エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)に「原発ゼロ」を盛り込まない閣議決定に疑問

安倍政権は14日、を閣議決定したが、白書が政策の報告書であるにも関わらず、民主党政権時代に政府によって決められた「原発ゼロ目標」方針が削られていることがわかった…

安倍政権は14日、エネルギーに関する年次報告(2013年版エネルギー白書)を閣議決定したが、白書が政策の報告書であるにも関わらず、民主党政権時代に政府によって決められた「原発ゼロ目標」方針が削られていることがわかった。

エネルギー白書は、1年の間、政府がエネルギーに関して講じた施策に関する“報告書”のことである。東日本大震災が起こった2011年と2012年の報告は、秋にずれ込んでいたが、例年5~6月に資源エネルギー庁がまとめる。

今回報告された2013年度版エネルギー白書は、2012年8月から今年3月末までの状況が記されている。2012年度は民主党政権から自公政権へと移行したこともあり、前政権で行われた施策と、今政権で行われた政策が、どのように報告されるかが注目されていた。

しかし、今回の報告書には、前政権時代に、広く国民から集まった意見の内容や、前政権が政府レベルで決定した内容が書かれていないことがわかり、各社によって大きく報じられている。

報じられなかったのは、大きく2点ある。

1つ目は、原発エネルギーについての国民からの意見の内容である。野田政権は、2012年7月から8月にかけて、全国11カ所で意見聴取会を開いたほか、討論型世論調査やパブリックコメントを実施し、原発について国民の意見を聞いた。パブリックコメントには約8万9千件の意見が寄せられる結果となっている。これらの意では、「2030年の原発割合をゼロにすべき」という意見が多数あったにもかかわらず、2013年度版エネルギー白書には、実施されたことのみが掲載され、結果に関しては「第 13 回エネルギー・環境会議に国家戦略大臣より報告されました。」としか書かれなかった。

2つ目は、この国民の意見を元にして作成したされた「革新的エネルギー・環境戦略」の内容についてである。野田政権は2012年9月14日にエネルギー・環境会議を開き、国民からの意見を元に作られた「2030 年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」という内容の「革新的エネルギー・環境戦略」を決定した。しかし、2013年度版エネルギー白書には、「原発ゼロ」に関しては触れられず、概要のみが書かれた。

原発ゼロの政府方針が記載されなかったことに関して、河北新報は、『作成した経済産業省は「ゼロ目標は戦略の柱ではないためだ」と説明』と報じている。(河北新報『「原発ゼロ目標」は記述せず 12年度版エネルギー白書』より。 2013/06/14)

代わりに、エネルギー白書に厚く書かれているのが、安倍政権に入ってからの、諸大臣の発言や会議での決定内容である。

「2012 年 12 月 26 日に安倍政権が発足し、2013 年 1月 25 日に行われた第 3 回日本経済再生本部(本部長 内閣総理大臣)において、「経済産業大臣は、前政権のエネルギー・環境戦略をゼロベースで見直し、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築すること。」との総理指示があり、同戦略はゼロベースの見直しが行われることとなりました。」

という会議の内容だけでなく、2013年1月31日の参議院本会議においての、安倍首相の“答弁”も、

「前政権が掲げた2030 年代に原発稼働ゼロを可能とするという方針は、具体的な根拠を伴わないものであり、これまで国のエネルギー政策に対して協力してきた原発立地自治体、国際社会や産業界、ひいては国民に対して不安や不信を与えました。このため、前政権のエネルギー・環境戦略についてはゼロベースで見直し、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築してまいります。」

というように、原発依存度を低減するとしながらも、「前政権のエネルギー・環境戦略についてはゼロベースで見直す」と、繰り返し書いている。

なお、2013年度版のエネルギー白書では、2011年版、12年版で冒頭に、原発事故への対応が書かれていたが、2013年度版では、増加するエネルギー需要についてを非常に詳しく書いており、安倍政権と民主党政権との、エネルギーに対する考え方の違いが鮮明に出ている。

安倍首相は自身の原発を含めたエネルギー政策の考え方について、2012年の自民党総裁選最就任の直前に、ジャーナリストの大下英治氏のインタビューに下記のように答えている。

「私は原子力発電の再稼働は必要だと思っています。賛成か反対かという、二極対立の問題ではありません。日本にとって必要なのです。

民主党政権の問題点は、電力需要にとってどう対応するかということについて、正面から向き合わなかったことです。日本の中長期的なエネルギー政策を考える話と、原子力発電所が止まっている状態で電力需要にどう対応していくか、という話は別の問題です。」

(大下英治著「安倍晋三と岸信介」より。)

安倍首相は、2013年2月28日の第183回通常国会における安倍総理施政方針演説において「安全が確認された原発は再稼働します。」と断言。7月の参院選における自民党の公約にも、原発再稼働を盛り込むことになった。

これらの安倍首相の考え方が、2013年版エネルギー白書に、色濃く反映されたということだろう。また、6月4日に閣議決定された「環境・循環型社会・生物多様性白書(いわゆる環境白書)」からも原発のリスクが消えている。愛媛新聞は社説において、

原発に関することは原子力規制委員会の年次報告書で触れればいい、との意見も環境省内にあったと聞く。だが、規制委は安全規制が主眼。環境行政の面から、白書でもきちんと評価するのが筋だ。

(愛媛新聞「環境白書 原発リスクから目をそらすな」より。2013/6/6)

と書いている。

「報告書」といえど、書く内容は、自身に都合のいい内容にできるのは、この白書の「検証(閣議決定)」を行うのが、国民が選んだ国会議員による内閣だからというのは、答えにならないのではないだろうか。

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