「聞こえなくても働ける」スタッフ全員、耳が不自由なカフェ

「全員耳が不自由な人のカフェを作って、彼らだって働けるということを証明したかった」

メニューの表紙に書かれている言葉「笑顔を超える共通語はない」(THE HUFFINGTON POST)

そのカフェで、わたしたちは笑顔の店員に迎えられた。店員はメニューを手にして、席を指差した。彼女にスペイン語で「6人です」と話しかけた時、何かが少し違うと感じた。その女性はわたしたちを眺めると、話しかけるのではなく、指を6本立てて人数を確認したのだ。

その店員は耳が不自由だった。いや彼女だけではない。そのカフェで働く人全員が、耳が不自由な人だった。

わたしたちが、ニカラグアの都市グラナダにある「Café de las Sonrisas(スマイル・カフェ)」を訪ねたのは3月。このカフェでは、フロアスタッフからシェフまで、全員耳の不自由な人を雇う。

「障害を持っている人たちを雇うことに不安を抱いている人たちがいます。彼らに私たちのビジネスモデルを見てもらい、不安を取り除いて欲しいと思ってこのカフェを作りました」と、カフェを立ち上げたアントニオ・プルエト・ブニュエル氏は語った。ブニュエル氏はスペイン出身。アントニオおじさんと呼ばれている。

「それと同時に、ここで働く人たち(障害を持っている人たち)に、障害のない人と同じように働くことに対する恐怖心をなくして欲しい、と思っています。恐怖心を取り除けば、もっと自由に生きることができます」とブニュエル氏は言う。

食事を終える頃には、手話で「ありがとう」が伝えられるようになる。(THE HUFFINGTON POST)

最新の調査(2003年に実施)によれば、ニカラグアでは10人に1人が障害をもっている。一方、地元ニュース「El Nuevo Diario」は2013年、「障害のある人の99%が失業している」と伝えている(調査について、ハフィントンポストUS版がニカラグア政府に問い合わせているが、現段階で返事はない)。

「ニカラグアの法律では、50人の従業員に対して2人障害を持つ人を雇用するよう企業に求めているがほとんど守られていない」とEl Nuevo Diarioは伝えている。

ブニュエル氏は、こういった現状に対する強い不満からカフェを作ったという。「障害を持った人の99%が仕事がないんです。だから私は、全員耳が不自由な人のカフェを作って、彼らだって働けるということを証明したかった」

(THE HUFFINGTON POST)

カフェで注文するときは、メニューを指差す。食べたくないものを省いてオーダーできる仕組みもある。

例えば、フルーツパフェをヨーグルト抜きでオーダーしたい場合、まずフルーツパフェのイラストを指差し、次に赤い“X” 印のついたヨーグルトのイラストを指差せばいい。

お客と店員がうまくコミュニケーションできるよう、また食事をしながらお客が手話を学べるように、壁にはニカラグアの手話のイラストが貼ってある。お客は「ありがとう」や「ようこそ」といった言葉や表現を学べる。

カフェの壁は、ニカラグアの手話のイラストが貼ってある。イラストには「ありがとう」や「ようこそ」などそれぞれの意味がスペイン語と英語で書いてある。(THE HUFFINGTON POST)

カフェはオープンして5年。NPO「セントロ・ソーシャル・ティオ・アントニオ」のプロジェクトのひとつだ。同NPOは、ハンモック専門店も経営している。スタッフは35人で、目や耳の不自由な人や知的障害のある人と、障害を持たない人が一緒に働いている。

ブニュエル氏がハンモック専門店を始めたのは10年前。当時障害を持つ人たちが通う、特別教育の学校で働いていたブニュエル氏は、生徒たちが卒業後、なかなか仕事をみつけられないことに気付いた。

「仕事を探しに行った子供たちのうち一人が、馬鹿にされたと言って泣きながら帰ってきたんです。障害のある生徒のための教育を支援している団体はたくさんあります。それは素晴らしいことなのですが、生徒たちが18歳になったときに、直面する問題がある。わたしたちはそれを解決したいと思いました」

ブニュエル氏は今後、障害を持つ人たちが働くことができるベーカリーやクリーニング店などのビジネスをもっと立ち上げたいと考えている。

「セントロ・ソーシャル・ティオ・アントニオ」で、ハンモックを編むスタッフ。(CAFÉ DE LAS SONRISAS)

「セントロ・ソーシャル・ティオ・アントニオ」は、収入の80%をカフェとハンモック専門店から、残りは寄付から得ている。

ただ、収入が足りない月もある。

「ニカラグアの観光業は、年間を通して安定していません。年間のある時期は収入が少なく、停電になることもあります」

世界を見ると、トロントやバンクーバー、ムンバイやマレーシアにも、耳が不自由な人を雇うレストランはある。また、Café de las Sonrisasの取り組みを知って、インドネシアやアルゼンチン、メキシコでも同じようなプロジェクトを立ち上がろうとしている、とブニュエル氏は語る。

「私たちが小さな窓を開けたことで、この問題に光があたるようになりました。これはスタートです」

カフェを立ち上げたアントニオ・プルエト・ブニュエル氏(左)。(CAFE DE LAS SONRISAS)

ハフィントンポストUS版に掲載された記事を翻訳しました。

【関連記事】

注目記事