
統計学者や社会学者らは、出生率の低下の原因として、子育て費用の増加や住宅価格の高騰、柔軟性のない働き方、ハードな仕事環境、新型コロナによる経済的打撃など、複数の構造的・文化的な要因を挙げている。
一方、出生率の低下の原因は女性にあるという主張は今もなくならない。5月4日には「女性たちが寝るときにだらしない格好をするから出生率が下がっている」という趣旨の主張がXに投稿されて、物議を醸した。
この主張をしたのはアンドレア・D. ヒューバーウーマンというユーザー名の人物で、ピンク色のレースのランジェリーを身に着けている金髪の女性の写真を投稿し、「もし女の子たちが、だぶだぶのホームレスルックのような服じゃなくてこれを家で着たら、出生率は爆発的に上がるだろう」という持論を展開した。
この投稿に対し、さまざまな批判が寄せられている。
ポッドキャストを配信するエイミー・テレーズさんは、「前は、ステラ・マッカートニーのこういうのにお金をバンバン使ってたけど、完全に無駄だった。以前付き合っていた人は、寝る時には私が丈の短いTシャツを着るのが好きだった。これは男性のためじゃなく自分が好きだから着ているんでしょう」とコメントしている。
また、「男の立場から言うと、女性が家の中でセクシーな格好をしないことを批判する攻撃はすごく過大評価されてる」というコメントも、Blueskyに投稿されている。
パートナーのためでも自分自身のためであっても、外見に気を使うのは悪いことではない。ランジェリーを着ることで気分良く過ごせる人もいるだろうし、それは良いことだ。
しかし、高価なランジェリーを身に着けないのが出生率低下の原因だとする主張は、専門家も否定している。
認定セックス&恋愛セラピストのタミー・ネルソンさんは「私は、男性、女性、カップルのセラピーをしていますが、男性が興奮するのにランジェリーは必要ないとはっきり言えます」とハフポストUS版の取材に述べた。
ネルソン氏によれば「性的な興奮」はもっと複雑だ。
「性的な興奮は、相手との感情的なつながりや、積極的に関わろうとする姿勢、自信、反応の良さなど、頭の中から始まるものです」と話す。
「多くのカップルは裸になるだけで十分です。スウェット姿でも、パートナーときちんと向き合い、関心を持ち、惹かれているだけでセクシーになりうるのです」
カップルの関係にネガティブな影響を与える要因の一つになっているのが、仕事やお金のストレスだ。なんとかやりくりしながら必死に働き続ける生活では、ストレスが溜まり、不安が蓄積されていく。
ニューヨーク市在住のセックスセラピスト、スティーヴン・スナイダーさんは「ランジェリーを身につけることは、ある意味“レジャー”なんです。セックスセラピストとして断言できますが、今の時代、多くの人たち、特に子育て中の親たちは、ほとんどレジャーを楽しめるような状況ではありません」と指摘する。
ネルソンさんも「親密さや子どもを作ることの本当の障壁になっているのは、経済的なプレッシャーや、慢性的なストレス、子育てによる疲労、パートナー関係の断絶です」と話す。
さらに、ネルソンさんは今回物議を醸したランジェリーの投稿について、「男性が性欲を維持する責任は女性にあり、見た目こそがセックスの鍵だという時代遅れの考え方を強化する」とも指摘する。
「ランジェリーを着ないことが出生率に影響を与えているという発想は、物事を単純化しすぎているだけでなく、性差別的で、正直馬鹿げています」
多くの女性は職場で働きながら、家事や家での感情労働の大半を担っている。その現実を考慮すれば、女性に「寝る時にセクシーに見える責任を負わせる」のはおかしなことだ、ともネルソンさんは述べる。
「情熱はともに創り上げるものです。本当の親密さは、互いの努力や弱さを見せあうこと、信頼から生まれます。ランジェリーからではありません」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。