クリエイティブ教育のための博物館

クリエイティブ人材育成に力を入れるイギリスの教育のうち重要な役割を担う美術館・博物館の話。

今日は「ゆりかごから墓場まで(cradle to grave)」クリエイティブ人材育成に力を入れるイギリスの教育のうち重要な役割を担う美術館・博物館の話。

私が初めてヨーロッパの地を踏んだのは20歳の時、40日間でキャンプ場に泊まりながら西欧8ヵ国を駆け足一周する、というものでした。 『地球の歩き方』を片手に新しい都市に行くたびに「訪れるべき」美術館・博物館の(中学の美術の教科書に載っているような)「見るべき」絵・展示物を見て、見たことに満足するスタンプラリーのような旅行。 その余りの意味のなさに、その後は美術館そのものをスキップして徐々に『住むことをシミュレーションする旅』に移行していきました。

美術館・博物館とは、

- 気軽に行くもの

- 何度も行くもの

- 子どもの頃から行くもの

であることを知ったのは、ロンドンに来てからです。

今では冬の間は月2回は子どもと行く雨の休日のアクティビティーとなっています。

実際、スクールホリデー(イギリスの学校はハーフタームといって学期の真ん中に1週間休みがある)中のNatural History Museum(自然史博物館)などはイギリス中で最も子どもの人口密度が高いのではないかと思うほど、博物館は子どもだらけです(美術館は博物館ほどではないが他国に比べると多く、また子ども向けの博物館ではなく一般の博物館の話)。

一方、日本では『育児世代の美術館・博物館の利用実態』(2006年)というレポート(首都圏在住の小・中学生の親対象)によると、「末子が未就学児」の層は約4割が美術館・博物館ともに「最近は行かなくなった」と回答しており、小さい子どもがいると足を運びにくいところのようです。

イギリスが美術館・博物館が子どもウェルカムになったのは、1990年代以降、知識経済への移行と共に美術館・博物館の存在目的として「教育」が最重要視されるようになってからです。 "Learning to Live - Museums, young people and education"というNMDC(国立美術館・博物館・図書館の団体)発行レポートによると近年、美術館・博物館での学習が重要になってきた理由として以下の理由があげられています。

  1. 文化とアートの重要性の高まり

  2. クリエイティブ経済への移行

  3. インターネット技術により美術館のオンライン学習が可能に

  4. トラディショナルな場(学校の教室)以外でのインフォーマルな学習及び生涯学習の重要性の高まり

なぜ子連れ家族が美術館・博物館に足を運ぶかというと、ベビーカー対応やオムツ替え台などハードの施設が整っているからではありません。 子どもの旺盛な好奇心を刺激し、創造性を育み、学習意欲に応える工夫があらゆるところにされているからです。

例えば、上記「イギリス一子どもの人口密度が高い」自然史博物館では子ども向けに探検家になれるバックパック(サファリ帽や双眼鏡、塗り絵など)が無料で借りられます。 動物の化石・骨に触れるワークショップやトーク・ショーが開催され、博物館一の人気を誇る恐竜の化石の展示室でお泊まりすることもできます(上写真)。

他にもTrailといって宝探しのように展示物の中から何かを探させるもの(例:大英博物館)、工作(例:テートモダン)、展示物に関連したパフォーマンス・音楽・ダンス(例:V&A)、物語の読み聞かせ(例:ナショナルギャラリー)、友達を招いてお誕生日会(例:サイエンスミュージアム)までできます。

とにかく「体験型」で子どもに作業や観察をさせる工夫がなされていて、展示物の説明に終始しないようになっています。 ひとつのトピックにじっくり集中するので、何回も同じ美術館・博物館に足を運び、毎回新しいトピックで新しい楽しみ方ができます。 上記、例にあげた美術館・博物館は全て無料なので、下の子が飽きてギャアギャア叫び始めても「また来ればいいか」とさっと切り上げられます。

[ 参考 ]

国立歴史民俗博物館の研究員であり『イギリスの博物館で - 博物館教育の現場から』著者が文部省在外研究員としてイギリスに滞在された時のメモ→「イギリス博物館事情」

博物館教育に関するイギリスの各種機関の取り組み→"The Learning Power of Museums - A Vision for Museum Education"

我が家は長男(もうすぐ5歳)と次男(現在2歳半)が週末になると「博物館に行きたい・行きたい」と騒ぐので、大人の私たちからすれば飽きるほど行ってますが、次回は幼児が楽しめる方法とお勧め博物館をご紹介します。

(2015年1月24日「世界級ライフスタイルのつくり方」より転載)

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