石垣市議会で「自治体の憲法」廃止めぐり混乱。陸上自衛隊の配備計画が背景に?

行政への市民参加の保障などをする「自治基本条例」の廃止案が僅差で否決された。
沖縄県の石垣市役所
沖縄県の石垣市役所
時事通信社

沖縄県の石垣市議会は12月16日、自治基本条例を廃止する条例案を本会議で採決し、僅差で否決した。自治基本条例は、地方自治体が、行政への市民参加の保障や市民、首長、行政の役割や責任などを定めるもので、「自治体の憲法」とも言われる。仮に廃止されれば全国初となる事例だった。なぜこのようなことが起こったのか。

基本条例の廃止案を提出したのは、市議会最大会派「自由民主石垣」の所属議員。提出者の市議は16日の本会議で「社会情勢の変化や、二元代表制の円滑な運用には必ずしも有用な条例ではない」と提出理由を説明した。「自由民主石垣」の所属議員8人全員が賛成者に名を連ねた。

2013年12月21日付の朝日新聞によると、自治基本条例は2000年に地方自治を推進する目的で制定された地方分権一括法の制定を受け、全国の自治体で制定が拡大。全国の基本条例の普及活動に取り組むNPO法人「公共政策研究所」の調査では、8月1日時点で全国の2割強にあたる377自治体で制定されており、石垣市では2009年に制定された。

石垣市の自治基本条例では、前文で「自治の基本理念とまちづくりの指針を明らかにし、市民、議会及び行政の役割など、自治の定める規範として、石垣市自治基本条例を制定します」と謳う。

廃止案を提出した市議らは、こうした基本条例のどこを問題視したのか。

提出者の市議は、12月16日の本会議で自治基本条例について、

「たとえこの条例がなくなったとしても、多くの住民の方には関係がない」

「この条例は特定の思想・信条に染まった活動家が、議会をスルーして直接市政運営にアクセスをする道をつくるものである」

などと述べ、強く批判した。

改正ではなく、廃止案の提出にまで踏み込んだ背景にあると見られるのが、基本条例の住民投票を巡る規定だ。基本条例27条では、有権者の4分の1以上の署名提出で、市長に住民投票を請求でき、請求を受けた市長は住民投票を実施しなければならないと規定する。

沖縄県石垣市で自衛隊配備反対を訴える看板
沖縄県石垣市で自衛隊配備反対を訴える看板
時事通信社

石垣市では、石垣島中心部への陸上自衛隊配備計画を抱える。2018年12月には、基本条例の規定を根拠に、配備計画の是非をめぐる住民投票を求めて市民団体が有権者の4割強にあたる1万4263筆の署名を提出。しかし、市議会が住民投票に必要な条例案を否決し、実現しなかった。

廃止案を提出した市議はこの点について、16日の本会議で「住民投票があるから、つぶすためということは全く関係無い」と否定した。しかし、「自由民主石垣」所属の別の市議は、廃止案への賛成討論で「住民投票条例ひとつとっても、ギクシャクがある。4分の1を超えた署名を集めると、議会を介さずに住民投票できるかどうかなど、解釈の違いがある」と述べ、住民投票をめぐる規定が、基本条例廃止を目指す要因の一つである考えをにじませた。

採決では公明党市議らも反対に回り、基本条例廃止案は賛成10、反対11で否決された。沖縄タイムスによると、反対に回った公明党の市議は「十分な議論が深まっていない。公明として市民の分断と対立を防ぐべきだと考えた」と説明した。

公共政策研究所の水澤雅貴理事長は今回の採決を受け、ハフポストの取材に「基本条例は自分たちの地域のことは自分たちで決めるという希望の灯。それが消されずに済んだということは良かったと思う」と述べた。

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