サイボウズ式:クリスマスにオススメ。世界中の子どもを魅了するスマートおもちゃ、Moff Band とは?

「家族のためになるものを作りたい」という思いを起点に始まったMoffのプロジェクト。ユーザーが「本当に欲しい」プロダクトを作るために用いるのは、リーンスタートアップの手法です。「ユーザーの声が全て」というゆるぎない方針のもと、Moffのチームが具現化する次世代のプロダクト作りとは。

2014年2月末にその構想が発表された子ども向けスマートトイ「Moff」。手首にMoffをつけると、BLE(Bluetoothの規格の1つ)で連携させたスマートフォンやタブレットが自分の手の動きに連動してアプリ側で音を鳴らす。ギターの演奏から電車の音まで、様々な効果音を自由自在に楽しむことができます。

このコンセプトには共感の声が多く集まり、2014年4月には目標の4倍にあたる約8万ドルの資金をKickstarterで調達。Kickstarter上の支援者の声も反映させながら、10月15日には日本で、11月3日にアメリカで発売されました。

「家族のためになるものを作りたい」という思いを起点に始まったMoffのプロジェクト。ユーザーが「本当に欲しい」プロダクトを作るために用いるのは、リーンスタートアップの手法です。「ユーザーの声が全て」というゆるぎない方針のもと、Moffのチームが具現化する次世代のプロダクト作りとは。

おもちゃには課題がありあすぎる?

安藤:Moffを開発するに至った経緯から伺いたいですね。色々な課題を乗り越えてリーンに開発されたと聞いています。

高萩:Moffの始まりは、2013年1月に大阪で開催されたハッカソンでした。その後、シリコンバレーでプレゼンした際に、「IoT(Internet of Things)」や「リーンスタートアップ」というキーワードをヒントにもらって。帰国した同年3月くらいから本格的に開発に着手しました。

安藤:リーンスタートアップという手法については、既にご存知だったんですか。

高萩:いえ、しっかり実践するために提唱者であるスティーブ・ブランク氏の講演を聞きに行って直接彼に質問をしたり、手法自体を分析しながら実践していきました。課題発見のインタビューやプロトタイピング、ユーザーテストを繰り返して、2013年11月に今のウェアラブルの形状にたどり着いた感じです。

高萩昭範さん 株式会社Moff 代表取締役

三橋:そもそも、なぜMoffだったんでしょうか。

高萩:僕も米坂さんも幼い子どもがいるので、何となく家族のためになるものを作りたいという思いがありました。大阪のハッカソンも、「家族のコミュニケーションを円滑にする」というテーマで。親子間の課題を探って出てきたものが2つありました。1つ目は、子どもがおもちゃにすぐ飽きてしまうこと。買うことが嫌というより、捨てる行為が嫌という思いが強くて。もう1つは、iPhoneやiPadなどの登場で、画面に向かって遊ぶ時間がさすがに長過ぎることです。

三橋:その課題意識は、小さなお子さんのご両親が共通して持っているものだと?

高萩:後者の画面に向かう時間に関しては、「全然OK」という人もいるんですが、そういう人の多くは、「子どもなんて、好きに遊ばせておけばいいんだよ」っていうノリで、あ、これはけっこう根深い課題かもしれないと思いましたね。この2つの課題をいっきに解決できるプロダクトを考えて生まれたのがMoffでした。

メンバーはゴリゴリのエンジニア集団

安藤:ハッカソンが起点のプロダクトというのは面白いなと思うんですが、その時はどんなチームだったんですか?

米坂:技術メンバー2人と、企画2人の4人のメンバーでした。アイディアソンから始まってプロダクト開発までやるんですが、勝ち抜いて進んで、漏れた中からメンバーが加わる形なので、最終的に8人くらいになりました。ハードウェアに近いエンジニアばかりで、ハッカソン終了後もオンラインでミーティングをしたり、休日に集まって継続して活動していましたね。

米坂元宏さん 株式会社Moff 取締役兼CTO

高萩:ハッカソンの時に集まったメンバー、って今もですけど、ゴリゴリのエンジニアばかりで。ゲームアプリをやっていますじゃなくて、ゲームエンジンを作っていますみたいな。深い領域までやったことがある人ばかりですね。

安藤:経験も豊富で、各々の専門性が強いと、Moffが形になるまでに意見がぶつかることはなかったですか?

高萩:それはなかったですね。というのも、最初からチームの中で、リーンスタートアップのアプローチでやるという方針を決めていたので。 ユーザーの声が全てなので、プロトタイプに対してユーザーがダメだと言えば、それは捨てます。その分、エンジニアが納得できるように、ユーザーの声を深掘りして、しっかりレポートするようにしていました。

安藤:ハッカソンの頃は、まだ皆さんそれぞれ別の会社に勤めながら取り組んでいたんですか?

米坂:会社勤めのメンバーもいましたけど、私と高萩さんは当時フリーランスに近い形だったので比較的やりやすかったです。そもそも、夜や休日に勉強会をするのってエンジニアにとっては珍しいことではないので。Moffに関しては、新しい領域だし、自らやりたいという気持ちが強かったです。

安藤:余暇の時間でMoffを作ろう!と盛り上げるために気をつけていたことは?

高萩:強いて言うなら、集まる時にイベント性を持たせることくらいかな。例えば、終わったら最後はみんなで飲んで帰ろうとか、長野の高原で開発してみよう、とか。急に寒波が来ちゃって、マイナス15℃とかでしたけど(笑)。

三橋:素敵ですね。最初は余暇の時間でやっていたプロジェクトを本格稼働するために、他のメンバーを口説いた感じなんですか?

米坂:その必要すらなかったです。ずっとユーザーを中心に作っていて、ある時、高萩さんがユーザーインタビューをしに行ったら、もう子どもがMoffのプロトタイプで大はしゃぎで。これは、イケるぞっていう感触をみんなで共有できた瞬間があったので、そこから自然にスタートを切りましたね。

安藤:子どものその反応は、高萩さんの予想を遥かに越えていましたか?

高萩:まだ今のウェアラブル形状になっていないプロトタイプを、ある学童保育の小学1年生に見せたんです。そしたら全然反応がなくて、もう一回ピボットかなとブルーになって帰ろうとしたら、先生が「これ触ってみたい人」って呼びかけてくれて。その後、1人の子が触り出したら全員がバーッと寄ってきて遊び始めて。

安藤:初めて見る、おもちゃともわからないものなのに取り合いってすごいですね。

高萩:印象的だったのは、その中にすごく大人しい女の子がいたんです。それまで友達ともあまり遊んでいない感じだったのが、Moffで遊び出したらみんなと仲良く遊ぶようになって。リアルなコミュニケーションを活性化させるってすごいなと思いました。そんな光景を目の前で見たので、もうやるしかないっていう感じでしたね。

奥さんアイディアで課題が解決

安藤:高萩も米坂さんもお子さんがいらっしゃると、Moffユーザーが身近なところにいて良いですね。

高萩:そうですね、Moffのメンバーの家族も協力してくれています。それこそ、うちの嫁のアイディアも取り入れたりしていますよ。

三橋:お嫁さんのアイディア聞きたいですね。

高萩:例えば、ウェアラブル仕様になったのは完全に嫁さんのアイディアですね。当時は、物に付けたら音が鳴るセンサーデバイスを作っていたんですけど、物に取り付ける方法で悩んでいました。そしたら、奥さんがマジックテープを出してきて、腕につけてみたら?って。

三橋:なるほど。

高萩:同じ時、Moffのセンサーの値を統一的にとる方法を模索していたんですね。つける場所によってセンサーの値が変わっちゃうので、起点を決める必要があって。で、手首につけてデモをしたら、その課題も解決されることがわかって。ウェアラブルの形状になることが決まりました。

安藤:開発チームの方々のお子さんや家族からは、どれくらいのペースでフィードバックをもらっているんですか?

高萩:普段もそうですし、定期的に子ども体験会とかミートアップイベントをやっています。どちらかというと、子どもより親が気にすることの方が多い印象です。例えば、センサーの動きの認識は難しくて、センサー認識が厳しすぎるとパターンマッチングが厳しくて、子どもがその通り動かすのが大変になってしまう。逆に、甘くするとどんな動きにも鳴ってしまうので、トレードオフなんですが今はゆるめる方向で設計しています。

三橋:子どもが欲しいものと、親が求めるものとのバランスはどう取っているんですか?

高萩:最初は子どもが喜べばいいだろうと思っていたんですけど、結局、親が知って子どもに買うことが多いので。そこは少しずつ親目線というのも入ってきていますね。

日本に閉じこもる理由は一つも無い

安藤:Moffは、少人数でいきなり世界市場を目指していて面白いなと感じます。なぜ最初から世界を?

米坂:ユーザー層の多さと市場の成熟度を考えると、アメリカは自然な選択肢でしたね。また、Moffは、ハードとソフトを組み合わせたもので、コンテンツをクラウドから配信できるプラットフォームです。非言語で遊ぶおもちゃを展開するのに、日本に閉じこもる理由は1つもなかったです。

高萩:今の段階では日本のユーザーの方が多いですけれど、アメリカの市場は日本の数十倍はあるので。向こうでは、スマートトイの分野が当たり前になってきているので、啓蒙する必要もない。これまで中心だった西海岸に加えて、今後は東海岸も攻めていく予定です。以前に参加したDigital Kids Conferenceでも、「お前たちは業界で既に目立っているから、これからはアメリカでがちんこ勝負が始まるぞ」と言われました。

安藤:先ほどから、Moffはハードウェアではなくてプラットフォームだとおっしゃっていますが、今後に向けてどんな構想があるんでしょうか?

高萩:僕たちは、ハードウェアを作っているようで実はソフトウェアを作っているんです。最適なチームを組んで各国で自分たちのプラットフォームを広げて、その上に載せるコンテンツを提供していく。プラットフォーム的な発想が根幹にあります。

安藤:他デバイスとの連携なども視野に入れていると以前伺いました。

高萩:まだ具体的なお話はできないんですが、「拡張性」をキーワードに色々考えています。1つのブランドや製品にこだわらずに、ソフトウェア的な発想で拡張性をとること。それを存分に発揮できることをしようと思っています。

三橋:そのコンテンツとおっしゃるのは、「キッチン」とか「電車」といった音とジェスチャーの組み合わせのことですよね?

高萩:そうですね。今の構成要素は音と動きですけど、今、世の中に出回っている電子玩具の遊びの体験を、音でリプレイスしたらどうなのかという考え方で、コンテンツを広げています。例えば、アメリカの子に「電車」はそこまでウケないんですけど、日本の子には鉄板です。今後は文化圏に応じたコンテンツも出していきたいですね。

米坂:アプリをアップデートしていただけば、最近追加したクリスマスバージョンも楽しめます。一般的な電車やギターなどの音の他に、バイクの音なんかもあります。今は、全部で40〜50種類くらいあるのかな。

高萩:ユーザーさんから、あれをやりたい、これをやりたいと言ってもらいやすのは強みですね。色んなアイディアやフィードバックをもらいながら、2015年には色々発表していきたいなと思っています。

一番大事なのは「ワクワク感」、最後の砦はリーダーに

三橋:いいですね。Moffのチームにエンジニアさんは何人いらっしゃるんですか。

米坂:関わっている人数では、5、6人くらいですね。iOSセンサー、サーバー専門とかそれぞれの領域にがあって、自分はそれを俯瞰して見る立場ですね。

三橋:皆さん、もともと大手メーカーのエンジニアさんとかが多いんですか?

米坂:けっこう多いですね。自分も畑は違うんですが、IBMでずっとエンジニアをやっていました。他にも大手メーカーとか、有名なアプリ開発会社を経てとか。

安藤:Moffのチームを作る上で、米坂さんが大事にされていることを教えてください。

米坂:一番はユーザー目線ですよね。あとは、話をしていてワクワクすることをやることを重視しています。新しいことにワクワクして、やりがいを感じるエンジニアが集まっているので。

安藤:楽しみですね。本日はどうもありがとうございました。

取材後にMoffを実演

取材後、お二方にインターンの福島さんを加えてMoffを実演していただきました。

リリースしたばかりのクリスマスバージョンを鳴らす福島さん。

ギターをかき鳴らす高萩さん。

最後は全員で。

文:三橋ゆか里/撮影:橋本直己/編集:安藤陽介

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