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2017年12月14日 12時17分 JST | 更新 2017年12月14日 12時17分 JST

「ビットコイン」の終わりから「ブロックチェーン」の時代へ--中島真志

「やるかやらないかという問題ではなく、いつやるのかという問題なのだ」

Dado Ruvic / Reuters

 2009年に発行が始まった、インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」。当初は1BTC(ビットコインの単位)が1ドルを切るほどだったのが、その後価格は急上昇し、現在は、1BTCが1万ドルを超えるほどの高値となっている。価格は、この1年で10倍、2年前に比べて25倍という急上昇ぶりだ。

 当然、ビットコインは投資の対象として熱い注目を集めているわけだが、「ビットコインはやがて崩壊するが、その基幹技術であるブロックチェーンはこれから伸びる」と予測するのが、新著『アフター・ビットコイン 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』(小社刊)を刊行した中島真志氏だ。

 中島氏は1958年生まれ。一橋大学法学部を卒業後、日本銀行に入行。調査統計局、金融研究所、国際局、金融機構局、国際決済銀行(BIS)を経て、現在は麗澤大学経済学部教授を務める。

 中島氏に、ビットコインやブロックチェーンの最新の状況について話を聞いた。

バーナンキ元FRB議長も注目

 私がこの本をなぜ書こうと思ったか。それは、毎年出席している、金融関係のある国際会議がきっかけでした。

 2013年から14年にかけて、その国際会議で最大のテーマとなったのがビットコインでした。出席者の誰もが話題にしている。ビットコインは国境を超えて行き来する新しい仮想通貨だ、これは銀行にとってはゆゆしき事態だ、と銀行関係者は皆考えていたようです。

 ところが、2015年の会議に出席してみると、突然「ビットコイン」という言葉を一切聞かなくなった。入れ替わるように登場し、飛び交っていたのが「ブロックチェーンはすごい」「この技術は本物だ」といった言葉でした。不思議に思って出席している銀行関係の人たちに聞くと「ビットコインはもう終わったよ」「あんなものは使えない」と口々に言うのです。

 当時、日本では「ビットコインは値上がりする」「1億円儲けた」などと、「投資商品」としての側面がクローズアップされていました。ところが海外では「終わった」と言われている。この"内外格差"は何なのだろう。

 そこで改めてビットコインについて調べてみると、本にも書いたように、保有や取引、利用方法などが非常にいびつな構造になっていることが分かりました。

 一方、ビットコインの基幹技術である「ブロックチェーン」に対する評価は高く、「金融の世界を根底から覆すかもしれない」と、注目が集まっています。こうしたことから私は、本の帯にもあるようにビットコインは「終わった」、だがブロックチェーンは「これから本番」だということを、この本で明らかにしようと思ったのです。

 実際、今年の国際会議でもそうでした。2006~14年の間、米連邦準備制度理事会(FRB)議長(日銀総裁にあたる)を務めたベン・バーナンキ氏の講演があったのですが、その質疑応答の中で、ビットコインについての質問がありました。するとバーナンキ氏は、「ビットコインは、規制を逃れるための手段として使われているだけのものであり、長続きはしないだろう。だがブロックチェーンは、潜在力が高く、今後発展するだろう」と答えました。まさに私が本に書いた方向性そのままであり、これを聞いて自分の筋立ては間違っていない、と意を強くして帰国しました。

ビットコインとブロックチェーンの仕組み

 ビットコインとは、インターネットを通じて価値がやり取りされ、紙幣やコインのような物理的な実体を持たない「仮想通貨」の1つです。仮想通貨は世界で1,300種類以上が発行されていますが、その中で、時価総額で約55%と最も大きなシェアを誇るのがビットコインです。

 私たちが日常使っている円やドルといった通常の「法定通貨」は、中央銀行などの公的な主体が一元的に通貨全体の流通を管理しています。また法的な裏付けのもとに、国内で強制的に支払いに用いることができる「強制通用力」と、誰でもが受け取れる「一般受容性」を持っています。

 一方、ビットコインなどの「仮想通貨」には、中央に通貨をコントロールする管理主体がありません。仕組みは基本的にプログラムによって管理されており、また、世界中のビットコイン・ネットワークの参加者が協力して、ビットコインによる取引を確認し、取引処理を行っています。

 こうした仕組みを支えているのが、「ブロックチェーン」という技術です。これは、一定時間内に行われたビットコインによる取引を記録した「台帳」のブロックが、チェーン状に連なっていくことから、このように呼ばれます。ブロックチェーンには高度な暗号技術が使われているため、外部からデータを改ざんされにくく、また匿名性も非常に高い、という特徴があります。そのため、送金や決済といった行為に非常に向いているのです。

 そしてもう1つ重要なのは、ブロックチェーンは「分散型ネットワーク」だ、ということです。このシステム上で取引が行われた場合には、ブロックチェーンでは、その参加者が複雑で高度な計算をすることによって取引を承認します。ビットコインでは、そうした計算をした人に対して、報酬(リワード)として新規発行のビットコインを付与します。これは逆に言えば、コンピューターを使って複雑な計算をすることによってビットコインを掘り当てることになるわけで、これを「マイニング(採掘)」と呼んでいます。

変質したビットコイン

 ビットコインは、もともとは既存の金融機関に頼らない、中央の主体にコントロールされない自由な取引の仕組みを目指して生まれたものです。ここに参加する人がマイニングで取引承認の計算をし、そのリワードが広く薄く与えられる。そんな「ユートピア」(理想郷)的な世界を想定していたわけですね。

 ところが、ビットコインに内在する仕組みそのものが投機性をもたらしてしまい、ビットコインを変質させてしまいました。詳細は本に譲るとして、これまで、ごく一部の人が大量のビットコインを所有し、通貨として使っているのはごく一部のみです。しかも中国人が世界のビットコインの9割以上を買いあさり、中国のマイナーが世界のマイニングの7割を占めています。

 つまりビットコインは、これまで「中国の、中国による、中国のための仮想通貨」となっていた訳であり、その実態は「交換手段」ではなく「投資用資産」となっているのです。

 では「投資用資産」としてもすぐれているのかというと、必ずしもそうとは言えません。本で詳しく分析しましたが、ビットコインはプログラム上、発行上限と発行期限が決まっており、約4年ごとにリワードが半減していく仕組みとなっています。このため、マイニングの収益性が劇的に低下していく可能性があります。

 しかも、投資商品としてのビットコインには、それが適正な価値なのかどうかを計る指標がまったくない。1BTC=1万ドルが果たして高いのか安いのか適正なのか、誰もわからずに、値上がり期待から投資が行われている状況になっています。しかも、ここに来て、中心になってビットコインを買いあさっているのは日本人なのです。

 さらに、ビットコインの分裂の問題もあります。2017年8月にはビットコイン・キャッシュが誕生し、10月にはビットコイン・ゴールドが、11月にはビットコイン・ダイヤモンドが分裂して、これまでにビットコインは既に4つに分裂しています。今後もさらに分裂が続いていくとみられていますが、中央管理者がいないため、誰もこの混乱を止められません。

 以上からもわかるように、そもそも「交換手段」として始まったビットコインは、「投資用資産」に変質してしまっており、その先行きについては、混乱の要素や注意すべき点が多い、ということなのです。こうした意味を込めて、ビットコインは「終わった」と言っています。

ウルグアイの試み

 何度も言いますが、ビットコインは「終わった」。でも、その基幹技術であるブロックチェーンは、先のバーナンキ氏の言葉にもあるように評価が高く、「これからが本番」です。

 金融分野では、特に国際送金や証券決済の分野で大きく期待されており、日本のメガバンクはもちろん、世界の金融機関が競って開発や実験を進めています。その状況は本書でも詳しく説明したところです。

 それ以上に注目すべきは、とうとう中央銀行がこの分野に乗り出してきた、ということです。中央銀行がブロックチェーン技術を使って、「デジタル通貨」を発行しようと動いているのです。

 その最もホットなニュースが、11月13日に報道された、南米のウルグアイが法定デジタル通貨「eペソ」の試験運用を開始、というものです。これには驚きました。先進的な研究を進めているイギリスやカナダ、シンガポール、スウェーデンの事例は本書で紹介しましたが、それを追い越したウルグアイの実用化に向けた動きは、本の中で描いた世界がまさに実現しつつあることを実感させるものでした。

 2016年にデジタル通貨「eクローナ」の発行計画を発表し、「世界初のデジタル通貨発行国を目指す」としているスウェーデン中央銀行を、先日訪問してきました。そこで驚いたのは、彼らが「現金がなくなる」ことを本気で心配していることでした。

 スウェーデンは、キャッシュレスが進んでいる国です。日常の支払いは、市場での買い物に至るまで、すべてデビットカードかキャッシュカードで済ませるという社会になっており、人々は財布すら持っていません。実際、GDP(国内総生産)における現金の比率は、わずか1.5%。日本の約20%に比べると、いかに現金が出回っていないかがわかります。

 こうなると、市中の銀行も現金を扱いません。銀行の支店に行ってみたところ、現金を扱うカウンターやテラー(窓口係)の姿はありません。あるのは住宅ローンや資産運用の相談を行うためのソファーや会議室だけで、支店そのものがサロンのようになっていました。

 ここまでキャッシュレスが進むと、庶民も現金を使わないし、銀行も扱わない。中央銀行による法定通貨の発行が大幅に減少して、通貨の発行による利益(通貨発行益)も減る。スウェーデン中央銀行はそれを懸念して、「eクローナ」の発行を計画しているわけです。

「いつやるか」

 一方、日本ではどうか。実は1990年頃から、日銀内部で「電子現金プロジェクト」という基礎的な研究が行われたことがあり、私も研究員として加わっていました。中央銀行員のDNAの中には、「電子的な貨幣を発行したい」という願望が根強くあるのです。

 歴史的にみると、通貨は、その時々の最新技術を使って発行されてきました。その意味では、ブロックチェーンという技術が出てきた中で、それを使って電子的な通貨を発行しようとするのは「歴史の必然」であるとも言えます。

 その意味で、スウェーデン中央銀行の人が言った言葉が、今でも強く印象に残っています。

「デジタル通貨の発行は、やるかやらないかというwhether(どちらか)の問題ではなく、いつやるのかというwhen(時期)の問題なのだ」――。

中島真志 1958年生まれ。麗澤大学経済学部教授、経済学博士。一橋大学法学部を卒業後、日本銀行に入行。調査統計局、国際局、国際決済銀行(BIS)を経て日銀を退職。決済分野を代表する有識者として、金融庁や全銀ネットの審議会などにも数億参加している。単著に『入門 企業金融論』、『外為決済とCLS銀行』、『SWIFTのすべて』、共著に『決済システムのすべて』、『証券決済システムのすべて』、『金融読本』(いずれも東洋経済新報社)など。
(2017年12月7日フォーサイトより転載)関連記事