリアからの"はみだし感"を持っていましたし、だからこそ他の人たちとは違うキャリアを築いていかざるを得なかった。

とにかく自分なりに軸足を立てて、生きる術を身につけていかなくちゃと考えていました。

-川ノ上さんのキャリア観に、中国のどんなところがマッチしたのでしょうか?

川ノ上:そうですね、一番しっくりきたのは「変化に対する柔軟性」だったと思います。綿密な計画を立てることを得意とする日本とは違い、中国ではよく計画が変更されます。

企業同士の取引はもちろん、日頃の約束も「今日の予定は今日決まる」といった感じで、前もってスケジュールを組んでおくことは日本に比べて少ないように思います。

その習慣を表すような中国の言葉に「計画は変化に追いつかない」というものがあります。12年前、留学していた時に知ったのですが、この言葉との出会いは今でも覚えているくらい、私にとってすごく印象的でした。

この言葉から読み取れるのは、中国では計画を超える変化が起きることや、変化を柔軟に受け入れる姿勢そのものを「価値」と捉えているということ。日本とはちょっと違う文化ですよね。

過去の積み上げよりも「今この瞬間を生きること」とか「この日のこの瞬間で価値を出すこと」が評価されやすい中国でなら「自分なりにいい挑戦ができるんじゃないか」と思えたことが、今につながるきっかけになったのかもしれません。

中国・深センで磨かれる「瞬発力と柔軟性」

川ノ上 和文

-現在滞在する深センでも、やはり中国らしい「変化」を感じますか?

川ノ上:はい。深センは今や中国の経済成長をけん引する都市の一つとして急速に発展し、その勢いを増しています。

その様子は「深センスピード」と呼ばれ、この場所に集う事業家からも時折聞かれるほどです。

また、深センの特徴を表す『深センの十大思想』の1つにも「時間は金銭だ、効率は命だ」という言葉があります。

特に目に見える変化として顕著なのが「電車」でしょうか。

2017年時点で深センを通る地下鉄や鉄道は8路線ありますが、約10年前の2008年には東西南北を走る2路線だけでした。これが約20年後の2035年には20路線にまで増える計画があります。

市内中心地から空港までを約30分でつなぐ路線も2016年6月に開通し、劇的に便利になりました。

開通当日に私は深センにいてニュースを見ていましたが、乗客はみんな楽しそうに車窓からの景色を写真に収めていました。

こうした状況は交通インフラ整備のスピードもさることながら、深センで行われている都市開発規模がいかに大きいかを思い知らされる例だと思います。

日本ではもうこれだけの規模の土地開発を目の当たりにすることはないでしょうから、現地で見ていると日々街の変化を感じ取ることができ本当にワクワクします。

それから驚くべきことは、深センが経済特区として歩みだしたのが1980年でしたから、香港に隣接する小さな村から大都市に成長するまでたった37年だということ。

これだけ早く、そして大きく成長できた背景には、北京や上海等に比べて"守るべき歴史"があまりなく新しいものを受け容れる土壌があったことも影響していると思います。

いい意味で"守るものがない"深センだからこそ、新しいことをやりたい若い人や海外経験がある人が集まり「自分たちが文化を作っていくんだ」という活気を生むのでしょうね。

実際、深セン住民の平均年齢は30代前半で若いですし、深セン以外の地域から移り住んだ人々が多い「移民都市」でもあります。

海外留学から帰ってきた中国人の深センでの就業は年々増えており、2016年時点で留学経験者の年間流入人口は1万人超え、総数も8万人を超えています。

2000年時点で深セン在住の海外留学経験者は約1000人だったようで、まさに「深センスピード」で人が集まっていますね。

『深センの十大思想』の中にも「来たらあなたは深セン人」というフレーズがあり、多様な人材受入に積極的な様子が伺えます。

-そんな深センをご自身の"勝負の舞台"に選ばれたと。

川ノ上:はい、アグレッシブな深センの雰囲気が私にはすごく合っていて、むしろ「変化の波を上手くとらえてやりたい」という気持ちにさせられるんですよね。

今、深センで暮らしながら感じるのは、柔軟な思考力と瞬発力が強く求められるということ。

細かい計画に従順に進めることよりも「行動を起こしてみる」ことを大切にしますし、1つ1つ段取りをして準備してると「この瞬間に乗り遅れるかもしれない」という緊張感が生まれるほどです。

変化が起きた時には「自分ならどうアプローチするか」を考えて動いたら良いし、もし間違ったことに気づいたならすぐに軌道修正してやり直せば良いわけですから。

中国全体の起業家たちを見ても、3年後はおろか来年の計画さえ具体的ではないケースがかなりあるように思います。

もちろんアリババやテンセントのような大企業は今となっては別でしょうが、スタートアップ企業であれば"3年後生き残っているかどうか"も分からない。

だからこそ「一瞬一瞬に勝負をかける」という考えを持ち、変化の大きな環境を取り込んでやろういう熱意あふれる人たちが特に多いと思いますね。

それに深センでは同時多発的にいろんな場所でいろんなことが起こるので、情報収集はかなり重要です

日本ならニュース等のメディアを通じて、大抵の流れや動きを把握できますが、こちらでは自分からアプローチしていかないと情報収集が追いつかないほどです。

雑誌や新聞に載らない情報ももちろんあるので、足で稼ぐことも積極的にすれば、面白い情報や人と出会う確率が高まります。

ここまではポジティブなお話でしたが、ネガティブな面もあります。

変化が多い環境では「忍耐力」もとても重要です。約束事や会議予定もすぐに変更されますし、重要な決め事ほど前倒しで決めておきたい日本的な感覚との違いは大きく、正直言って疲れることもあります(笑)。

しつこいくらいに確認が必要ですし、曖昧さを敏感に捉えて極力排除しながら詰めていかねばなりません。話の論点がずれていたり、違う捉え方をされていたりと、言葉ができるだけではダメなこともしばしばです。文脈や話の流れを意識的に作っていかないと議論がかみ合わないんです。

私は日本人的に見れば計画を立てることが苦手で、"瞬間風速"で勝負するようなスタイルなのですが、この私でさえ深センでは「きっちり細かいやつ」とみられていますし、実際頻繁に変わる予定にストレスが溜まったりもします(笑)。

欧州経営大学院教授エリン・メイヤー氏は、著書『異文化理解力』の中で「文化差は相対的な位置関係」と述べています。vol.1で「相対価値」という話をしましたが、まさに"所変われば価値変わる"です。

彼らにはないこれらの感覚を持ち合わせているからこそ、外国人としてその土地で価値を出せる一つの切り口になっていると思います。

海外で広げよう「キャリアの可能性」

川ノ上 和文

-現在海外でビジネスをする1人の日本人として川ノ上さんが思う、「海外でのキャリアづくり」に必要なものとは?

川ノ上:そうですね。まず私が考えるに、"海外でのキャリア"には大きく分けて2種類あります。外資系企業や海外駐在を経てキャリアを積み上げていくようなスタイルが一つ。

ある程度決まった仕組みの中で自身のスキルアップを目指していく感覚です。

そしてもう一つは「たたき上げ」で自分だけの道を切り拓くスタイルのもの。現地採用組もこちらに入るかな、と思います。

私の場合は完全に後者です。だからこれから私がお話しするキャリア論は、あくまでも「たたき上げ」の事例として見てもらえればと思います。

海外で自分だけのキャリアを見つけようと思ったら、まずは「可能性を制限しない」ことです。

もうやりたいことが明確に決まっている場合は別ですが、そうでなければ、まっすぐ深く掘り下げていく「垂直型キャリア」から、新しい領域を広く開拓していく「水平型キャリア」へシフトチェンジするイメージを持つとよいと思います。

特に日本ではキャリアに対する固定観念がまだ根強くあって、「学校卒業して3年勤めるべき」とか「大企業に入れば安泰」というのは今でもまだ言われていることですよね。

無意識のうちにすっかりそう思い込んでしまっている人は少なくありません。

そんな状況で「新しい領域を開拓する」なんて言われるとすごく負担に感じるかもしれませんが、だからこそワーホリのような制度を活用して、キャリアの軸足を「"試しに"横へ広げてみる」のがオススメです。

それにこれからの"多様性の時代"においては「こだわりすぎない」ことも大事なことかなと思いますし。

-「こだわりすぎない」というのは?

川ノ上:自分の意志でコントロールする垂直型キャリアと違って、水平型キャリアは外的要因に依存する部分が大きいんです。

新しい出会いや未知の文化との遭遇といった「想定外の出来事」を取り入れることに水平型キャリアの良さがあると思うので、「自分はコレだ」と決めつけない、どうなるか分からないけどやってみる。

いい意味での「こだわりすぎない」姿勢が、結果として豊かなキャリアにつながるんだと思います。

もったいないのは「自分が海外キャリアに向いていることに気づけていない人」がいること。

せっかく与えられている"ワーホリ"という権利を活用して、海外でのキャリアづくりが自分に向いているかどうか、ぜひ挑戦して確かめてもらいたいなと本当に思います。

もしかするとこの記事を読んでいる方は、もうすでに海外でのキャリアへの一歩を踏み出しているのかもしれませんよね。

何かしらのきっかけで「海外」というキーワードに関心を持って、ABROADERSのサイトにたどり着いたわけですから。

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次回はついに最終回!

海外キャリアの第一歩「ワーホリ」で本当に大切なこととは?

【プロフィール】

川ノ上 和文/Kazufumi Kawanoue

xyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)CEO

大阪出身、中国・深セン在住。xyZing.innovation(エクサイジング イノベーション )CEO/総経理。深センを軸としたアジアxMICE(Meetings,Incentives, Conferences,Events)の事業開発をてがける。高校卒業後、東洋医学に関心を持ち北京留学。その後留学支援会社での講座企画、上海での日系整体院勤務、東京での中国語教育事業立上げ、台湾ワーキングホリデーを利用した市場調査業務に従事。新興国や途上国における都市成長やテクノロジーの社会浸透、人間の思考や創造力の開発に関心が高い。現在、ドローン活用の思考枠を拡げるための場として深センでアジアドローンフォーラムの開催準備中。

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