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2018年06月06日 14時43分 JST | 更新 2018年06月06日 14時43分 JST

五つ星・同盟連立政権発足-イタリア政治は再び世界を揺らすか?:研究員の眼

考え難いイタリアのユーロ離脱

Bloomberg via Getty Images

6月1日、イタリアで「五つ星運動」と「同盟」による政権が発足、コンテ首相率いる新政権が発足した。

反エスタブリッシュメントの五つ星運動と反移民を掲げる同盟の連立は、今年3月の総選挙前、欧州連合(EU)懐疑色の強い「最悪」の組み合わせと見なされてきたはずだが、イタリア国債、イタリア株は買い戻された。

マッタレッラ大統領が、両党が最初に提出した閣僚名簿のユーロ懐疑派の経済・財務相人事を拒否し、コンテ氏が組閣を断念したことをきっかけに、「7月にも事実上のユーロ離脱の是非を問う国民投票として再選挙が実施され、EU懐疑派がさらに躍進、イタリアのユーロ離脱が現実味を帯びる」との懸念からイタリア売りが加速、世界株安を招いた。

それだけに、とりあえず早期の再選挙が回避されたことに、とりあえず一息ついたようだ。

今回のイタリア発の世界株安で、筆者が最も多く受けた質問は、「冷静に考えれば、イタリアがユーロを離脱することは考え難いのに、なぜ、市場は激しく反応したのか」というものだ。

このコラムでは、この問いと、イタリアの政治が再び世界を揺らすリスクについて、筆者の考えをまとめたい。

■考え難いイタリアのユーロ離脱

まず、「冷静に考えれば、イタリアがユーロを離脱することは考え難い」という見方に筆者は基本的に同意するし、少なくとも五つ星・同盟政権が実行に移すとは考えていない。

最大の理由は、ユーロは逆戻り出来ない通貨として導入されたため、「秩序立ったユーロ離脱」の道筋が現存しないことにある。

2015年にギリシャが、EUの支援条件の是非を問う国民投票を実施した際、ギリシャは激しい預金流出への対応のため、資本規制を迫られ、結局は、より厳しい条件を受け入れることで、事態を収拾せざるを得なくなった。

EU・国際通貨基金(IMF)の支援体制下にあったギリシャと異なり、イタリアの政府信用格付けは、投資適格で、市場調達をしている。ユーロ離脱が現実味を帯びた場合に引き起こされる混乱は、ギリシャの比ではない。金融市場への影響も大きいが、イタリアが失うものも大き過ぎる。

そもそも、五つ星運動、同盟ともに、今回の選挙戦を、ユーロ離脱を掲げて勝利した訳ではなく、連立の「政権綱領」にも盛り込んでいない。ユーロ離脱を掲げれば、混乱を引き起こし、政権公約実現が妨げられ兼ねないし、支持離れを招くことを承知しているからだろう。

■しかし、潜在的不安は払拭できない

それでも、イタリアのユーロ離脱リスクを意識させる材料に事欠かないことが、イタリアの政治の混乱に「市場が激しく反応した」理由だ。

ユーロ導入以来、イタリアの経済のパフォーマンスは冴えない(*1)。欧州委員会の世論調査(*2)でも「ユーロを支持しない割合」が30%と、ユーロを導入する19カ国で最も高い。

「物価が上がった」、「通貨切下げというルートを封じられた」という理由に加え、「終わりなき財政緊縮」を迫られている点も不人気の理由だろう。政府債務残高の名目GDP比はユーロ圏内でギリシャに次いで2番目に高い。

ユーロ参加国が満たすべき財政ルールは、ユーロ圏の債務危機で、名目GDPの3%を超える過剰な財政赤字だけでなく、同60%を超える過剰な政府債務にも厳しくなった。

イタリアは、利払い費を除いた基礎的財政収支は黒字、財政赤字も3%を下回っているのだが、政府債務残高名目GDP比の安定化のために中期財政計画では基礎的財政収支の黒字をさらに増やし、2020年の財政収支均衡を目指さざるを得ない。

五つ星・同盟政権が「政権綱領」に盛り込んだ「15%と20%の二段階のフラットタックス」、「月780ユーロのベーシック・インカム(最低所得保障)」、「年金支給開始年齢引き上げ撤回」などの大盤振る舞いは、EUのルールでは許容されない。


(*1) 詳しくは、Weeklyエコノミスト・レター2018-02-19「イタリアの選挙戦が映すもの-失業と格差に追い打ちをかける難民と財政の制約」をご参照下さい(http://www.nli-research.co.jp/files/topics/57915_ext_18_0.pdf?site=nli
(*2) European Commission , "Standard Eurobarometer 88, Autumn 2017"

■懸念されるEUとの対立

五つ星・同盟連立政権のリスクとして今後警戒されるのは、EUのルールを無視して「政権綱領」の実現に突き進み、EUとの対立が先鋭化することだ。

債務危機を教訓に、ユーロ導入国の財政運営に関しては、ルールだけではなく、監視体制や違反に対する制裁なども強化された。かつての財政運営の監視は事後的なものだったが、現在は、毎年10月15日までに暫定予算の提出を求め、中期財政計画との適合性を審査するプロセスが導入された。

制裁は「GDP0.2%相当の無利子の預託金」と「罰金」という2段階になり、発動が容易化された。財政規律違反が財政赤字3%ルールだけでなく、中期財政計画からの逸脱にも適用されるようになった。

しかし、こうしたプロセスが、「EUのルールを無視して「政権綱領」の実現に突き進む」ことに歯止めを掛けることが出来るのかどうかは未知数だ。EUの財政ルールでは、各国の財政運営のルールへの適合性評価は、超国家機関である欧州委員会が行うが、違反の認定や制裁等の決定は、加盟国の代表で構成する閣僚理事会が行う。

ユーロ危機前は、ドイツ、フランスの二大国が違反を繰り返していたこともあり、閣僚理事会が違反を認定できず、ルールが形骸化していた。その反省から、反対意思を表明した国が多数を占めない限り、可決とする「逆多数決方式」に変更されたが、明確な違反国が出たときに、果たして有効に機能するのかどうか、まだ試されたことがない。

■EUの財政ルール以上に有効な市場の監視

イタリア新政権が、EUの財政ルールをどの程度尊重するのかは現時点では不透明であり、ルールそのものの効果も不透明だ。

しかし、市場がイタリアの財政への懸念を強め、国債利回りが急騰した時、政策を大きく修正しなければ、欧州安定メカニズム(ESM)による予防的クレジットラインや国債買い入れ支援、欧州中央銀行(ECB)のOMTと称する国債買い入れは利用できない。悪くすれば、2015年のギリシャのように、ECBの適格担保からイタリア国債が除外されてしまう。

五つ星・同盟政権樹立に至るプロセスでの市場の激しい反応は、今後も新政権の政策運営、とりわけ財政政策が厳しい監視されるであろうことを示唆する。格下げという事態も想定される。

市場の監視は、EUの財政ルールよりもより効果的に、イタリアの新政権に現実的な政策運営を促すことになると見ている。

■イタリア・ショックは今後も一時的に留まる

イタリアの政治が再び世界を揺らすリスクは排除できない。コンテ首相には政治経験がなく、五つ星運動のディ・マイオ党首は、最初の閣僚名簿の拒否に「大統領の弾劾」を安易に口にし、未熟さを露呈した。新政権では、副首相兼経済発展・労働相の要職につき、「ベーシック・インカム」の実現に意欲を示すが、今後も不用意な発言が、市場を動揺させることがあるかもしれない。

五つ星・同盟の足並みが早晩乱れ、政権が崩壊するリスクもある。同盟のサルビーニ書記長は、副首相兼内相を兼務、「不法移民50万人の強制退去」など、イタリア国民の目下最大の関心時である移民・難民問題に厳しい姿勢を示す。

目標の達成は困難と見られるものの、信頼できる政治家としてのイメージの定着に成功し、支持率はうなぎのぼり。政権樹立までの混乱で支持を落とした五つ星運動を逆転する勢いだ。こうした傾向が続けば、先行き、同盟が、同党主導の右派政権樹立へと動き出すことも考えられるだろう。

それでも、イタリアの政治不安が、国債のデフォルトやユーロ離脱といった極端なシナリオに発展することはやはり考え辛い。今後も、政治や政策の動きを市場が牽制する動きが、世界を揺らすことはあるかもしれないが、今回のように、一時的なものに留まるだろう。

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(2018年6月4日「研究員の眼」より転載)
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伊藤 さゆり