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2018年12月01日 11時16分 JST | 更新 2018年12月01日 11時16分 JST

小売業の正月休業は単なる働き方改革ではなく、経済合理性のある行動である(岡崎よしひろ 中小企業診断士)

その理由を、正月の売上がどれだけ業績に貢献しているかと人材の採用に係るコストを対比しながら見ていきます。

初売りで混雑する百貨店の福袋売り場=2018年1月1日、東京都豊島区の西武池袋本店
時事通信社
初売りで混雑する百貨店の福袋売り場=2018年1月1日、東京都豊島区の西武池袋本店

小売り各社で年末年始を休業とする動きが広がっています。

京急ストアは2019年から10年ぶりに1月1日を休業する。成城石井も19年は7割以上の店で元日を休業にするほか、マルエツも23年ぶりにほぼ全店を休みにする。小売業の人手不足は厳しさを増している。従業員の要望が多い正月を休みにして、働き手の確保につなげる。
小売り各社、広がる正月休業 働き方改革で人手確保  日本経済新聞 2018/11/25

正月の休業は働き方改革の文脈で語られることが多いのですが、多くの企業にとっては単に福利厚生の面だけでなく、経済合理性のある行動だと筆者は考えています。

本稿ではその理由を、正月の売上がどれだけ業績に貢献しているかと人材の採用に係るコストを対比しながら見ていきます。

■売上はそのまま利益ではない。
お店を休業すると「正月の営業をやめると、その分の売上がマイナスになるから、経営にとっては大きなマイナスである」と考える人もいるかもしれません。

確かにその分の売上はマイナスになりますが、業績はそのままマイナスにはなりません。言い換えれば100万円の売上減は100万円の利益減にはならないのです。

100万円売るためには商品を仕入れなければなりません。一般に小売業の粗利率は30%と言われていますので、70万円分の商品を仕入れて100万円で売っています。そのため、100万円の売上をあげたとしても、利益としては30万円しか貢献していないのです。

逆に言うと、このような企業にとって売上が100万円下がったとしても、利益は100万円下がるわけではなく、30万円下がるだけです。

このことから、正月の営業を取りやめることによるマイナスは、ざっくりと言えば売上高ではなく、売上高×粗利率で求められる粗利額であるということができます。

また、固定的にかかるコストだけではなく、営業することで発生するパートやアルバイトのお給料もありますので、休業による利益の減少は粗利益の30万円よりもっと小さくなります。

■人材の採用に係るコストは増加している
一方、小売業における人材確保は厳しさを年々増しています。厚生労働省の統計によると平成30年7月の小売業(商品販売の職業)の有効求人倍率は2.51倍であり、全体の有効求人倍率1.42倍を大きく上回っています。

これは人材の募集をしてもなかなか人が応募してきてくれないことを意味するため、採用コストの増加につながります。

2018年卒マイナビ企業新卒内定状況調査によると入社予定者一人あたりの採用費用は、非製造業で51.6万円となっています。この調査対象は主に新卒採用向けですが、一般論として新規採用にはかなりのコストがかかることがわかります。

また、採用された人がすぐに一人で仕事を行えるわけではありません。採用した人材が活躍できるように教育訓練を行う必要が生じます。教育訓練というと、座学で研修をすることをイメージしがちですが、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)といって仕事をしながら教育訓練をするケースも多々あります。

OJTはコストがかからない安上がりな教育訓練にように見えるかもしれません。しかし、先輩従業員や上長など新人よりも時間単位の賃金コストが高い上に人に教えることを専門としていない人が教えるためとても時間がかかります。そして、時間がかかればコストがより多く発生します。

しかも、このコストは、教育訓練を受ける新人と教育訓練を行う人双方の人件費となります。このように採用して一人前になるまでには相当なコストがかかるのです。

■経済合理性を考える
このような前提にたち、正月営業が本当に経済合理性のある行動なのかを考えていきます。

例えば、年間1億1千万円の売上のお店があるとします。季節によって売上は大きく変わりますが、ざっくりと一日あたり30万円の売上を獲得すると考えられます。また、正月は売れ行きがいつもの2倍あると仮定し、粗利率は小売業で一般的な30%とします。

このようなお店が、元日と1月2日の営業を取りやめると失う売上高は120万円となります。120万円の売上を失うのは非常に大きいのですが、失う粗利益で考えると36万円です。

36万円の利益を失うのは厳しいですが、正月営業を要因として一人でも従業員が退職に結びついてしまったら36万円の利益など吹き飛んでしまいます。

このように、人材の採用コストも含めてトータルで企業にとって損得を考えると違った景色が見えてきます。

また逆に、正月営業を行わないことで、働きやすい企業との評判が確立すれば人材の採用活動が円滑になりますし、従業員の士気が高まれば日々の仕事の生産性も向上します。

休日の取得を気にする従業員は多い。求人サイト「an」を運営するパーソルキャリア(東京・千代田)の調査によるとパート・アルバイトを選ぶ際に最も重視されるのは「勤務日数・時間・シフト変更・休みの融通が利くこと」(17.5%)だった。「給与が高いこと」(7.2%)や「やりがいのある仕事であること」(4.5%)よりも回答数が多かった。
小売り各社、広がる正月休業 働き方改革で人手確保  日本経済新聞 2018/11/25

報道のように、パートやアルバイトを選ぶ際には休みの融通が利くことが大きな要因となっています。そのため、正月の営業を取りやめ、休日面での待遇を良くするといった行動は採用及び採用後の従業員の定着にとって効果があると考えられます。

ただし、一概に正月営業は行わない方がいいとまでは言うことができません。正月に営業することが重要な仕事もあれば、競合店との競争を考え、どうしても元日からお店を開けなければならないといったケースも存在します。

これは正月に営業することのメリットとデメリットを冷静に見極めて、それでも正月から営業することが得であるといった判断は、経営戦略上の判断です。そしてこのような判断の場合、正月以外に休みやすくするなどの対応を行い、正月に営業するデメリットを打ち消す方策も同時に行う必要があると考えられます。

しかし、特にこれといった理由もなく「正月から営業をすれば売上が上がるし、競合も営業しているから」と短絡的に考えるならば、正月の営業は思ったほど得ではなく、むしろ損になっている可能性さえあります。

さて、あなたのお店や会社はいかがでしょうか? 正月に休むべきか営業すべきか、ぜひ一人ひとりが考えてほしいと思います。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】
全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。