アフリカの人が上半身裸で踊る“サプライズ動画”は「紋切り型の表象を消費」。二宮和也さんらYouTubeに波紋、何が問題?

「世界からのサプライズ動画」の運営元は、サービスに関して「人権問題は一切ない」と主張。差別的だとの指摘に対し、「動画の出演者に対して『自分の方が優位である』という潜在的な意識をお持ちなのではないでしょうか」と反論している。
「ジャにのちゃんねる」の開設2周年を祝う、「世界からのサプライズ動画」。上半身が裸のアフリカの男性たちが、体を揺らしてダンスしている
「ジャにのちゃんねる」の開設2周年を祝う、「世界からのサプライズ動画」。上半身が裸のアフリカの男性たちが、体を揺らしてダンスしている
ジャにのちゃんねる

アフリカの男性たちが、片言の日本語でメッセージを読み上げたり、軽快な楽曲に合わせて踊ったりして“お祝い”する「世界からのサプライズ動画」。見ず知らずのアフリカの人たちなどに仲介業者を通じて依頼した「お祝いメッセージ」やパフォーマンスの映像が届く、日本で人気のサービスだ。

アイドルグループ「嵐」の二宮和也さんが自身のYouTubeチャンネルで5月下旬、このサービスを利用した企画動画を配信したところ、その内容が「人種差別だ」などと物議を醸した。

一方で、サービスの運営元はこうした指摘に対し、「(動画に出演しているアフリカの人たちより)自分の方が優位であるという潜在的な意識をお持ちなのでは」と反論。さらに論争が広がる事態になっている。

同様のサービスを売り出すサイトは、国内で複数確認されている。こうしたサービスや、それを利用することの何が問題なのか。サプライズ動画を「面白い」と感じて笑う背景にあるものとは。専門家に聞いた。

「いいカラダしてんな」「めちゃくちゃおもろいな」

物議を醸しているのは、二宮和也さんのYouTubeチャンネル「ジャにのちゃんねる」の開設2周年を祝う企画の動画だ。再生回数は6月15日時点で150万回を超えている

この回で、二宮さんらジャニーズ事務所に所属する複数のタレントが、「世界からのサプライズ動画」のホームページを見ながら、動画制作を依頼して納品されるまでが収録されている。

サービスは依頼内容によって金額が異なり、横断幕の掲示や日本語の読み上げなどの「オプション」を注文することもできる。

発注から2週間後に届いた動画では、上半身が裸のザンビアの男性たちが、出演者たちの名前や「ジャにのちゃんねる2周年 おめでとう」とのメッセージを声をそろえて読み上げる。軽快な曲に合わせて体を揺らし、空砲のパフォーマンスも披露していた。

この「お祝い動画」に対し、出演者たちは声を上げて笑ったり、「めちゃくちゃやっぱおもろいな」「めちゃめちゃいいカラダしてんな」などと感想を言ったりしていた。

運営元のホームページには、サービスの説明文が次のように書かれている

<「世界からのサプライズ動画」では、アフリカの他、エジプト、タイ、ウクライナにネットワークを持ち、現地からご希望のメッセージを動画にしてお届けします。あなたもご家族やご友人のお誕生日、結婚式、開業開店など、各種お祝い事にサプライズメッセージを送りませんか?>

露出の多い揃いの衣装を身につけた女性たちの動画は「セクシー美女」と表現され、子どもたちが出演するものもあった。

ホームページでは、収益の一部を「アフリカの貧困に喘ぐ人々に直接寄付する」と説明。「ぜひ彼らが、食べ物を、水を、薬を… 何よりも、日常的に死を意識する事のない、安全で人間的な暮らしを、手に入れる手助けをしてあげて下さい」としている。

「個人の資質や差別意識の問題ではない」

このサービスの何が問題なのか。

アフリカをルーツとする人々の文化や歴史に詳しく、『野蛮の言説 差別と排除の精神史』(春陽堂書店)の著者で早稲田大学教授の中村隆之さん(アフリカ文学、フランス語圏文学)は、今回の“お祝いビデオ”の根幹には「他者の紋切り型のイメージを消費する」問題があると指摘する。どういうことか。

「体格が良く、上半身が裸で黒い肌の男性たちがダンスをしている。これは、特に西欧社会が世界で優位だった19世紀頃の、アフリカ人を『未開人』とみなす紋切り型の表象をなぞるものです。

出演者は消費される“記号”に過ぎず、こうした映像はアフリカの人々に対する偏見を強めることになります」

「動画は『エキゾチックな異国情緒』を売りにしています。それはその地域に根付く伝統文化とは関係なく、見せ物として作られたキャラクターです。

片言の日本語を、『自分たちとは違う』アフリカの人たちが話すイントネーションのずれを、見る側は面白いと感じてしまうのです」

YouTubeでは、二宮さんら出演者たちが「やっぱめちゃくちゃおもろいな」などと笑い、サプライズ動画を悪意なく無邪気に楽しんでいることがわかる。

中村さんは、こうした動画を「面白い」と感じる人に「自覚的な差別意識はない」とみる。

「相手を笑い物にする態度や優越意識は、その社会で醸成されてきた価値観を暗黙の根拠としています。

このサービスが日本で利用され、ビジネスとして成立してしまうという事実は、紋切り型のイメージの消費を許容する価値観が日本社会のうちに深く埋め込まれていることの表れであり、その点こそ問われなければいけません。個人の資質や差別意識の問題ではないのです」

一方で、中村さんは「同様のサービスは、アメリカやフランスなど欧米では成り立たないはず」と考える。なぜか。

「欧米社会には、アフリカ系の人たちが人種差別を受けながらも自分たちの権利を獲得してきた歴史があります。レイシズムが社会的な争点となっている環境がある。

こうした動画は、アフリカ人やアフリカにルーツをもつ人に対する偏見を強めるものだと多数の消費者から判断されるので、リスクがあまりに大きいのです」

「支援」になれば問題ないのか

運営元は、収益の一部を寄付している上、出演強要はないと説明している。これを根拠に「支援になり、強制もされていないのだからサービスは問題ない」という見方もある。

これに対し、中村さんは次のように反論する。

「制作する側も動画に出演する人たちもビジネスとしてやっており、この限りにおいては確かに問題がないように見えます。ですが、悪意や差別意識がなければ、ビジネスとして成り立っている以上、問題ないと言い切れるのでしょうか。

こうした紋切り型のイメージの効果は、アフリカの人やそこにルーツをもつ人々に対する日本社会での偏見を強めます。ビジネスの面だけでなく、レイシズムに密接に関わるという側面からも考えなければいけません」

アフリカ系アメリカ人で日本在住の作家バイエ・マクニールさんは、「お祝い動画」の影響は、日本で暮らすアフリカ系ルーツの人にも及ぶと指摘する。

「サプライズ動画は、日本に存在するブラックルーツやアフリカルーツの人たちを不安にさせる物語を強化します。その物語とは、黒人であることと、『貧困であり、かつ援助を必死に必要としている』というイメージを結びつけるものです」

「未開で野蛮」ステレオタイプを強化

類似のサービスは、一年前にも問題になった。

人種差別と児童搾取の疑惑に関する捜査の一環で、アフリカのマラウイ当局から指名手配されていた中国人の動画制作者の男が2022年6月、隣国ザンビアで逮捕され、後に不法取引の罪で起訴される事件があった

調査したBBCの当時の報道によると、男の制作した動画の中には、アフリカの子どもたちが中国語で「私は黒い怪物。私のIQは低い」などと叫ぶ様子が映っていたという。

こうしたビデオが当時、国際的に批判を浴びたことを踏まえ、マクニールさんは「日本の著名人が中国のビデオと同じような動画を楽しみ、この搾取的なビジネスで利益を受ける人と取り引きをしたことに、非常に失望しています」と語る。

「中国のビデオのような差別主義者のコンテンツと全く同じには見えないものの、私は強い嫌悪感を抱いています。なぜなら今回のサプライズ動画は、空砲のようなものを発射する演出があり、それは『未開で野蛮』というアフリカの国や人々のステレオタイプを強化させるものだからです。

筋肉を強調したり踊ったりする演出自体は『野蛮』には見えませんが、日本の人が見た時には異なって解釈され、それらもまたステレオタイプを助長しかねません」

「人間動物園」と地続きにある

歴史を振り返れば、社会で抑圧される側の人たちが、優位な立場にある人々によって「展示」され、「見せ物」にされた過去がある。

19世紀にヨーロッパで本格化した博覧会では、植民地の現地民を展示する「人間動物園」が設置された。

見せ物興行に出るため連行され、ロンドンやパリで展示されたアフリカの民族コイコイの女性は、20代で病死。死後も遺体は型取りや解剖をされ、骨格は1970年代まで博物館に展示された。

明治時代に日本で開催された内国勧業博覧会では、アイヌや沖縄、朝鮮、台湾、中国などの人々が「陳列」される「人類館」があった。

「サプライズ動画は人間動物園のように強制されるものではないけれど、『見せ物を楽しむ』という構図は同じです。珍しいものを見せ物とする発想は、見る者の優位性の上に成り立ちます」(中村さん)

「憎悪のピラミッド」でも知られるように、偏見による態度や行為が放置されると、差別が日常的にあふれて過激化して暴力行為につながり、さらには集団虐殺(ジェノサイド)に発展する恐れがある。

中村さんは「日常の偏見とヘイトクライムやジェノサイドは地続きであり、今回の動画とも決して無関係とはいえません。

そこに行きつかないためにも、日常に埋め込まれた常識や社会の価値観を問い直すことが必要です」と警鐘を鳴らす。

「憎悪のピラミッド」(出典:Anti-Defametion League)
「憎悪のピラミッド」(出典:Anti-Defametion League)
Sato Takeru

「人権問題は一切ない」サプライズ動画の運営元が反論

二宮さんらのYouTubeや「お祝い動画」に批判の声が寄せられたことについて、「世界からのサプライズ動画」の運営元は5月23日、Twitterで見解を発表した

投稿で、「私たちのサービスは『世界中の人々に笑顔をお届けしたい』をコンセプトに運営されており、搾取や出演強要などの人権問題は一切ございません」と主張。

サービスが差別的だとの指摘に対し、「動画の出演者に対して『自分の方が優位である』という潜在的な意識をお持ちなのではないでしょうか」と反論した。

ハフポスト日本版は、サービスを提供しているMIYABI INTERNATIONALと、ジャニーズ事務所に取材を申し込んだ。

MIYABI INTERNATIONALの担当者は、取材依頼が相次いでおり「通常業務に支障が出始めている」として、「個別の取材対応は控える」と応じなかった。

一方、ジャニーズ事務所からは期日までに返答がなかった。回答があり次第、追記する。

<取材・執筆=國崎万智(@machiruda0702)/ハフポスト日本版>

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