実録!上場企業が挑む新規事業のマーケティング【株式会社IDOM】

過程は非常にハードで苦しいものだった。
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本エントリでは、実例を元に新規事業のマーケティングを紹介する。

対象読者としてはビジネスマン全般をイメージして書いているが、会社で新規事業を担当している方や、マーケティングに携わっている方、自動車業界の方などには特に楽しんでいただけるのではないかと考えている。

クルマ屋にいるIT屋

私は現在、中古車流通大手の株式会社IDOM (旧社名:ガリバーインターナショナル) で新規事業の責任者を務めている。前職はソーシャルゲームのGREEでメディア事業や新規事業を担当しており、キャリアのスタートはエンジニアなので、属性としてはどっぷりインターネット屋さんということになる。

私が現在担当している「NOREL」という事業の最初の1年は、契約数で当初の7倍、CVR (見込み客から実契約への転換率) で最大9倍と、結果としてはまずまずのスタートを切ることができた。

だが、その過程は非常にハードで苦しいものだった。クルマとインターネットの狭間で生まれる新規事業を扱う中で、何に悩み、考え、どのような施策を行い、何がうまく言って何が失敗したのか。

事例を元に綴ってみたいと思う。

■NORELについて

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まずは事例となるNORELについて、控えめに説明しておこう。

NORELは「月額定額制、クルマ乗り換えホーダイ」という新しいジャンルのサービスである。利用者はインターネットを利用し、サイトに掲載された自動車を申し込む。その後、必要書類を送付すると最寄りのガリバー店舗にクルマが届けられ、任意保険も含んだ月額定額でクルマに乗ることができる。

特徴的なのは、最低利用期間である90日を経過すると次のクルマが予約できるようになり、スイッチングコストなしで別のクルマに乗れるようになることだ。本稿では詳細な説明を省略するので、詳細はWEBサイトでご確認いただきたい。

■1年間の軌跡

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上図は、NORELにおけるこの1年のKPI (重要業績指標) をいくつか切り出したものだ。

簡単に説明しよう。

まず、青い折れ線の部分は "CVR (ConVersion Rate)" である。聞きなれない言葉かもしれないが、「見込み客から実契約への歩留まり」と考えていただきたい。これが高いほど、見込み客が実契約になる確率が高い、ということだ。

次に、濃いオレンジ色の棒グラフが「新規予約件数」、つまり「契約数」である。2017年4月から2017年8月まではほぼ横ばいだが、2017年11月から急激に伸びているのが見て取れるだろう。

最後に、黄色い棒グラフが「新規訪問数」である。グラフに収めるために定数Nで正規化してある。こちらは2017年4月から2017年8月までの伸びは緩やかだが、2017年9月から一気に拡大している。

これら3つのKPIの関係から、過去1年のNORELの事業フェーズを「立ち上げ期」「調整器」「拡大期」とラベリングした。各フェーズでの状況と課題、打ち手について説明していく。

立ち上げ期の状況と要諦

NORELという事業は、2017年1月から新規受付を停止しており、グラフのスタートである2017年4月から一般の予約受け付けを開始した。新規受付停止の背景としては、ビジネスモデルの再設計、採用も含めたチーム作り、サービス内容の変更など多岐に渡るが本稿では割愛する。

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この時期のポイントは急激に下がる青線、つまりCVRの急激な低下だ。

図にも記載がある通り、一定のリード (見込み客) は存在していたものの、新規流入がないので徐々に需要 (リード) が枯渇していく様子がわかると思う。

一方で、この時期は元々月額49,800円の1プランのみだったところから、39,800円・59,800円・79,800円の3プランに拡大し、さらに車両本体の補償を行うサービスを開始したため月あたりの契約単価は、リニューアル前に比べて1万円以上向上した。

このような高価格帯の需要を確認できたことはこのフェーズでのひとつの成果だった。一方で、濃いオレンジの契約数は尻すぼみになっており、このままではビジネスとしての成長は望むべくもない状況だった。

その裏側で、事業部は一体何をしていたのか。

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これは、当時のレポート資料の一部である (外部公開できず伏せている部分がある)。

私は2017年1月からNOREL事業を担当している、2代目の事業責任者だ。事業の立て直しは前職GREE時代でもニュース事業にて手がけたことがあるが、その時とステップとしてはだいたい同じだ。真っ先にやらないといけないのは長く戦うために「損益分岐点を下げる」こと、そして収益化を早めるために「ビジネスあたりの利益率を最大化すること」。

ビジネスが危険な状態にある、もしくは立ち上げたばかりの状態で、とにかく収益化を目指してプロモーションに走る担当者がいるが、私のような小心者からみるとそれはいちかばちかの賭けであり、自分の金であれば好きにしてよいが、他人の投資を預かってる際にすることではない。

新規事業を立ち上げた時、最初の仕事は「資金が尽きる前に、未知のニーズの手がかりをつかむこと」である。

次回「新規事業のプロダクト・マーケット・フィット」

随分記事が長くなったので、今回は一旦ここまでとしたい。

次回は、いわゆる PSF (製品・サービスが、課題に対して正しい打ち手となっている状態) や PMF (顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供できている状態) を目指して行った打ち手や試行錯誤について書こうと思っている。

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