2015年09月14日 23時01分 JST | 更新 2015年09月15日 00時58分 JST

髪を失ったがん治療中の女性に、医療用ウィッグを届けたい。若手広報の私が、プロジェクトを通じて得たもの

抗がん剤による脱毛に悩む女性に、寄付された髪の毛で作られた医療用ウィッグを寄贈する「ヘアドネーション」。この取り組みを行うP&Gに話を聞いた。

髪は女の命。そんな言葉があるほど、女性にとって髪の毛は特別なものだ。もしかしたら、あなたも大切な髪を、失う日が来るかもしれない。

がん治療中の女性の悩み、第1位は、抗がん剤による“脱毛”だ。抗がん剤は、成長の早いがん細胞を攻撃する働きがあるが、髪の毛のもとになる「毛母細胞」にも影響が出やすく、抗がん剤の投与後、2〜3週間で髪の毛が抜けはじめるという。

日本のがん患者数は、年々増加の一途を辿っている。国立がん研究センターの調査によると、2014年にがんと診断された人数は約88万人。2015年には、約98万人になるとの予測が出された。治療による脱毛に悩む人も増え続けているのが現状だ。

そんな中、抗がん剤による脱毛に悩む女性に、寄付された髪の毛で作られた医療用ウィッグを寄贈する「ヘアドネーション」という取り組みが広がっていることをご存知だろうか?

2008年に、このヘアドネーションの一環として、がん患者の生活支援を行う特定非営利活動法人キャンサーリボンズ、ヘアケアブランドの「パンテーン(P&G)」、医療用ウィッグを販売しているスヴェンソンの3者が、「キレイの力」プロジェクトを立ち上げた。

今回は、P&G・パンテーンの広報担当、嶋田容子さんに「キレイの力」プロジェクトの理念や、出産後にがんと診断された女性の声などを聞いた。

——「キレイの力」プロジェクトについて詳しく教えてください

脱毛に苦しむ女性のがん患者さんに、医療用ウィッグを寄贈するプロジェクトです。約半年間かけてケアをしながら伸ばした髪の毛を寄付してくださるウィッグサポーターとして、看護学校に通っている学生さんに呼びかけ、ご参加いただいています。このプロジェクトを開始してから8年、これまで320名のがん患者さんへ医療用ウィッグを寄贈してきました。

医療用ウィッグは、より自然に見えるように一人一人に合うように作られています。近年、企業努力により低価格のものも増えていますが、がん患者さんは、治療費がかかる中、医療用ウィッグに手を伸ばすことをためらわれる方が多くいらっしゃいます。そうした方に、少しでも笑顔になれるお手伝いができればという思いで始めたプロジェクトです。

プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社 広報渉外本部 嶋田容子さん

——なぜ、ウィッグサポーターは看護学生さんなのですか?

医療用ウィッグを手がけるスヴェンソンさんによると、質のいいウィッグを作るためには、カラーやパーマをかけていない、健康な髪の毛でなければいけないのだそうです。さらに、一定の長さが必要になってきます。

ウィッグサポーターの参加資格として、年齢は18歳〜29歳まで、半年間カラーやパーマをせずに、ケアしながら伸ばし続けるといった、条件を設けています。おしゃれを楽しみたい世代の女性にとっては、よほどの強い意志と根気がなければ続けられない厳しい条件です。

そのため「キレイの力」プロジェクトでは、もともと「患者さんの力になりたい」という思いがあって、がんに苦しむ患者さんの気持ちに寄り添いたいと願う看護学生さんに参加を呼びかけています。看護師を志している学生さんであれば、このプロジェクトを通じて経験したことを、将来、看護の仕事をする上で、良き財産にしていただけるのではといった思いもあります。

——ヘアケア製品のメーカーとしてどのように関わっているのでしょうか?

P&Gは、世界の人々の生活をより良くすることを理念にしている企業なのですが、がん患者さんの生活を支援したいというキャンサーリボンズさんと、そのお手伝いをしてくださる医療用ウィッグのスヴェンソンさん、この3者のお互いの理念が合致したことにより成り立っているプロジェクトです。

パンテーンでは、実際に髪を寄付する看護学生さんに、パンテーンのヘアケア製品を提供しています。P&Gには、いくつかのヘアケア製品ブランドがあるのですが、その中でも「パンテーン」は、女性の中には誰にでも「キレイになりたい」という思いがあると信じているブランドです。

シンデレラのようにひと晩で美しくなれるのではなく、日々コツコツとケアすることで、必ずキレイを引き出せる。そうしたメッセージを持っているブランドだからこそ、髪を通じて女性が輝くお手伝いをしたいという思いで取り組んできました。

——プロジェクトの運営で、嶋田さんが大切にしていることはありますか?

私も看護学生さんの前で、プロジェクトについてお話する機会があるのですが、一番伝えたいことは、なぜパンテーンがこのような取り組みを行っているか、という部分です。学生さんに対して、「美しい髪で、がん患者さんをサポートしたい」というプロジェクトの理念をご理解いただく必要があります。

普段、広報の業務としては、製品のよさやテクノロジーのことをお伝えしていることがほとんどですが、このプロジェクトに関しては、まったく違うんですよね。メーカーが単に名前を売るためにやっているというものではないと。その部分がきちんと伝わらなければ、せっかくいいプロジェクトなのに、参加する学生さんの気持ちも変わってしまうんじゃないかと思うからです。

広報という立場でメッセージを打ち出すことの難しさを感じることもあります。これまで歴代のパンテーン広報担当が、大事に大事に温め続けたプロジェクトなので、企業としても長く続けていきたいと思っています。

——プロジェクトに参加された方から、どんな声が聞かれるのでしょうか?

抗がん剤による脱毛は、本当にセンシティブな問題です。このプロジェクトに参加される看護学生さん、ウィッグを受け取られる患者さんそれぞれに、エピソードが詰まっているんです。参加者の方からお手紙をいただくのですが、それを読むと込み上げてくるものがあります。

患者さんは、がんと診断されたとき、髪が抜けると言われたとき、髪が抜けてしまったとき、その一瞬一瞬に、我々には計り知れないような思いがあるのだと思います。患者さんご自身が脱毛したことで、辛い気持ちになられるのはもちろんですが、それ以上に、ご家族や周りの人たちに対して「申し訳ない」という気持ちを抱く方がいらっしゃることにショックを受けました。

ウィッグを受け取ったがん患者さんからの手紙

この手紙を書いてくださった患者さんは、娘さんが悲しい顔をしちゃうんじゃないか、学校でなにか言われちゃうんじゃないかって。自分の髪よりも周りの人に対してすごく気を使うとおっしゃっていました。また、脱毛を一度経験して、髪でこんなに気持ちが変わることを知ったという患者さんも多くいらっしゃいます。

私たちのプロジェクトが、少しでもこうした患者さんの役に立っていると思うと、やりがいに感じますし、誇りに思えるんです。患者さんや看護学生さんからいただいた手紙は、社内で共有しているのですが、スタッフみんなのモチベーションにもなっています。

——プロジェクトを通じて、嶋田さんご自身に心境の変化はありましたか?

パンテーンを担当するようになって、今年で3年目なんですが、このブランドを好きになったきっかけになったのがこのプロジェクトなんです。

女性の美に関する意識って、髪だけではなく、メイクやスキンケア、ダイエットなど幅広くいろんなところに向いていますよね。そんな中でも、パンテーンは、健康で美しい髪がいかに女性のキレイにとって大切かということを、信じてきたブランドです。

このプロジェクトを通じて、女性の美しさにおける髪の重要性を本当に理解できたような気がします。なんか、こう、ブランドの理念がストンと自分の中に入ってきました。ブランドごとにそれぞれ理念がありますが、髪をキレイにすることで女性をサポートしていきたいと、改めて自分でも実感できるきっかけになったと思います。

普段は、家族や友人にあんまり仕事の話はしないんですけど……。脱毛に悩むがん患者さんたちのこと、ご協力してくださる看護学生さんたちがいることを知ってもらいたいという気持ちがあって。このプロジェクトに関しては、思い入れが強くて、ついつい熱くなって話をしてしまうんです。

―――

病と闘うときこそ、「キレイでいたい」と願う女性がほとんどだろう。脱毛に悩む女性の気持ちに寄り添って、続けられている「キレイの力」プロジェクト。美への自信を取り戻したとき、前を向いて歩くことができる。そんな女性の不思議な力を引き出す医療用ウィッグの存在が、心の支えになるのかもしれない。