立ち泳ぎするクジラの映像がSNSで拡散 ⇒ 海洋汚染の結果だった

撮影監督は語る。「陸地からの下水の流出は、水面以外の水中の酸素をすべて使い果たしてしまった。つまり、クジラの餌となる魚はこの表層にしか生息できないのです」
海面で口を開けて小魚をほおばるカツオクジラ。バーティ・グレゴリーさんのインスタグラムより。
海面で口を開けて小魚をほおばるカツオクジラ。バーティ・グレゴリーさんのインスタグラムより。
instagram/bertiegregory

海面に向かって大きな口を開けて、小魚の群れを吸い込むクジラの映像がSNS上で拡散している。「壮観だ」「びっくり」と衝撃を受ける人が続出しているが、実はこの映像は深刻な海洋汚染の結果だった。

■BBCの科学番組で撮影された映像だった

もともと、この映像はイギリスの公共放送BBCの科学番組「パーフェクト・プラネット」 のエピソードの一つ「オーシャンズ」で収録されているものだった。今回のクジラの食事シーンは、同番組の撮影監督であるバーティ・グレゴリーさんが1月中旬、自身のInstagramに投稿していた。

タイ王国などの沿岸にあるタイランド湾で撮影されたカツオクジラの姿だった。動物生態学者の岩田高志さんが「academist Journal」に掲載したレポートの中で、この海域のカツオクジラは独特な食べ方をしていると報告している。

一般的にカツオクジラは、口を開けながら高速で泳いで、オキアミや小魚の群れに突進して海水ごとエサを口に含んでヒゲ板でこし取る。しかし、タイランド湾のカツオクジラは、立ち泳ぎをして頭を水面に出して、パクッと口を開ける。そして、口の中に小魚が流れ込んでくる。もしくは小魚がジャンプして飛び込んでくるのを待つという食べ方をしているのだという。

■東南アジア諸国の経済発展で下水が流れ込み、酸素濃度が低下

グレゴリーさんが投稿したのと同じ映像がSNS上で転載される中で、単なる衝撃映像として伝わっていった。だが、実際にはこの映像は、タイランド湾の深刻な海洋汚染の結果がもたらしたものだ。

愛媛大学などのレポートによると、タイランド湾では近年の東南アジア諸国の急激な経済発展により大量の有機物や栄養塩が、4つの大きな河川を通して湾内に流入。その結果、海の水が「富栄養化」してプランクトンが異常増殖する「赤潮」ができたり、魚介類が生存不可能な「貧酸素水塊」が生じるなど海洋環境が悪化しているという。

前述の岩田さんはタイランド湾について「富栄養化が進み、水面付近以外は貧酸素な状態となっています。つまり餌の小魚は水面付近にしか生息できません」と指摘。グレゴリーさんも、映像を掲載したInstagramの中で次のように訴えていた。

「『クジラが立ち泳ぎをする』という異常な行動は、海洋汚染がタイランド湾を低酸素環境にしたために起こったと考えられています。陸地からの下水の流出は、水面以外の水中の酸素をすべて使い果たしてしまった。つまり、クジラの餌となる魚はこの表層にしか生息できないのです」

【訂正】当初、クジラの種類についてイワシクジラと記載していましたが、正確には「カツオクジラ」でした。(2020/1/18 14:55)

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