「悪い冗談かフェイクニュースじゃないか」。確定申告が始まった2月16日のわずか8日前、民間シンクタンク日本医療政策機構が発表したセルフメディケーション税制の認知度調査の結果に、OTC医薬品(大衆薬)業界関係者は目を疑った。
セルフメディケーション税制は2017年1月に始まった医療費控除の特例。対象となる大衆薬の年間購入額が1万2000円を超えた世帯が確定申告をすれば、所得税などが控除される仕組みだ。市場規模が伸び悩む大衆薬業界は、起爆剤になると期待をかけている。
ところが、機構は世論調査の結果、この税制を「9割が知らない」と指摘したのだ。
大衆薬メーカーが集う日本一般用医薬品連合会は1月に「認知率57.1%」と発表したばかり。二つの調査の結果が大きく乖離し、「業界団体による調査がお手盛りだったのではないか」と突っ込む者もいる。
種明かしは上図の通りで、「聞いたことはある(言葉は知っている)」という回答を機構は非認知と、連合会は認知と評価していた。
では、どちらの分析が妥当なのか。どの程度まで理解すれば認知といえるのか、判断は難しいところだ。ただ、この税制は業界大手メーカー幹部ですら「全部説明しろと言われても正直無理」とお手上げするほど複雑怪奇なのである。
例えば、対象の大衆薬は医師が処方する医療用医薬品から転用した成分を含むものに限られ、1月22日時点で1676品目。提出不要とはいえ、多額の領収書を保管しておかなければいけない。
健康診断の結果通知表など「健康の保持増進及び疾病の予防への取り組み」の証明も必要。こうした準備だけでも十分煩わしいのに、その上でサラリーマンにはなじみが薄い確定申告をする必要がある。
「聞いたことがある」程度の知識ではまずもって税制利用による恩恵にあずかれない。となると「9割が知らない」とした機構の方が一般人の感覚に近い「認知度」なのかもしれない。
リミットは実質2年
認知度が低い原因の一つは、メーカー側の足並みがそろわない点にある。対象が一部大衆薬に限定されたので、各社でメリットの濃淡がある。「加盟社の共通課題」という御旗を立てられぬ以上、業界団体として大々的なアピールに予算が取れない。対象商品を持つメーカー首脳は「われわれが希望して対象が限定的になったわけではないのに」と愚痴をこぼす。
税制は5年間の時限立法。4年目ごろから業界側は国へ本格的に延長を要望する予定のため、3年目までに目に見える成果を残さなければいけない。つまりリミットまで正味2年しかない。
17年分の確定申告は3月15日まで。"正しい認知度"通りにいけば、1年目は散々な申告結果に終わりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)
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