1月30日、米国トランプ大統領は、一般教書演説の中で「paid family leaveによって、働く家族を支えよう」と述べ、野党民主党議員からも盛大な拍手を得た。また続く予算教書においても「今予算は、仕事と家庭での責任のバランスが取れるよう、paid family leaveを制度化する。」としている。
paid family leaveとは何か? 文字通り、有給家族休暇であり、新生児(養子も含めて)を迎える家族が6週間の有給家族休暇を追加的に取れるようにしようという内容だ。
米国は、先進国で唯一「有給の産前産後休暇や育児休暇」のない国だ。(図1)(*1)トランプ大統領は、働く家族を支えるために産休を含めた休暇制度を用意しようとしている。一方、図1の通り、欧州先進国では手厚い産前産後休暇制度が用意されている。
米国や英国と大陸欧州では労働者を取り巻く制度・規制が全く違う。大陸欧州では労働者が大変厚く守られている。
ロンドンに拠点を置く金融機関は、Brexitに伴い欧州大陸への移動について検討を迫られているが、欧州金融機関の経営幹部は、「だからと言って高給のバンカーをそのままロンドンからフランクフルトに移すわけにはいかない。
業績が悪ければすぐにくびにできるから高い給料払っているのであって、解雇規制が厳しいドイツで同じ給与を払うわけにはいかない。」と言っているそうだ。
さて、米国に話を戻すと、産休のない国アメリカでは女性活躍が遅れているのだろうか。もう少しで女性大統領誕生だったことを見ても、日本よりはるかに女性が活躍している。
筆者は、何も女性を働きやすくする制度が無くても、女性は活躍できると言いたいわけではない。むしろ、制度があっても活用できなければ、女性活躍推進など絵に描いたもちになってしまうということだ。
図2を見て欲しい。これは、父親に与えられる育児休暇の比較だ。日本は、韓国と並んで世界トップ水準の制度が用意されていることがわかる。しかし、男性の育児休業取得率は、いまだ3.16%(2016年度実績、厚生労働省)と極めて低い。「制度あれども活用されず」だ。
育児制度後進国のはずの米国で、トランプが産休を制度化し、テクノロジー企業がさらに先進的な制度を用意すれば、女性活躍における日本との距離はさらに開くことになりかねない。
(*1) カリフォルニア州をはじめ州レベルで提供しているところは増えてきているが、まだ限定的である。一方、民間企業では先進的な制度を導入している会社もある。
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(2018年4月26日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
常務取締役 経済研究部 部長