森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化、エネルギーなどの話題を幅広く発信しています。2月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、パーム油を燃料と見込むバイオマス発電の「認定」急増に、苦言を呈しています。
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自然エネルギー(再生可能エネルギー)の固定価格買い取り制度(FIT)におけるバイオマス発電の「認定」が急増している。買い取り価格の引き下げが決まったため、高い値段のうちに認定をとる「駆け込み申請」が殺到した。認定はいわば「申し込みの受付」段階なので、そのまま発電所建設に進むとは限らないが、経済産業省はブレーキをかけようとしている。停滞から突然のバブル騒動だ。日本のFITはなかなかスムーズにいかない。
値下げを前に駆け込み申請
FIT制度で導入され、稼働しているバイオマス発電所は85万kW(2017年3月)と停滞が続いていたが、認定は2017年9月段階で約1300万kWにもなった。この認定のうち1000万kWほどは、直近の1年半ほどの間に増えたものだ。
理由は、17年10月に、「一般木質バイオマス」という区分の買い取り価格が、1kW時当たり24円から21円に下がったこと。値下げを前にした駆け込み申請だった。
経済産業省が、これに対して「増えすぎた」と慌てている。日本の2030年の発電割合(電源構成)の想定では、バイオマス発電設備の総量は一応600万~700万kWほどとされているのに、数字の上では「もうそれを超えてしまった」というのだ。もっとも、「認定」の多くは発電所建設までは進まないだろう。
バイオマス発電所が想定している燃料は、①パーム油②木質ペレットやヤシ殻③国産材、など。認定された1300万kWのうち4割の約500万kWは、燃料として海外から輸入するパーム油を見込んでおり、ずいぶんと偏っている。
パーム油はアブラヤシの実から採れる。チョコレート、カレールー、インスタントラーメンなどの食品、あるいは化粧品などに広く使われている。発電に使うのは品質の落ちるパーム油で、原油を精製して最後に残る重油で発電するようなものだ。
重油と異なるのは、化石燃料ではなく植物から採れるものなので、地球温暖化を考える際、燃やしても二酸化炭素(CO2)排出にカウントされないことだ。そして、日本ではFITによって発電した電気を高値で買い取ってもらえることも、事業者にとっては大きな魅力となる。
しかし、500万kW(原発約5基分)という規模は尋常ではない。これがすべてフル稼働すれば、必要なパーム油は年間約1000万tにのぼり、それは燃料用パーム油「RBDステアリン」の世界生産量の半分に当たるという。現実には燃料調達が無理で、多くは計画倒れに終わるだろう。
バイオマスに潜む落とし穴
インドネシアやマレーシアでは森や湿地を切り開いて、商品になるアブラヤシの農園を造るため、生態系を変え、森を頼りに伝統的な生活をしてきた人が土地を追われる事態が広がっている。食品だけでなく、発電目的での生産が増えれば環境破壊の規模も格段に大きくなる。
パーム油を搾った後に残るヤシ殻も火力発電での混焼材として期待され、FITの認定が増えている。これに対しても「燃やすとしても輸送などの手間、コストが省ける現地で利用するべきだ」との批判がある。当然だろう。
バイオマス発電は自然エネルギーとして扱われることが多いが、注意が必要だ。太陽光や風力はその場で電気に変えるしかないので、「土地に付随した自然資源」と考えられる。一方、木材や燃料は輸送して売買できる。
戦後、南洋木材の日本への洪水的な輸入が起き、フィリピンやマレーシア、インドネシアでは、山が裸になるような異常な伐採が起きた。同時に日本では、国産木材が使われなくなって林業が廃れた。海を越えて売る側、買う側の経済的利益が一致しても、環境や地場産業の崩壊は別の話だ。パーム油も同じような危うさがある。バイオマス資源は地域の実情に合わせて使えば地域を助けるが、丁寧に扱わなければ思わぬ問題を生むという落とし穴も潜んでいる。
日本政府はバイオマス発電の計画にブレーキをかけようとしている。調達価格をさらに下げ、発電用のパーム油の輸入については、近い将来、「問題のない燃料であることの認証制度」を導入することに決めた。これは良いことだ。
しかし、「バイオマス発電所が多くなりすぎるのでは」という主張には賛成できない。FITの開始以来、日本では太陽光発電が増えているだけで、風力や小型水力、バイオマスなどの自然エネルギーの増加は停滞している。
2030年段階で自然エネルギー全体の発電割合が22~24%で、バイオマスは最大で4.6%というのも、目標が低すぎる。そもそも日本での期待は、林地残材、畜産の糞尿など種々の未利用資源を発電に結び付けることだ。「国産資源」は原点であり、小規模でも多様な燃料を国内で持続的に調達できる発電所の建設を助けたい。パーム油発電のバブル的申請に目を奪われて、バイオマス発電全体の健全な伸長を阻害してはならない。
注目される送電線の「空き容量」
自然エネルギーが増えない理由として、送電線の「空き容量」が注目されている。電力会社に「送電線の空き容量がない」といわれれば、自然エネルギー発電所は造れない。
2017年11月、資源エネルギー庁は全国で「50万kW」分の枠を用意して太陽光発電所の新規建設を募り、入札で決めた。しかし、異常なことが起きた。入札業者が集まらず、成立したのは14万kW分だけ。それも翌12月には「やっぱりやめさせてもらいます」という辞退が相次ぎ、たった4万kW分の計画しか残らなかった。
理由は「送電線に接続できる見通しがないから」。つまり、いくら事業をやりたいと思っても、日本全国で「この辺りでは送電線に空きがありません」と送電線への接続を断られるのである。
送電線が電気でいっぱいならば仕方がない。しかし、最近「満杯というが、本当はガラガラなのではないか」という研究が出てきた(『グリーン・パワー』2017年11月号の本欄参照)。これは大変な問題だ。風力発電や太陽光発電の業界団体が、「本当はもっと入るのではないか。はっきりさせてほしい」と国に求めるようになった。「送電線の空き容量問題」は今後、バイオマス発電を含む自然エネルギー導入にとって、最大の問題になるだろう。