日本に年間30万人増えている外国人。ゴミの分別や交通ルール…どう「伝える」? 日本人と外国人が一緒に考えてつくった最適解

新しく日本での生活をスタートする外国人に、どう情報を伝える? 在日フィリピン・ネパール人コミュニティと日本人が連携して取り組むプロジェクトを取材しました。

日本で暮らす外国人は増加し続けていて、ここ数年は在留外国人の数は毎年、約30万人以上増えている。

そんな中、日本人と外国人がどう連携して、ニューカマーの外国人をサポートしていけるか、模索している人たちがいる。

在日フィリピン・ネパール・ウズベキスタン各コミュニティはここ数年、笹川平和財団や日本のNPOと連携し、新しく入国する外国人に対してオリエンテーションなどを行ってきた。

生活の中のルールや習慣、文化、法律も異なることがある中で、どのようにして「共に生きる社会」を作れるか

新しく来日する外国人とのコミュニケーションに着目し、取り組みを進める人たちを取材した。

ゴミの分別から交通ルールまで。どうニューカマーの外国人に「伝える」か

ガイドブック『架け橋』の作成に携わったメンバー。写真右が中心メンバーの島田ビトゥインさん
ガイドブック『架け橋』の作成に携わったメンバー。写真右が中心メンバーの島田ビトゥインさん
Sumireko Tomita

このプロジェクトの「鍵」は、日本人と各在日外国人コミュニティが共にアイディアを出し合い、アクションを起こしてきたことだ。

ゴミの分別から交通ルール、出身国の法律との違いと注意点など、新生活の中でポイントとなる情報を、いかにニューカマーの外国人に知ってもらうかということに重点を置いて、活動を続けている。

在留外国人数が4番目に多いフィリピン人コミュニティでは2020年から、笹川平和財団のサポートのもと、新規来日者向けの生活ガイドブック『架け橋〜日本で暮らす若者のためのガイド〜』を出版し、オリエンテーションを開くなどの活動を進めてきた。

来日直後で、右も左も分からず、日本人の相談相手もいない人たちに情報を届けようと、日本の習慣やルール、文化などを、笹川平和財団のサポートも得て、一冊の本にまとめた。

フィリピン人や日本人、そして両国にルーツや関わりがある社会人・学生ら約15人が作成に携わった。

ガイドブック『架け橋』
ガイドブック『架け橋』
Sumireko Tomita

さらに、その内容をもとにニューカマーに対し、フィリピン政府と連携してオリエンテーションを行ったり、YouTubeで発信したりしてきた。

海外に働きに出る人が多いフィリピンでは、政府機関「在外フィリピン人委員会(CFO)」が主催する出国前セミナーの受講が義務付けられている

日本へ渡航する人たちを対象としたセミナーでは現在、『架け橋』がつくった動画やガイドブックの情報が伝えられている。

プロジェクトを中心となって進めてきた、在日フィリピン人コミュニティのリーダー的存在の島田ビトゥインさんは6月、笹川平和財団(東京都港区)で開かれたシンポジウムで、『架け橋』などの活動について報告。

「来日後のサポートは少なく、新規入国者は言語の壁や文化の違い、手続きに困惑します」とし、「日本社会や文化への適応のサポート」の重要性を指摘した。

笹川平和財団でのシンポジウムで発表する島田ビトゥインさん
笹川平和財団でのシンポジウムで発表する島田ビトゥインさん
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

協働した笹川平和財団からは安達一・常務理事が会の冒頭で挨拶。「少子高齢化で日本の人口が減っていく中で、在留外国人の数は約380万人に届こうとしているが、日本での生活や労働条件などについて必ずしも十分な情報を得られないまま来日し、様々な困難に直面しておられる方が多いのも実情」と指摘。

その中で、「私たちは当事者である外国人コミュニティ自身の声を起点とした、共につくるオリエンテーションの重要性に着目してきた」として、日本人と在日外国人コミュニティが連携し、共に課題解決に取り組んでいくことの重要性を強調した。 

在日外国人コミュニティと日本のNPOが連携。ヒアリング・研修→オリエン実施

笹川平和財団でのシンポジウムでは他にも、ネパールやウズベキスタンの在日コミュニティなど、同財団が協業してきた事例も発表された。

ネパールでは今、失業率の高さや不安定な政治などを理由に、海外に働きに出る若者が増えている。来日するネパール人の人数も年々増加しており、コロナ禍前は10万人に満たなかった在留者は、2024年末には23万人と倍以上になっている。

新しく来日するネパール人の若者たちに対し、オリエンテーションを実施しているのが、日本のNPO法人「国際活動市民中心(CINGA)」だ。

CINGAのスタッフでネパール出身のサッキャ・ミナさんが在日ネパール人各コミュニティとの橋渡し役となり、CINGAによるネパール人コミュニティリーダーとの意見交換会や研修を実現した。

在日ネパール人コミュニティリーダーへの研修の様子
在日ネパール人コミュニティリーダーへの研修の様子
CINGA提供

言葉や文化の壁もあり、各外国人コミュニティでつくる団体やグループは、日本のNPOや行政とつながりにくいという課題もある。

今回様々なネパールの団体やコミュニティーリーダーと意見交換を行ったサッキャさんは、その点については以下のよう話す。

「それぞれのネパール人グループが素晴らしい活動をしていますが、やはりCINGAのような日本のNPOと連携して活動できれば、常に新しい情報をアップデートできますし、ネパール人コミュニティの団体だけでは解決できない問題も、一緒に解決していけると感じました」

日本の習慣やルール、まとめてオリエンで学ぶ機会を

笹川平和財団のシンポジウムで、ネパール人コミュニティの事例を話すCINGAのサッキャ・ミナさん
笹川平和財団のシンポジウムで、ネパール人コミュニティの事例を話すCINGAのサッキャ・ミナさん
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

ヒアリングなどの情報ももとに、CINGAは来日前のネパール人の若者たちを対象に、オンラインでオリエンテーションを実施。ネパールの日本語学校などに声をかけ、第1回目は152人、第2回目は136人が参加した。

フィリピンでは、来日前にフィリピン政府機関による渡航前研修があるが、他の国ではそのような機会はない

CINGAはオリエンテーションを一から組み立て、日本での「ごみの捨て方」や「交通ルール」、「在留資格別での就労時間の制限」などについて説明した。

ネパールの日本語学校と繋いだ、オンラインでの来日前オリエンテーションの様子
ネパールの日本語学校と繋いだ、オンラインでの来日前オリエンテーションの様子
CINGA提供

来日前や来日直後に、日本での習慣やルールを勉強する機会は現状全くなく、分からないまま日本に来て生活をしている状態です。ネパールの日本語学校でも少しは習慣なども教えてくれるところもあると聞きますが、あくまで日本語学習がメインなので詳しくありませんし、間違った情報が伝わることもあります」(サッキャさん)

例えば、ゴミの捨て方一つとっても、日本とネパールの間には大きな違いがある。

ゴミ捨ては日本人の住人同士でもトラブルになることが多いが、リサイクルのシステムなども進んでいることから、ゴミの分別が厳しく、ゴミの種類によって捨てる曜日が決まっているなどルールが多く存在する。

自治体によっては、多言語のパンフレットやサイトなどで分別方法を発信している所もあるが、そうでない場合もあり、さらに多言語で発信していてもその情報が届いていない場合も多い。

ゴミの分別(イメージ写真)
ゴミの分別(イメージ写真)
getty image

サッキャさんによると、ネパールではごみは細かく分別せずにまとめて出すため、初めて日本で暮らす人にとっては分別に慣れることも簡単ではないという。

「来日まもない知り合いには、分別方法がわからずに2週間もごみを捨てられずにいた人もいたんです。知り合いもまだおらず、どこに聞けばいいかすら分からなかったようです。

分別方法を説明した英語版のパンフレットなども役所で転入届を出した時にもらうこともあるそうですが、日本語の資料にまぎれてしまい読まれないことも少なくありません」

CINGAのオリエンテーションでは、「ごみの種類によって捨てる曜日が違うこと」や「地区ごとにごみ収集カレンダーがあるのでそれをみて捨てること」などのルールを説明した。

日本のルールや習慣のほか、サッキャさん自身が来日時の経験を話したり、「日本政府によるネパール語での情報はここにある」ということを、ネパール語で説明したりすることで、本当の意味で「伝わる」オリエンテーションにすることにこだわった。

出入国在留管理庁では多言語で、生活・就労ガイドブックや、「生活・交通ルール」や「医療機関」「税金・年金制度」などのテーマ別のショート動画も作成し、公開してきた。

一方で、なかなか来日前や来日直後の外国人に「情報が届いていない」という課題もあるため、情報がどこにあるかをネパール語で伝えることにも大きな意味があるという。

日本でトラブルが起きる前に「予防」するためのオリエン

留学生らは来日前、借金をして送り出し機関に手数料を払って渡航することが多い。その場合、日本で生活をスタートした後もアルバイトで借金を返済しながら新生活を送ることになる。

親戚にお金を借りて手数料を支払っている場合も少なくなく、「就労時間制限などの情報は親にきちんと理解してもらうことも重要」だという。

加えて、ネパールにいる家族の生活をサポートするための送金もしなければならない場合が多い。

そのため、オリエンテーションには保護者の参加も呼びかけ、留学ビザでの労働時間の上限などについて丁寧に説明した

留学生は在留資格上、週28時間しか働くことができないという制限があるのにも関わらず、ネパールでは「日本に行けば稼げる」という情報だけが流れ、騙された状態で来日する留学生もいるという。

サッキャさんは、オリエンテーションを開く意義についてこう話した。

「今オリエンテーションができた人数は来日するネパール人のほんの一部ですので、もっと多くの人にオリエンテーションを聞いてほしいと思います。何か問題が起きてから解決することも大事ですが、このオリエンテーションは問題が起きることを『予防』するためのものだと思います。

情報を知った上で新生活をスタートすれば、ネパール人自身も、受け入れる日本人コミュニティー側もスムーズに問題なく生活できるのではないかと思います」 

入管「人手不足が深刻化。海外から人材を受け入れる必要性さらに高まる」

シンポジウムには、各国の大使館関係者や出入国在留管理庁も出席。入管庁・在留管理支援部長の福原申子さんは冒頭の講演で以下の様に話した。

「生産年齢人口の減少が続いており、将来に向けて人手不足が深刻化していくと見込まれています。そうした中で、各地域の産業を維持していくために海外から人材を受け入れる必要性はさらに高まっていくと考えられます」

入管庁は、笹川平和財団やCINGA、在日フィリピン人がつくる「架け橋」とも連携し、ヒアリングやオリエンテーションへも参画している。

福原さんは「外国人コミュニティの中で正確な行政情報を共有していただき、ニューカマーの方を母国語で支援していただくことは共生社会づくりにおいて大きな意義がある」とし、「行政と外国人コミュニティとの連携はますます重要になってくるので、様々な方法で交流を図っていきたい」と話した。

(取材・文=冨田すみれ子)

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