2018年03月29日 14時03分 JST | 更新 2018年03月29日 14時54分 JST

2020年の東京は、俺たちが支える。「世界一の安全・安心」のミッションに奔走する男たちのストーリー。

その規模、1000万人。見えないところでさりげなく、いかに守れるか。

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まだまだ揺れる東京2020オリンピック・パラリンピック。開幕まで、残りわずか2年。予算は限られている。無数のステークホルダーがいる。そんななかで、大会の成功を目指し、今まさに奮闘している人たちがいる。

期間中の来場者数は延べ約1000万人、大会関係者は約30万人、警備関係者は約5万人になると推計されている。

テロやトラブルを防ぎ、安全かつスムーズに大会を運営し、世界一の「おもてなし」を実現するーー。そんなミッションを背負った男たちの思いに迫った。

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「俺からは言えない話がある」まさかの出向

登尾健(のぼりお・たけし)さん、32歳。2015年の初頭、東京・三田のNEC本社にいた。いきなりの呼び出しだった。

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新卒でNECに入社。営業社員として東京で4年間勤めた後、仙台に赴任し、3年目のことだった。当時、東北6県の高速道路の大規模システムの営業を担っていた。東日本大震災のため、遅れていた道路の開通を支援したこともあった。無事完成した新しい道路を自ら走った時は、「少しは東北に恩返しができたかな」と感慨にひたった。

そろそろ東京に戻るかもしれない。そんな予感はあった。

本社の会議室に通された。「俺からは言えない話がある。役員から直接話があるから」と部門長に言われた。役員が命じたのは、まさかの出向だった。

出向先は「公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」。

一生に一度。小さくガッツポーズ

NECがゴールドパートナーになったのは報道や社内報で知っていたが、契約カテゴリーである「パブリックセーフティ」という分野は担当したことがなかった。「正直、辞令が出た瞬間まで他人事だったんです」

NECのパブリックセーフティ先進技術は、オリンピック、パラリンピックのような大規模イベントの警備でその威力を発揮する。

日本での夏のオリンピック・パラリンピックは1964年以来。「一生に一度できるかどうかという仕事かもしれない」。そう思うと、緊張感が押し寄せると同時に胸が躍った。会議室を出て、小さくガッツポーズをした。

失敗は許されないミッション

2015年4月に出向。現在の肩書きは「警備局警備部 装備調達第一課 ディレクター」。

競技場や選手村などの施設の警備対策を担当することになった。

関係部門と連携しながら、必要な資機材を必要な数、必要なタイミングで適切な価格で調達する。そして万全の警備体制をととのえる。絶対に失敗は許されないミッションだ。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催計画を記した「立候補ファイル」によると、1万4千人もの民間警備員が動員される。かつてない警備規模のイベントになる。来場者の手荷物を検査する検査機など大きなものから、警備員が身につける備品、各種システムまで、警備に必要なあらゆる資機材を調達する。

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着任当初、組織委員会の食事会でスピーチをした。「オリンピック・パラリンピックは全世界で観戦している人も含めると、数十億の夢が生まれる場所です」。これまでやったことのない大規模の仕事に臨むダイナミズムを感じている。

認識を共有。想像と準備

組織委員会は民間の企業だけでなく、国や東京都などから多くの公務員が集まる。それぞれ仕事の進め方や考え方、言葉の使い方が違うため、コミュニケーションが非常に難しく、細心の注意が必要だ。

例えば仕事の納期が1週間と聞いた時に「1週間もある」と取るか、「1週間しかない」と取るか、その認識はその人のバックグラウンドに影響される。

「情報でなく、認識を共有できるように動きなさい」。直属の上司の言葉だ。「バックグラウンドが違う方々と一緒に働いているからこそ、彼らの考え方や、仕事の仕方をしっかり吸収して、NECに持って帰りたい」。そうも心がけている。

「想像と準備」。組織委員会でセキュリティの最高責任者(CSO)を務める米村敏朗さんがよく使う言葉だ。あらゆる事態を徹底的に想像して、それに対して何があってもドタバタしないよう、一つひとつ準備していく。そこに警備の本質があるのだと思う。

マシンガンによる警備に衝撃。酷暑・サイバー攻撃にも備えを

リオ2016オリンピック・パラリンピックを視察した際、競技場にマシンガンを持った人が大勢立っていたことが気になった。「確かにあの状況では、よほどの覚悟がないと悪いことはできないと思うんです。ただ、スポーツの祭典との調和を考えると、東京ではもう少しソフトな雰囲気にしていきたいですね」

リオの8月は冬だった。しかし東京の8月は酷暑が予想される。「持ち物検査などで、炎天下のなか観客の皆様や関係者を長時間並ばせることは避けたい。厳重さとスムーズさの両立が課題になると感じました」

ロンドン2012オリンピック・パラリンピックでは、2億回を超えるサイバー攻撃があったとされる。ローンウルフ型と言われる、特定の組織に属さない一匹狼型のテロも要警戒だ。

いずれも20年前にはなかったことだろう。常に変化する脅威やリスクに対応する必要を感じている。

レガシーをつくる。世界と未来を変える

オールジャパン体制の最先端の警備が将来の先例となり、大会終了後、レガシーになるといいと思う。大会のパートナー企業同士が大会後に連携するのも、ひとつのレガシーだろう。

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「スポーツには世界と未来を変える力がある」という東京2020オリンピック・パラリンピックの大会ビジョンに共感している。

「オリンピック・パラリンピックって、理屈でない素晴らしさがあるんですよね。すべての方がそれを実感できて、その人にとって何かポジティブな変化が生まれる、東京はそんな大会になるはずです。その根っこには私たちの作る安心・安全がある、そう信じて仕事をしています」

この夏、家族が増える予定だ。妻と子と一緒に2020年を迎えられるのを、何より楽しみにしている。

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警備システム構築、すごいプレッシャー

長嶺七海(ながみね・ななうみ)さん、46歳。NEC第二官公ソリューション事業部シニアマネージャーとして、警備システムの構築を手がける。

今回、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会で採用された場合には、警備システムの構築を担当することになる。

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2015年から現職。事業部の中に新たなグループを一から立ち上げるということになり、その部門長に就任。社内でも注目を集めるポジションだ。「もう、すごいプレッシャーですよ」

「まず、どういう人間が何人必要か、というところから考えたんです。いまは社員15人のチームですが、採用が決まれば約100人の大所帯を率いることになります」

歴史に残るプロジェクトに

2人の娘は、早くも2020年を心待ちにしているようだ。自宅では、妻と娘たちが、小学生による投票で決定した東京2020オリンピック・パラリンピックのマスコットの話を楽しそうにしている。

今回、無事東京2020オリンピック・パラリンピックの警備関係のシステムを構築し、来場者や観光客の安全を守るというミッションを遂行できたら、歴史に残るプロジェクトになるだろう。

システムエンジニアとして、入社から5年間は海外のスーパーコンピュータに、その後10年間は国内のスーパーコンピュータに従事した。2002年、当時の世界最速の5倍の圧倒的な速さを実現した、歴史に残るスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の構築に携わった。

「これまでの仕事人生で最高のプロジェクトで、誇りを持っています」

警備員にも気づかれない、警備システム

「セーフティ」というのは、人々に意識させてはいけないものである。「安全を享受する人が、守られていることに気づかないのが最高の安全、サービスだと思っています」

東京2020オリンピック・パラリンピックに限らず、警備の主役は人=警備員で、システムはその裏方の存在だという。

「まず、警備員の方々はアスリートや関係者、来場者の皆様に気づかれないように安全を提供するのが理想です。そしてシステムは、安全を提供する警備員の方々にすらも、その存在を気づかれないのが望ましい」

具体的にはNECが得意とする映像解析の技術や、生体認証の技術を使って、警備員の負荷を下げつつ、警備品質を上げていけるようなシステムを目指す。

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警備対象者は膨大だ。アスリートの数が1万人。関係者の数が30万とも言われ、観客はさらにその数十倍に膨れ上がる。40~50もの会場で同時に競技やイベントが行われ、それを安全に遂行しなければいけない。

つまり、本番と同規模のテストは絶対にできない。ぶっつけ本番になる。どのような準備をすればシステムがうまく動作し、人々の安全を守れるか。シミュレーション・計画立てが、最も苦労しているところだ。

9.11直後の警備に思うこと

2001年9月11日の同時多発テロの直後、アメリカに行った。

「空港に入ってから飛行機に乗るまでの間に、保安検査で靴を3回も脱ぐなど、飛行機に乗るのがとても大変で、ストレスを感じた利用者が文句を言っていたのが印象的でした」

利用者の安全を守るためには仕方がない。当時はそう思っていた。

いまアメリカに行っても、当時ほどのストレスは感じない。しかし、警備品質が下がっているというわけではない。他の方法で安全を担保し、利用者にストレスを感じさせないようにやっているはずだ。

「そのようなことを我々がやらないといけない。安全のために、アスリートや観客に負担をかけてはいけないんです」

やはり日本が提供する安全は、マシンガンに守られた安全ではない。それをシステムでさりげなく守る。それがNECのパブリックセーフティだと信じている。

一方で生体認証関係では、プライバシー保護の観点がどうしても切り離せない。世界的にルールが整備されつつあるので、きっちり準拠していきたい。

「サイバー犯罪」と「フィジカル犯罪」の融合に対処

東京という大都市の安全を守るにあたり、課題は山積だ。

犯罪の世界では「サイバー」と「フィジカル」の融合が進んでいる。例えば、サイバーでインフラを止めて人々の生活に甚大な実害を及ぼしたり、自動運転の車を操って物理的に事故を起こさせたり。物理的な被害に繋がるサイバー犯罪のリスクが今後増えていくと予想されており、それを止めるような技術が求められている。

また、残念ながら事件が起こってから、インターネット上で「こんな犯罪予告をしていた」とわかることがある。サイバー上で予告していたけど、誰も気が付かなかったから実際に犯罪が起きてしまった。そのため、サイバーパトロールを効率的に行う仕組みも必要になっている。

今後さらにIoTが浸透していく。一方で、そこがセキュリティリスクにもなっている。

「例えば一つのカメラが乗っ取られるだけで、社会インフラ全体のリスクになる場合もあります。一台一台を守る技術を磨きながら、何かあった際は、切り離していく技術も重要になっていきます」

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歴史に残るプロジェクトに携わることができて、嬉しい。「大会の安全・安心は、私たちが支えていく」。そんな気概でミッションに臨んでいる。

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NECは過去にも、オリンピック・パラリンピックを通じて不可能を可能にしたことがある。東京オリンピック・パラリンピック推進本部長を務める水口喜博さんはこう語る。

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1964年に、オリンピック・パラリンピック史上初の衛星中継放送が成功しました。前年にはケネディ暗殺がアメリカから日本に衛星中継され、NECは衛星中継用の送信アンテナと送信機を提供したことで、日本からアメリカに衛星中継を行うことができました。

NEC提供
東京1964年オリンピック・パラリンピックで電波を送ったパラボラアンテナ

綱渡りの開発で衛星中継成功、世界の標準規格に

実は、トラブルのため通信衛星が打ち上がらず、一度打ち上げをやめようという話になりました。しかしNECの技術者魂で、アンテナと送信機の開発を続けていたのです。通信衛星が打ち上げられたのは53日前。昼夜問わずの努力で、綱渡りの開発を乗り切ったのです。

技術で貢献しようと、送信アンテナと送信機は実は無償提供だったのです。その後、NECのアンテナが世界の標準規格になりました。まさにオリンピック・パラリンピックを契機にしたレガシーと言えます。

厳格さと利便性を両立、世界一の認証技術を警備、レガシーに

指紋、顔、静脈、虹彩、DNA......。NECは1971年から様々な方式の生体認証の研究開発を続けてきました。

特に顔認証技術の研究では、米国政府機関主催のテストで、他社を大きく引き離す第1位の評価を4回連続獲得しました。写真だけでなく、対象者が動いた状態で認証する動画顔認証技術も第1位を獲得しています。

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NECの顔認証システム。事前に顔を登録し

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IDカードをタッチ。

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瞬時に顔を照合し

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Goのサインが出る。通常の歩く速さで通過できる。

NECの顔認証技術は速度が速い、精度が良いというのはもちろんですが、「歩きながらの顔認証」を行うことができるため、厳格さと利便性という一見相反することを両立させています。

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NECの映像解析技術により、視線を検知して不審な人物を見抜くことができたり、性別や大体の年齢、表情を判別したりすることもできる。

2020年のその先を見据えて、NECは東京2020オリンピック・パラリンピックで警備面を中心とした貢献を目指し、パブリックセーフティ技術を磨いていきます。

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どの時代にも、オリンピック・パラリンピックを支える技術があり、技術を支える人がいるのだ。アスリートだけでなく、担当者や技術者たちの闘いにも、引き続き注目していきたい。

※NECは、東京2020ゴールド(パブリックセーフティ先進製品)パートナーです

(PHOTO BY TOMOYUKI SUZUKI)