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2019年08月05日 08時01分 JST | 更新 2019年08月05日 16時31分 JST

「国家最大級」の京都再現プロジェクト、中国で進行中。度肝を抜かれる全貌とは?

京都を再現した「別荘地」と「温泉ホテル」2つの成功例が、東京ドーム13個分の更地を改造する計画へ...

「日本をそのまま持ってくるイメージですよ」ー。

東京ドーム13個分の面積を超える広大な更地を前に、「国家最大級」と銘打たれたプロジェクトを担当する男性コンサルタントは誇らしげだった。

Fumiya Takahashi
「京都風情街」建設予定を案内するコンサルタント

中国東北部・大連で「京都風情街プロジェクト」と呼ばれる大型の開発計画が進んでいる。

その全貌と狙いは、ビジネスとしての勝算は。中国の現場を訪れ、話を聞いた。

■960億の投資で「京都の街並み」を作る

計画を進めているのは大連樹源科技集団有限公司。不動産開発から木製工芸品の加工までを幅広く手がけるグループ企業だ。

日本側からは、宿泊事業者で作る「宿泊施設関連協会」と、施設設計やマネジメントを手がける日亜設計集団が提携先として参加している。

2019年4月に行われた3者のパートナーシップ調印式には、大連市の譚成旭市長も出席するなど、現地政府の注目度も高い。

プロジェクトは、国の最高ランクのリゾート地に指定されている大連市の「金石灘(じんしーたん)」地区の64万平方メートルの土地を利用し、別荘や商店など1600の建物を設けるというもの。樹源によると「国家最大級のプロジェクト」だという。

Fumiya Takahashi
「樹源」社内に展示されているプロジェクトの概要

目指すのは「京都の街並み」の再現だ。日本から設計士を招聘し、建材も極力日本産のものにこだわるという。総投資額は60億元(約960億円)にものぼる。

■「京都風」別荘地がすでに完売

樹源がここまで大規模な計画を推し進める背景には、2つの成功体験がある。取材を申し込んだところ、担当者がその場所へ案内してくれた。

担当者の運転する車に乗っていると、見えてきたのは漆喰で塗られた壁。その内側に、およそ10万平方メートルの敷地が広がっている。中に入ると、すでに完成された「京都の街並」を再現した別荘地が広がっていた。

Fumiya Takahashi
塀の内側は「京都風別荘地」だ

立ち並ぶ200棟の別荘や、エリア内の道も、壁の向こう側とはまるで別世界。エリアの北側に建てられた木製のやぐらのような建物は、地下から温泉を汲み上げて別荘に提供しているのだという。

Fumiya Takahashi
温泉を組み上がるやぐらを紹介する担当者

この別荘地は2017年に完成。価格は敷地面積の大小にもよるが、1平方メートルあたり3万元(約50万円)。一番大きな別荘は320平方メートルというから、1億5000万円を下らない計算になる。それでも200棟はあっという間に完売した。買ったのはいずれも中国国内の富裕層だという。

内装まで日本風にこだわった。やぐらで汲み上げられた天然温泉が供給され、トイレや階段には、日本の住宅で主に高齢者向けに取り付けられる手すりが備えられている。

Fumiya Takahashi
和室も完備されている

担当者が強調したのが「雨どい」だ。一般的な中国の住宅には雨どいのような排水システムは無いというが、「材料から日本製にこだわって取り付けた」と説明する。

Fumiya Takahashi
雨どいもこだわりの一つだ

この別荘地と同時期に完成し、樹源の「京都風リゾート」計画に決定的な自信をもたらした施設がある。

別荘地からほど近い場所に建てられた「湯景沢日式温泉ホテル」だ。

樹源集団提供
湯景沢日式温泉ホテル

名前にもあるように「日本式」を前面に押し出したこのホテルは、別荘と同じく日本の日亜設計集団が設計と開発に携わり、建材も日本産にこだわった。

また、提供される料理も、日本の料理人を招聘し、8か月間にわたり従業員の訓練を行って「和食」を叩き込んだ。中国の観光地で散見される「エセ日本」との徹底的な差別化を図る狙いがある。

部屋数は28部屋と少なめだが、2人部屋でも一泊で最低1688元(約27000円)と価格設定は強気だ。だが、「需要に供給が追いついていない」人気ぶりだという。

樹源集団提供
ホテルの内装

■「北京や南京では実現できなかった」

そして、冒頭の更地に戻る。

樹源は日本風の別荘と温泉ホテルの成功を追い風に、東京ドーム13個分以上の面積を誇る「京都街」の造成にゴーサインを出した。

Fumiya Takahashi
建設予定地は海まで通じている

2019年の夏には工事が始まり、2020年には第一期の作業が完了する。全体を1/3ずつに分割し、それぞれ別のデベロッパーが作業を担う。全体が完成するのは2024年か2025年ごろだという。

過去の成功体験があるとはいえ、大連でここまでのプロジェクトを進める狙いは何か。樹源グループの張洋・副総裁が単独インタビューに応じた。

Fumiya Takahashi
記者に計画の概要を説明する張洋・副総裁

Q:なぜ京都風情街プロジェクトを開始したのか。

A:今、日中関係は近年で最高の状態にあります。貿易額は3000億ドルを超えていて、世界の貿易で見ても最高レベル。経済面、特に貿易で両国は基礎を固めてきました。

今、日本の文化は中国に深い印象を与えています。中でも、京都の建物は中国の「唐」の時代の文化を残しているため、中国人にとって受け入れ易いんです。

民間でも、政府間でも、過去には不愉快な出来事もありました。ただ、すでに傷は癒えて関係は前進しています。皆、未来志向になっていると言えるのではないでしょうか。

Q:イメージしている客層はどういったものか。

A:計画予定地は、そもそもが全国でも希少な国家級のリゾート地の中にあります。毎年600万〜800万人の、正確な統計ではありませんが、国内旅行客がこのエリアを訪れていると見られています。

我々の計画以外にも、ビーチや遊園地など「遊ぶ場所」はこのエリアにありましたが、ただ商業的な場所が足りていなかったんです。計画はこの地区に足りないものを補う目的で作られたと言えます。

地元政府もまさにこの視点を持っていて、我々が日本のものを非常に忠実に再現できると評価してくれたため、大量の競合企業の中で、今回の土地を手に入れることができたのです。

さらに、大連の開発区(計画予定地そばのエリア)には多くの日系企業が進出しています。大連は開放的な場所なので、海外とのつながりも深い。中国と日本の特色を兼ね備えたこのエリアには、世界中の人が訪れる可能性がある。

国内の観光客と外国人、この2種類の客が全て我々の街を訪れる可能性があります。ここについては自信がありますね。

Q:日本を訪れる中国人観光客は年々うなぎのぼりだ。大連ではなく、本物の京都に観光に行けば良いのではないか。

A:「京都風情街」は完全な商業街ではなく、商業と宿泊の両方の機能を兼ね備えています。近隣には1500戸の住民がいて、さらにその周辺も開発可能です。

もちろん、日本の全てを持ってくるのは不可能ですから、ここにきたら満足し、「もう日本に行かない」とはならないと思っています。

日本に行った観光客は、薬品や化粧品を買うわけですが、継続して買いたくなった場合どうするか。もちろん、毎回日本に行くわけには行きません。そうした時、ここに来れば目当ての日本製品がある。

日本にわざわざ行かなくても、ここで日本の風景を見られる。日本の宣伝になりますし、日本文化が中国に広がることにもなる。ある意味では、日本旅行への憧れを増幅させる場所になるかもしれない。良いきっかけになるのではないでしょうか。

Q:過去に日中関係が悪化した際に、日本料理店や日系企業が「抗日デモ」の対象になったことがある。そうしたリスクを考えたことは。

A:うーん...ありますね。(日本から呼んだ)設計士は、「(靖国)神社や政治に関係のあるものは、あまり考えないほうがいい」と言っていました。我々も実際そうした物を設けていません。

確かに抗日活動は過去にありました。

この計画は、南京や北京ではおそらく実現していなかったでしょう。

なぜ大連ならいいのか?おそらく上海でもいいでしょうが、大連の対日感情はずっと良い状態が続いているからです。(抗日ムードが高まった際も)大連では激しい状況にはなりませんでした。

日本の設計士が「京都の建物には唐の文化が残っている。それをこのプロジェクトで中国にお返ししたいんだ」と話していましたが、この考えは素晴らしい。我々はしっかり(文化を)保存できなかった。ただ日本には残っていた。こうした理念は人類への貢献です。政治マターではありません。

もしも今後、両国間で大きな衝突が起こった場合、大連ではどのような影響を受けるか、と言ってもあまりないでしょう。そうした状況が起こったことがありませんので。

Q:どんな完成図を描いているか。

A:良い質問ですね。

日本と中国の文化の違い、異国の違いを街で表したいと思っています。

中国では見ない、日本の新商品や、伝統的なものを両方取り揃えたいですね。

現在、(完成後の)街で営業する店舗を選んでいるところです。場所も広いし、(現地進出に)有利な条件もある。関税など、進出に必要な手続きも政府がサポートするので、安心して営業できます。

伝統的なものや、新しいものを売り出したい日本のサプライヤーには、ぜひ街に来て店舗を構えてほしい。よりより日本の宣伝にもなるし、より良い友好関係にもつながります。これが私たちの目標です。

■取材を終えて

スケールに圧倒された。

取材当時は夏季ダボス会議の開催期間中。大連は普段から綺麗な青空が見えるというが、車はナンバープレートごとに走行規制がされ、空にはいつも以上の「ダボス・ブルー」が広がっていた。

にも関わらず、「街」の建設予定地に立つと、遠くが霞んで見えた。数年後にはこの広大な土地を「京都」に作り変えるというのだから、「こう」と決めた時の中国の実行力はやはり凄まじい。

実現に向け、張洋氏は「課題はない」と言い切った。地元政府の強力なバックアップを得ているからこその言葉だろう。

成功の鍵は、どれだけ日本から実店舗を引っ張って来られるか、ではないだろうか。予定している店舗数は300。樹源では現在、日本酒や包丁のサプライヤーなどと交渉を進めているが、「取材を機にもっと日本側にも注目してほしい」とアピールに余念がない。

日本のモノを売りたい場合、越境EC(国境を超えた通信販売)の選択肢もある。現地に出店するコストやリスクをいかに低減させ、事業者を納得させられるかが重要だ。

日本を訪れる中国人旅行者が年々増加し、生の日本を目にする人が増えた。中国のSNSでも「日本情報・流行発信」系のインフルエンサーが大量に現れた。若い世代を中心に、「本物」を知る消費者は珍しくない。審美眼の磨かれつつある彼らを満足させられる街になるか、注目したい。