日本人男性の隠れた悩みナンバーワンとも目される「薄毛・脱毛」。日本を代表する化粧品最大手の資生堂が29日、カナダのベンチャー企業と技術提携し、毛髪の再生医療分野に参入すると発表した。産経ニュースはこの技術に関して次のように報じた。
レプリセル社の再生医療技術は、髪が生えている後頭部から直径約5ミリの範囲で患者の頭皮を切り取り、毛髪の成長に関係するとされている細胞を外部で培養する。その細胞を注射器で患者の脱毛した部分に注入し、発毛を促す仕組み。手術は専門医が行い、細胞の培養などは資生堂が受け持つ。
(産経ニュース「毛髪医療再生に参入 資生堂 5年で事業化」より。2013/5/29 16:17)
資生堂はプレスリリースで、この技術の特徴を下記のように書いている。
<今回、導入する技術の特徴>
①植毛のように広範な頭皮の切除は不要なため、外科施術における身体的負担が小さい
②患者自身の細胞を移植するため、リアクション(移植後の拒絶反応など)のリスクが小さい
③育毛料と比べ、一度の施術で効果の持続が期待できる。
④男女問わず応用が期待できる
(資生堂プレスリリース「資生堂、毛髪再生医療の本格研究に着手」より。 2013/5/29)
資生堂によると、日本での脱毛症や薄毛関連の市場は、植毛やかつら、育毛サポート、育毛料(医薬品、医薬部外品)など国内で 2000 億円程度の市場規模になる。最近は、医療機関で男性ホルモンの抑制効果がある経口治療薬が実用化されたり、毛髪細胞の成長因子を頭皮に直接注入したりといった新しい技術開発も試みられているという。
今回のプロジェクトで使われる再生医療の技術には、患者自身の細胞を用いる「自家細胞移植」と他人の細胞を使う「他家細胞移植」の大きく 2 タイプがあるといい、今回、資生堂がレプリセル社から導入するのは前者のタイプだ。国内の再生医療の市場規模は まだ90 億円程度といわれるが、経済産業省の研究会は2050 年には 278 倍の 2.5 兆円の規模になると予測しているそうだ。政府の「成長戦略」の一つ、医療分野でも審議がされており、この分野に、最大手の資生堂が満を持して参入することになる。
技術を供給する「レプリセル」の正式社名は「レプリセル・ライフ・サイエンス」。カナダ・バンクーバーに本社を置くバイオベンチャー企業で、研究開発の成果を事業会社にライセンス提供している。
ちなみに、欧米ではベンチャー企業の「出口戦略(Exit)」として、大企業によるM&Aが圧倒的だ。「新たなイノベーションは大企業からは生まれない」というのが、産業界の常識なのだ。大企業は自社内でビジネスを種から育てるよりも、エッジの効いたベンチャーのアイデアや活力をとりこみ、新製品やサービスを世に出すほうが効率がよいと考えられている。この大企業とベンチャーとのタッグで、毛髪再生医療の世界にイノベーション旋風を巻き起こしてほしいものだ。