VR元年!と思ってたら、ARも一緒にやってきた。Lenovo製「ARスマホ」9月発売。

中国のスマホメーカーLenovoから、「世界初」と言える消費者向けのARスマホ製品 PHAB2 Proが9月に発売されることが6月に発表されました。

今年はVR元年だ!」と何度か弊社のブログでも書いてきましたが、あっと言う間にその次の「AR」の時代もやってきそうなので、今回は「AR」について取り上げたいと思います。

9月に発売されるLenovo製 「ARスマホ」

3月にOculus (OculusVR)、4月にHTC (Vive)、そして10月にはSony (PlaystationVR)と、今年は次々と主要なVRヘッドセットがリリースされます。それらのヘッドセットに対応する多くのコンテンツやサービスも準備されており、まさに今年はVR元年になりそうです。

一方で、ARに関しても、Microsoftが開発者会議Build2016において、同社のARヘッドセット HoloLensのDeveloper Kitをリリースし、私たちのオフィスにもHoloLensがやってきました。

そんな中、中国のスマホメーカーLenovoから、「世界初」と言える消費者向けのARスマホ製品 PHAB2 Proが9月に発売されることが6月に発表されました。

ぱっと見は、何の変哲のない「普通のスマホ」のように見えるのですが、これまでは考えられなかった夢のような機能が実現されている端末なのです。

機能などを説明する前に、まずはそもそも「AR」って何?というところから振り返ってみたいと思います。

拡張現実「AR(Augmented Reality)」とは?

下記は、弊社が4月に発表したVRスタートアップレポートの「VRとARの違い」についての説明です。

Oculusなどに代表される「VR」は、完全に現実の世界が見えない「没入感」のあるヘッドセットが特徴です。このため、単純にテレビ画面などで見るのとは異なり、ゲーム、映画、スポーツなどの世界に実際に入ったように没入して体験することができます。一方で、実際の周りの環境は全く見えないため、日常的に装着して外出したりすることはできないという課題もあります。

ARは、基本的に「リアルな世界」が先にあり、その空間を認識して、その上にバーチャルなものをAugmentする(重畳する)というものです。上図にあるように、完全にバーチャルな世界に没入するのではなく、リアルな世界の物体、商品の上に様々な情報、グラフィックスを付け足して体験できるという世界です。

このため、ARは、「リアルな空間をちゃんと認識する」という別の技術的なチャレンジがあるのですが、日常的に装着、利用ができるため、スマホ同様、様々な応用分野での活用が期待されています。

GoogleのAR技術「Tango」

Lenovoが発表したARスマホ PHAB2 Proは、Googleが2年前から取り組んでいるAR技術「Tango」の技術を搭載した初のスマホ製品です。

Tangoは、「画像認識技術」を使った技術プラットフォームのことで、 GPSなどの他のセンサーを使わずに、特殊な「カメラのみ」で実世界との相対的な位置を認識することができます。

具体的には、今年のGoogle I/Oで使用された下記のスライドにあるように、「Motion Tracking(動きの追尾)」「Depth Perception(奥行きの認識)」「Area Learning(空間記憶)」の3つの特徴があり、人間がするように、動くものを目で追いかけ、建物の奥行きを理解し、一度来たことのある空間を記憶するということが実現可能となります。

こうした特徴により、インドアナビゲーション、3Dマッピング、物体の測定、などこれまでのスマホでは実現できなかった様々ななAR的なアプリケーションが実現可能となります。

もともとはMicrosoftが発表しているHoloLensとルーツは同じで、XboxのKinectの開発者だった人がGoogleのATAPのプロジェクトとして開発をされたそうです。

Googleは、今回のLenovoのPHAB2 Proの発売に合わせて、3つの新しいビデオを発表しています。

一つ目のビデオでは、子供の兄弟二人が、Tangoのスマホを使って博物館にある星の模型を認識させて、動く星の映像を見たり、恐竜の模型を認識させて、動く恐竜を見たりしています。このように、制限された場所ではなく、様々な実際の環境の中でAR体験ができるというのがTangoの特徴です。

二つ目は非常にリアルなユースケースです。少女の部屋に新しいベッドを買うに当たって、アプリから選んだベッドを実際に彼女の部屋に置いて見ることができます。サイズも正確に把握することで、こうしたコマースのシーンにおいても力を発揮します。

最後は、エンタメなユースケースです。机の場所と距離を認識し、その上にバーチャルなドミノを並べて遊んでいるというシーンです。VRのような複雑なCGを駆使したアプローチとは異なり、こうしたリアルと連携するゲームなども多数登場するかもしれません。

今回PHAB2 Proは、「$500」というリーズナブルな価格設定がされています。Tangoの実現にどのくらい追加でハードウェアのコストがかかるのかはわかりませんが、この程度の価格帯で実現可能なのであれば、今後「スマホの新しいスタンダード機能」として、こうしたAR機能は実装されていくような気がします。

Microsoft、Amazon、そしてSnapchatも

今回ご紹介したGoogleのTango、そして5月にDeveloper KitをリリースしたMicrosoftのHoloLens以外にも、多くのテクノロジー企業が「AR」をNext Big Thingと捉えて取り組んでいます。

少し前になりますが、Amazonも二年前に「FirePhone」という独自スマホを発売し、FireflyというAR技術を活用した新しいコンセプトの商品検索(スマホをかざすだけで商品のパッケージなどを認識し、注文ができる)を出し話題となりました。

このFirePhoneは大失敗と言っていいほど売れなかった(Scrumには初期ロットの端末があります)のですが、ARとコマースは非常に相性がいいので、Amazonがこのまま手をこまねいているとは思えません。

また、意外なところですが、SnapChatもAR用のヘッドセットを開発しているというもあります。

SnapChatはあまり馴染みがない方も多いかもしれませんが、その面白動画機能はARと言ってもいいようなもので、先日も3D顔認識のSceeneという会社を買収しています。

SnapChatが作るARヘッドセットに関してはまだ詳細な情報がでていないので、現時点ではなんとも言えません。ただ、Facebookを彷彿とさせる勢いで成長しているSnapChatの次の一手は注目に値するでしょう。

「車のガラスにクーポンが出る」世界

VRのような「ヘッドセットタイプ」、今回のPHAB2 Proのような「スマホタイプ」など、VRとは異なり、ARは様々な形での実現方法が考えられます。

個人的には「クルマ x AR」などは、大いに有り得る世界だと考えています。

衝突防止、自動運転という流れの中で自動車にも複数のカメラが付くようになってきています。特に自動運転カーでは、LIDARやカメラなどを使って、外部環境を詳細に把握することが不可欠です。

こうした自動運転カーにTangoの技術が搭載されれば、通りがかったモールからセール情報がフロントガラスに表示されるというような機能の実現は容易にできそうです。昔から言われていることですが、「リアル空間のAdwords」的なビジネスのチャンスがそこにはあります。VRも大きなビジネスチャンスですが、ARにはまた違う世界が広がっていると思います。

まずは、9月PHAB2 Proを触ってみて、またいろいろと考えてみたいと思います。

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