「児童労働」はなぜ起こる?カカオ産業の未来について、高校生と企業が共に考えた

大阪・関西万博で「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」の参画企業がカカオ産業を取り巻く課題を紹介したほか、大阪の高校生が持続可能なカカオ生産の実現に向けたアイデアを提案した。

開催期間の終了まで、残り2カ月を切った大阪・関西万博。

テーマに「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げる今回の万博には、世界中の国や企業、団体などが集まり、最新技術やアイデアを通じて社会の発展や課題解決に向けた歩みを共に進めている。

そうした中、国際協力機構(JICA)が事務局を務める「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」は8月10日、大阪・関西万博テーマウィークスタジオにて、持続可能なカカオ産業の未来を考えるイベント「チョコレートをおいしく食べ続けるために、私たちができること」を開催した。

チョコレート産業は環境破壊や農家の賃金の低さから生じる児童労働など、数多くの課題を抱えている。こうした現状を受けて開催された本イベントでは、同プラットフォームの参画企業が各社の取り組みやカカオ産業を取り巻く課題を紹介したほか、大阪の高校生が持続可能なカカオ生産の実現に向けたアイデアを提案した。

カカオ産業の課題は「私たち」の課題

お笑いコンビ「チョコレートプラネット」の長田庄平さん(左)と松尾駿さん(右)
お笑いコンビ「チョコレートプラネット」の長田庄平さん(左)と松尾駿さん(右)
JICA

司会を務めたのは、お笑いコンビ「チョコレートプラネット」の松尾駿さんと長田庄平さん。

長田さんは「日本でも流通の整った食べ物(身近な食べ物)なので、作り手が十分な対価を得られていないと聞いて驚く人も多いのではないでしょうか」と会場に問いかけた。 

松尾さんは「小さい物なら何十円という安価で買えてしまいますが、実はその裏に色々な課題があるんですね。今日はJICAや企業の皆さん、そして学生の皆さんと一緒に勉強していきましょう」とコメントし、本編をキックオフした。

冒頭では、JICAの琴浦容子さんが登壇。イベントの主催である「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」では、カカオ産業を取り巻く課題を「社会的な課題」「経済的な課題」「環境的な課題」の3つに分類していると説明した。

「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」には業界団体、食品メーカー、商社、NGO、コンサルティング企業など、73団体148個人が参加しており(2025年6月時点)、メルマガ配信や出張授業、勉強会、スタディツアー、分科会活動などを実施している。
「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」には業界団体、食品メーカー、商社、NGO、コンサルティング企業など、73団体148個人が参加しており(2025年6月時点)、メルマガ配信や出張授業、勉強会、スタディツアー、分科会活動などを実施している。
JICA

西アフリカの主要な生産国であるガーナやコートジボワールでは、カカオ農家の約3分の2が生活に必要な収入を得られておらず、貧困が児童労働や環境破壊などの問題を引き起こす一因となっている。

琴浦さんは「機械を扱うなどの危険な労働内容もありますし、児童労働に従事することで学校に行けず、将来の選択肢が狭まることも大きな課題です。国の将来を担う子どもたちが教育を受けられないということは、将来の国の発展を阻害するということです」と、その深刻さを強調した。

また、1990年以降、カカオ栽培を含めた一部の産業による森林伐採などの影響もあり、世界の森林面積の10%が損失していることや、2023年以降は気候の変化により西アフリカではカカオの不作が続いていることにも言及した。琴浦さんは、日本で消費されるカカオ豆のほとんどが輸入に頼っていることを踏まえ、「カカオ産業が抱える課題は他人ごとではなく、企業や消費者一人ひとり、つまりは『私たち』の課題だと思います」とコメントした。

児童労働の是正における「キーワード」

カカオ豆とチョコレート(イメージ画像)
カカオ豆とチョコレート(イメージ画像)
fcafotodigital via Getty Images

続いて、同プラットフォームに参画している3社(明治ホールディングス、ロッテ、不二製油)の代表者が登壇し、各社の取り組みや、その中で見つけた課題、そして課題解決のヒントについて話した。

明治では、2006年より「メイジ・カカオ・サポート」を実施し、現在9カ国を対象にカカオ産地の技術支援、生活支援、地域の環境保全などに注力している。同社の晴山健史さんは、これらの取り組みの中で「農家をサポートしたり技術を提供することに加え、井戸の寄付や学校の建設、教師の育成などのインフラ整備や生活支援も必要とされていることがわかりました」と説明。さらに「1社では解決できないとも肌で感じているので、多くのパートナーと協力して持続可能なカカオ産業のあり方を目指しています」と横のつながりの重要性を示した。

ロッテでは、栽培地域の支援につながる方法で調達したカカオ豆を「ロッテ・サステナブル・カカオ」(LSC)と名付けており、ガーナにおけるLSC率は今年で100%を達成する見通しだ。また、2028年までにその他の調達国を含むすべての国でLSC率100%を目指しているという。

同社の飯田智晴さんは「社内における数値目標の達成は大切なことですが、児童労働や環境破壊は調達元の農家やカカオ産業だけで起きている問題ではないので、やはりプラットフォームにいる他の企業様をはじめ、他の産業の皆様とも協力する必要があると感じています」と話し、晴山さんと同じく横のつながりを強化していく必要性を強調した。

また、生産性の高い栽培を実現することの重要性にも言及。「近年のカカオの値上げの背景には不作が大きく関係していますが、知識と技術を通じた支援を受けている農家では不作の被害が小さかったという実績もあります」と説明した。

左から、晴山健史さん(明治)、飯田智晴さん(ロッテ)、後藤愛さん(不二製油)、琴浦容子さん(JICA)
左から、晴山健史さん(明治)、飯田智晴さん(ロッテ)、後藤愛さん(不二製油)、琴浦容子さん(JICA)
JICA

さらに共通のキーワードとして浮き上がったのが、両社がそれぞれに実施している「児童労働監視改善システム」(CLMRS)の導入だ。CLMRSとは、現地の村の集会所などで児童労働撲滅の啓蒙活動や勉強会を開催する他、農家の訪問や教育の重要性の再啓発、学用品の提供などを行うことで児童労働を是正・防止する仕組みだ。

晴山さんは、CLMRSについて「児童労働の是正に関しては、特に再啓発が求められます」と説明した。親の世代から学校に行けていない場合、そもそもなぜ子どもが学校に行くべきなのかを理解していないことがあり、啓発を通じた根本的な支援が欠かせないという。 

大阪に本社を置き、業務用チョコレート市場で世界3位のシェアを誇る不二製油の後藤愛さんは「カカオ農家の9.5割が小規模農家とも言われており、夫婦で栽培をしている農家が多いです。そうした中で『親のお手伝い』として始めたものが頻繁に児童労働につながっているので、より効率的で効果的なカカオ生産ができるように農業指導を支援することが求められます」とコメント。

同社でも家庭状況を1件ずつ訪問して現状を把握する他、1on1の支援や農家のコミュニティ作りを行うことで、持続可能なカカオ栽培をサポートしているという。後藤さんは「消費者の方々が少しでもカカオ農家に興味を持って、知識を商品選びの基準にしていただくことも取り組む方法の1つです。カカオがくれる幸せを守っていく方法を、みんなで考えていきましょう」と会場に語りかけた。

高校生のプレゼンの完成度に、チョコプラが仰天

高校生によるプレゼンテーションの様子
高校生によるプレゼンテーションの様子
JICA

イベントでは、東海大学付属大阪仰星高校と大阪医科薬科大学高槻高校の代表チームが登壇し、カカオ産業を取り巻く課題解決に向けたアイデアをプレゼンテーション方式で発表した。

東海大学付属大阪仰星高校のプレゼンテーションは「教育を等しく届けるには」をテーマに設定。営農指導と出張授業を組み合わせた支援の形を提案した。

出張授業においては、基礎教育を受けていない親向けと子ども向けの異なるプログラムを具体的に提示し、その目的や方法、持続可能性の実現に向けた施策に至るまで、多角的で解像度の高い内容を発表した。

発表の終盤では「もし私たちが教育を受けることができていなかったら、私たちの未来はどうなっていたでしょうか」「教育の機会を作るのは親です。だからこそ、大人が関心を持っていかなくてはいけないのです」とメッセージを送り、持続可能なカカオ産業の発展に向けて、親子それぞれに最適化した学びの機会を提供する重要性をアピールした。

続いて、大阪医科薬科大学高槻高校は「から(殻)っぽじゃない未来へ。チョコの欠片を今日の欠片に」と題したプレゼンテーションを発表。

雇用や収入が不安定なカカオ農家の女性に向けて、農閑期(収穫作業の減少などにより、収入がほとんどない期間)の収入源となる持続可能な二次産業の雇用を創出することを目的としたアイデアを提示した。 

具体的には、ガーナでは1年の半分が雨季であるため、その期を活用して、チョコを作る際に廃棄されるカカオハスク(カカオの外皮)をアップサイクルした製品を製造・販売するというものだ。

アイデアの背景には、女性の収入が男性よりも不安定で貧困に直面しやすい現状があり、また一部のカカオハスクのアップサイクル製品は高度な技術や高価な設備を要さないため、教育が行き届いていないカカオ農家の女性が雇用を獲得する上でハードルを下げるのではないかと話した。

高校生の発表に驚くチョコレートプラネット
高校生の発表に驚くチョコレートプラネット
JICA

プレゼンテーションを終えて、司会を務めた松尾さんは「スタートアップ企業かと思うほど緻密なプレゼンテーションでびっくりしました」と驚きをあらわにした。

前半で登壇した企業の代表者3人からは「ガーナに行ったのかなというくらいに詳しくて驚きました」、「視点が素晴らしい」、「(弱い立場に置かれている)女性にも視野が及んでいて感激しました」と発表を称賛する声に加え、企業ならではの知見を生かした具体的なフィードバックや、アイデアの解像度をより上げるヒントになるような質問を通じて、発表者と言葉を交わした。

イベントを振り返り、琴浦さんは「このセッションが皆さんにとって、チョコの裏側やその先に思いを馳せたり、皆様ご自身がカカオ産業の課題について発信したりするきっかけになれば幸いです」とコメントし、イベントを締めくくった。

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