
終戦の日から60年となる2005年8月15日、当時の首相の小泉純一郎氏は談話(小泉談話)を発表した。
小泉氏は談話の中で、日本は「かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」と述べ、日本の植民地支配の責任を認めた。その上で、「改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明する」とした。
日本の「植民地支配と侵略」に対する「痛切な反省と心からのお詫び」という表現は、戦後50年を迎えた1995年8月15日に、当時の村山富市首相が発表した「村山談話」から引き継いだものだ。
村山談話、小泉談話と、戦後70年に当時の安倍晋三首相が出した「安倍談話」はいずれも閣議決定され、日本政府の歴史認識の公式見解となっている。
石破首相は8月4日の衆院予算委員会で、戦後80年に合わせた見解の表明について問われた際、戦後50〜70年の3つの談話に言及し「そこにおける積み重ねは大事にしていきたい」と発言。その上で、「日本国として出すべきことは、二度と戦争を起こさないためにどうするのかということを単なる思いの発出だけではなく、何を誤ったのかということ」だと述べ、見解発表に意欲を示した。
石破首相も言及した戦後60年の小泉談話とは、どのような内容だったのか。全文を掲載する。
【小泉談話・全文】
私は、終戦六十年を迎えるに当たり、改めて今私たちが享受している平和と繁栄は、戦争によって心ならずも命を落とされた多くの方々の尊い犠牲の上にあることに思いを致し、二度と我が国が戦争への道を歩んではならないとの決意を新たにするものであります。
先の大戦では、三百万余の同胞が、祖国を思い、家族を案じつつ戦場に散り、戦禍に倒れ、あるいは、戦後遠い異郷の地に亡くなられています。
また、我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。悲惨な戦争の教訓を風化させず、二度と戦火を交えることなく世界の平和と繁栄に貢献していく決意です。
戦後我が国は、国民の不断の努力と多くの国々の支援により廃墟から立ち上がり、サンフランシスコ平和条約を受け入れて国際社会への復帰の第一歩を踏み出しました。いかなる問題も武力によらず平和的に解決するとの立場を貫き、ODAや国連平和維持活動などを通じて世界の平和と繁栄のため物的・人的両面から積極的に貢献してまいりました。
我が国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した平和の六十年であります。
我が国にあっては、戦後生まれの世代が人口の七割を超えています。日本国民はひとしく、自らの体験や平和を志向する教育を通じて、国際平和を心から希求しています。今世界各地で青年海外協力隊などの多くの日本人が平和と人道支援のために活躍し、現地の人々から信頼と高い評価を受けています。また、アジア諸国との間でもかつてないほど経済、文化等幅広い分野での交流が深まっています。とりわけ一衣帯水の間にある中国や韓国をはじめとするアジア諸国とは、ともに手を携えてこの地域の平和を維持し、発展を目指すことが必要だと考えます。過去を直視して、歴史を正しく認識し、アジア諸国との相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています。
国際社会は今、途上国の開発や貧困の克服、地球環境の保全、大量破壊兵器不拡散、テロの防止・根絶などかつては想像もできなかったような複雑かつ困難な課題に直面しています。我が国は、世界平和に貢献するために、不戦の誓いを堅持し、唯一の被爆国としての体験や戦後六十年の歩みを踏まえ、国際社会の責任ある一員としての役割を積極的に果たしていく考えです。
戦後六十年という節目のこの年に、平和を愛する我が国は、志を同じくするすべての国々とともに人類全体の平和と繁栄を実現するため全力を尽くすことを改めて表明いたします。
【あわせて読みたい】戦後50年「村山談話」の全文は?日本の植民地支配を認め、「アジアの人々に多大の損害と苦痛を与えた」と公式に謝罪