「ビッグデータ」のビジネス利用 個人情報はどう守る?

国や企業などが集めた大量のデジタル情報「ビッグデータ」。これを民間ビジネスに利用しようという動きが本格化している。なかでも個人の行動や状態に関する「パーソナルデータ」は、政府の新IT戦略が「特に利用価値が高い」と指摘。今後、より利用しやすいように環境整備を進めるとしている。
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政府も後押し「ビッグデータ」のビジネス利用 「個人のプライバシー」をどう守るか?

国や企業などが集めた大量のデジタル情報「ビッグデータ」。これを民間ビジネスに利用しようという動きが本格化している。なかでも個人の行動や状態に関する「パーソナルデータ」は、政府の新IT戦略が「特に利用価値が高い」と指摘。今後、より利用しやすいように環境整備を進めるとしている。

「パーソナルデータ」は、その名の通り個人のプライバシーと密接に関連する情報だ。政府の戦略案でもビッグデータの活用を進めつつ、個人情報やプライバシーをいかに守っていくのかが重要な論点の一つとなっている。

政府は今後、「個人情報保護ガイドライン」の見直しに着手する一方で、事業者の監督や紛争処理にあたる「第三者機関」の設置を検討するとしている。はたして、ビッグデータを活用しつつ、個人情報を守っていくためには、どのような点に注意すべきなのか。プライバシーはどのように保護されるべきなのか。ビジネスの法律問題にくわしい石川智也弁護士に聞いた。

●「ビッグデータ」を解析することで、企業は効果的なキャンペーンがうてる

——いったい企業はどんなデータを使って、どんなビジネスをやろうとしているのか?

「わかりやすいのは、携帯電話の位置情報データを利用するようなイメージですね。そのデータを大量に集めれば、人がどのように移動し、いつ、どの場所が、どのような性別、年齢層の人たちで混雑しているかがわかる。最近は一つの携帯端末で買い物をしたり、映画の予約をしたりもしますので、移動のデータだけではなくて、どんな行動をしているかの情報も集められます。

たとえば、いつ、どこに、どんな嗜好の人たちが集まっているかがわかれば、それだけ効果的なキャンペーンや、適切な広告がうてます。企業の狙いはこういったもので、データに性別や年齢層、学生などといった『属性情報』が組み合わさるほど、情報の精度と価値はどんどん高まります」

——そのデータはいわゆる「個人情報」と、何が違うのか?

「性別や年齢層だけでは、個人を識別できません。特定の個人を識別することができる、つまりはヒモづけられなければ、個人情報保護法の対象である『個人情報』とは言えません。個人とヒモづけられる情報、たとえば、氏名や電話番号などが結びつけられれば、それは『個人情報』になります。

しかし、データ分析のためには、個人名や連絡先などは必要ありません。携帯電話のデータを利用するような場合は、個人情報を持っている事業者から情報提供を受ける際に、個人を識別できないようにした形で、データを入手するということになります。そして、この情報を受領した事業者が個人を識別できなければ、そのデータは情報を受領した事業者にとって『個人情報』ではなくなります。

いま、政府が利用促進しようとしている『パーソナルデータ』は、典型的には、そういった『匿名化』が施されたものといえるでしょう」

●プライバシー保護の仕組みについての議論はこれから

——しかし現状では、個人は「パーソナルデータ」をそんな風に使われるとは思っていないのでは?

「たしかに、情報を取得されることや、利用されることを不安に思う人もいるかもしれませんね。それぞれの個人からどのような形で、データ取得の『同意』を得ていくかということについては、日本ではまだ合意ができていません。議論が進んでいるEUでは、パーソナルデータの取得には『オプトイン』といって、明示的な同意を得ていく形が提唱されていますが、まだ世界標準のようなものはありません

そのコンセンサスを作るのが新IT戦略の狙いの一つで、情報のプライバシーの程度や、情報を取得した経緯にも注目して、ふさわしい手続を考える方向性で議論が進められています」

——プライバシー保護の枠組みは? いろいろな情報をヒモづけて再び個人を識別できるようなデータに戻す「再識別化」を防ぐ仕組みはあるのか?

「政府の新IT戦略では、『第三者機関』の設置を検討するとしていますが、その詳細は明らかでありません。

たとえばEUでは、加盟国にデータ保護のための独立した監督機関の設置が義務付けられていますし、米国では連邦取引委員会(FTC)が違反した企業に対して課徴金を課す仕組みができています。実際に数十万ドル(数千万円)に及ぶ『抑止力がある金額』が、課徴金として課せられた事案が現れているそうです。

『再識別化の禁止』についても、どのような状態になれば、再識別化を不可能又は困難にしたといえるかについて、議論は始まったばかりです。今後、諸外国の事例を参考にしながら、議論が本格化していくでしょう」

石川弁護士は「これは企業にとっても、重要な問題です」と指摘する。

「もし、プライバシー問題でトラブルを起こせば、企業の評判は大きく損なわれます。今後は、たとえば情報取得の『同意』についても、形式的に取ればいいというのではなく、分かりやすい表示・プロセスを心がけていく必要が出てきているのではないでしょうか」

ビッグデータ活用と個人情報保護をどう両立させていくのか。日本で議論が本格化するのはこれからといえそうだ。国民も今後の議論を注意深く見守っていく必要があるということだろう。

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【取材協力弁護士】

石川 智也(いしかわ・のりや)弁護士

M&A案件、株式買取請求などM&Aに関する紛争案件、インターネットビジネスに対する法的アドバイスを含め、企業法務全般にわたる各社へのアドバイスに従事。各種セミナーも広く手がける。

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