久保利明九段、異例の遅刻で不戦敗 相手の豊島将之七段に「良い人すぎる」の声【将棋】

「午後2時からの対局を午後7時だと思っていました」
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将棋の久保利明九段(41)が10月30日、公式戦「第2期叡王戦」本戦の対局に遅刻し、不戦敗となった。久保九段はこの日、豊島将之七段(26)と東京・渋谷区の将棋会館で午後2時から対戦する予定だったが、久保九段は午後7時開始だと勘違いしていた。

■午後2時 対局開始、生中継画面には…

叡王戦はドワンゴが主催で、本戦の全対局がインターネット生放送「ニコニコ生放送」で中継される。この日の対局も、その一部始終が放送された

午後2時、対局開始時刻を迎えるも、久保九段は姿を見せなかった。対戦相手の豊島七段は一人で盤上に駒を並べ、久保九段の到着を待ち続けた。中継映像には、豊島七段だけが将棋盤に向かう様子が映り続けた。

将棋盤を前に久保九段を待つ豊島七段

久保九段の分の駒も並べる豊島七段

ニコニコ生放送では、久保九段が来るか来ないか視聴者に問うアンケートも

持ち時間1時間が経過した午後3時、久保九段の不戦敗が成立した。日本将棋連盟によると、叡王戦は他の公式戦などと異なり、持ち時間は1時間と短い。そのため、「3倍引き規定」(遅刻時間の3倍を持ち時間から引かれるルール)などの決まりはない。久保九段は遅刻により持ち時間の1時間を使い切ったため、規定に基づき不戦敗が成立した。

生中継では「不戦敗の成立」という極めて珍しい場面が映し出されることになった。

久保九段の不戦敗が成立、豊島七段の勝利となった

対局終了後、解説スタジオには豊島七段が登場し、「対局を楽しみにされていた方が沢山いらっしゃったと思うので、申し訳ないというか…」と、生中継を見守る人々を気遣った。視聴者からは「良い人すぎる」といったコメントが寄せられた。

視聴者を気遣う豊島七段

■午後6時30分 久保九段が生放送で謝罪

久保九段は不戦敗決定後、午後6時30分から放送された別対局の中継冒頭に出演。対局に遅刻したことを謝罪した。

謝罪する久保九段

まずはじめに、今回2時からの対局を不戦敗にしてしまいまして、申し訳ありませんでした。主催でありますドワンゴさまに対しては申し訳なく思っております。申し訳ありませんでした。

並びに対局を楽しみにしてくださっていました将棋ファンの皆さまにもお詫び申し上げます。対戦相手の豊島七段にも申し訳ないことをしたと思います。申し訳ありませんでした。

謝罪の言葉を述べた後、久保九段は遅刻した経緯を説明。「午後2時からの対局を午後7時だと思っていました」と明かした。

自宅が大阪なのですが、お昼ぐらいに出て、少しゆっくりして対局に臨もうと思っていた。最後に対局通知を確認すると、14時からとなっていた。それで慌てて…。空港にも行ったんですが、最善を尽くしましたがどうしても間に合わないという状況でした

視聴者からは「事故に遭ったのではないか」と心配する声もあったが、久保九段の説明を受けて「体が無事でよかった」「応援しています」といったコメントが寄せられた。

久保九段は「棋士の命と言いますか、対局を不戦敗にしてしまうというあるまじき行為をしてしまいました」とした上で、「取り戻すのは大変だと思いますが、信頼を取り戻せるように対局をやっていきたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」と改めて謝罪した。

■日本将棋連盟「棋士の遅刻、ごく稀にある」

久保九段は1975年生まれの41歳。1993年、四段に昇格しプロデビューを果たした。2003年に第53回NHK杯優勝、2009年に棋王タイトルを獲得。2010年には当時の羽生善治王将を破り、王将位を奪取。通算で棋王3期、王将2期を経験し、国内トップ棋士の一人として活躍している。

そんなトップ棋士が、今回のような遅刻による不戦敗となるようなことは頻繁にあるのだろうか。ハフポスト日本版では日本将棋連盟の広報担当者に詳しい話を聞いた。

――病気療養などによる不戦敗は例があるかと思いますが、今回のように遅刻で不戦敗することは頻繁にあるのでしょうか。

トップ棋士の遅刻による不戦敗は異例のことですね。ただ、将棋の年間対局は数千局にものぼるので、こういうことはごく稀に起こりうるものです。

――久保九段は「午後7時からと勘違いしていた」と述べていましたが、午後7時は対局開始としてはかなり遅い時間ですよね。なぜ午後7時と勘違いしたのでしょうか。

そうですね。午後7時からの対局開始は珍しいと思います。ただ叡王戦では、対局開始時間は午前中、午後2時、午後7時の3パターンがあるので、そのために対局時間の勘違いがあったのではないかと思います。

なぜ午後7時からの対局があるのか、詳しい経緯は何とも言えませんが、ニコニコ生放送で生中継をされるので、一般の方の見やすい時間帯として設定されたのではないかと…。

――今回は公式戦でしたが、名人戦などの7大タイトル戦では遅刻による不戦敗はあるのでしょうか。

タイトル戦ではまずないですね。というのも、タイトル戦の場合、対局する棋士は前日から対局場所に近い場所に宿泊されますので。ただ、叡王戦はタイトル戦ではないので、前日から泊まるということはありません。

――久保九段には、遅刻によるペナルティなどは課されるのでしょうか。

今後、将棋連盟の常務会のほうで話し合うことになると思います。

【UPDATE】10/31 14:53

叡王戦の持ち時間規定について追記しました。

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