ビットコイン1万ドル台に~既存市場を揺るがす恐れも:エコノミストの眼

1年間で10倍以上に値上がりしており、時価総額は20兆円近くに達している。

1――高騰するビットコイン

代表的な仮想通貨であるビットコインは取引量が急増し、価格が急速に上昇している。11月29日には、心理的に大きな節目となる1万ドルの大台に乗った。2017年の初めには1ビットコインは1000ドル弱だったので、1年間で10倍以上に値上がりしており、時価総額は20兆円近くに達している。

ニッセイ基礎研究所

ビットコインが8月に分裂してビットコインキャッシュが誕生したが、この際にビットコインを所有していた人達には、同数のビットコインキャッシュが配布された。

分裂による混乱や、ビットコインとビットコインキャッシュを合計した仮想通貨の供給増によるビットコインの価格低下を懸念して、分裂前にはビットコインの価格は3割程度も下落した。

しかし、分裂後にビットコインもビットコインキャッシュも順調に取引が続けられ価格は上昇した。このため、分裂によって資産が大きく増加することを期待する投機資金が流入して取引量も価格も大きく増加する結果となっている。

仮想通貨は高騰しているが、本来の目的である送金や支払への利用よりは、将来の値上がりを期待した投機の場として活発に利用されているというのが現状だ。日米欧が続けてきた超金融緩和政策が仮想通貨の価格高騰に拍車を掛けていることは間違いないだろう。

米国が緩やかながら利上げを続け、ECB(欧州中央銀行)や英中銀が超金融緩和からの脱却姿勢を強めていけば、どこかで現在のようなバブル的な価格上昇が反転下落する恐れも大きい。

2――分裂・増殖する仮想通貨

仮想通貨と言えば2009年に生まれたビットコインが代表だが、イーサリアム、リップル、ライトコインなど次々と新しい仮想通貨が生まれ、現在では1000種類を超えるほど多くの種類の仮想通貨が取引されている。

時価総額で見るとビットコインのシェアは5割強に低下しており、イーサリアムがこれに次いで約15%のシェアだ(*1)。ビットコイン以外の仮想通貨の市場も急速に成長しており、ビットコインだけが圧倒的に大きな市場規模を占めるという状況ではなくなりつつある。

ビットコイン自体も、2017年8月に分裂してビットコインキャッシュが生まれた後も、さらに分裂を続け10月にビットコインゴールド、11月にはビットコインダイヤモンドが分裂して生まれた。

ある取引所のWEBには、ビットコインが円や米ドルといった普通の通貨との違いとして、「ビットコインには、発行を司る組織や流通を管理する組織が存在しない」「どこの国も、企業も、ビットコインの発行・流通には関与していない」と書いてある。

しかし、ビットコインが分裂を繰り返しているのは、取引量が拡大したことで送金に時間がかかるようになり、その対応方法についてビットコインのシステムを事実上牛耳っている人達の意見がまとまらなかったからだ。

一連の分裂騒ぎを見れば分かるように、明らかにシステムの中心にはビットコインの技術的な規格を管理している人達がいる。政府の関与を嫌う人達は、政府や中央銀行が関与していないことを非常に重要視する。

しかし、その行方に全く関与できない多くの人たちを考えれば、自分達が全く関与できないところで全てが決まっていくという仕組みが望ましいとは思えない。

3――既存市場を揺るがす恐れも

仮想通貨の時価総額がこれだけ大きくなってくると、何か問題が起こった時に既存の金融市場に与えるショックにも十分な警戒が必要になる。仮想通貨の価格変動は非常に大きく、急激な価格下落によって投資家が大きな損失を被ることもある。

もしも投資家が、既存の金融市場で調達した資金で仮想通貨に投資を行なっていれば、多額の債務が焦げ付くという形で既存の金融市場に大きな影響を与える可能性がある。

一つの国の中で複数の通貨が取引に活発に利用されるということはまずない。国連に加盟している国の数は193で、従来型の通貨とみなされているものの数は200に満たない。

2009年から現在までの短期間に生まれた千種類を超える仮想通貨が全て生き残るとはとても考えられず、多くの仮想通貨はいずれ淘汰されて消えて無くなり、無価値になってしまうはずだ。競争の結果淘汰された仮想通貨を大量に保有していた投資家が大きな損害を被ることも起こるだろう。

仮想通貨がもっと活発に支払や送金に利用されるようになって取引量が急速に拡大していくと、より新しい規格で高速で大量の取引ができる仮想通貨に利用がシフトしていく可能性もある。現在最も時価総額の大きなビットコインが、このまま生き残るという保証は無い。

ビットコインなどの仮想通貨を支えているブロックチェーンと呼ばれる技術が革新的で、通貨以外の多くの分野での利用が期待できる非常に有望なものであることは多くの人が認めている。しかし、国や中央銀行が関与しない仮想通貨というものがどこまで成長するのかは未知数だ。

そもそも中央銀行が生まれた背景などから筆者が懐疑的であるということは既に(「注目集めるビットコイン」2014年2月http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=41363?site=nli)述べたとおりである。ブロックチェーン技術の発展にブレーキをかけることは避けるべきだが、仮想通貨の価格急落が既存金融市場を揺るがすという事態には十分な警戒が必要である。

(*1) coinmarketcap.com(https://www.blockchain.com/)に、実際に取引されている仮想通貨としてリストアップされているものは、2017年11月28日現在で1326あり、その時価総額は3121億ドル(約34.7兆円)だった。

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(2017年11月30日「エコノミストの眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー

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