カルビー松本会長に聞く、RIZAPを次の会社に選んだ理由

カルビーでの功績、点数をつけるとすれば…。

Photo by Takahisa Suzuki

プロ経営者として有名なカルビーの松本晃会長兼最高経営責任者(CEO)が、今年6月からRIZAPグループの最高執行責任者(COO)に就任することになった。RIZAPは芸能人を起用したダイエットジムのCMで知られ、"自己投資"という軸でアパレルや雑貨店、補正下着、フリーペーパーなど"さまざまな業種を買収してきた。松本会長はなぜこの会社を選んだのか、何をしたいのか。真意を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)

決め手はなんといっても瀬戸健という社長の魅力

──カルビー会長を辞めてRIZAPグループの最高執行責任者(COO)になるとは、思い切った決断でしたね。

松本 3月27日に「カルビーを辞めます」と記者会見をやりましたが、3年ぐらい前からやめようと決めていました。カルビーはいい会社で市場のガリバーなのに成長していない。そんな時に僕は野球でいえば、5回裏に救援ピッチャーとして投げたようなものです。6回も投げて7回に入ったからぼちぼち交代かなと。昨年やめようと思ったけど、慰留されて続けましたが、さすがに10年やるのは長すぎる。それに、あともう一回ぐらい、どこかで経営をやってみたいとも思っていました。

──記者会見後、いろいろな会社からうちにきてほしいとオファーがあったと思いますが、なぜRIZAPグループを選んだのですか。

松本 面白そうだからです。なんといっても瀬戸健という社長の魅力ですね。いつもにこにこしていて、チャーミング。40歳にして売上高1300億円、よく頑張っているなと思います。それに悪口を聞かないよね。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 米国や中国に行くと、あれぐらいの年齢の社長がわんさかいる。日本にいないわけではないけど少ない。瀬戸さんのような人が日本にもたくさん出てきてほしい。そうしたら日本ももっと変わりますよ。そのために自分に貢献できることをしたいと思いました。

日本は出る杭が打たれる風土 若い社長を守りたい

──具体的にはどんなことをしたいと考えているのですか。

松本 今、企業が何か不祥事を起こすと、メディアや世間に徹底的にたたかれる。一般社員が悪いことをした、あるいは過労死したということでも、「社長が悪い」となってこてんぱてんにやられる。21世紀はそういう時代です。

 RIZAPはいろいろな会社を買収してきて、80社ぐらいある。社長が全部、見きれませんよ。その中で何か不祥事や悪いことが起こったら、グループ全体が叩かれる可能性があるわけです。まして、日本は出る杭は打たれる風土があります。僕だって全部見きれるわけではないけど、経験と知識は持っています。RIZAPグループのように、多角経営をしていると勇み足をするリスクがあるため、それを防ぐようなマネジメントをすることから始めて、新しい事業がうまくいくようにヘルプするような役割を担いたいですね。

──コンプライアンスの担当というわけですか。

松本 コンプライアンスなんて使っているようではだめです。相手にわかりやすく伝えるのがマネジメントの仕事なんです。僕が言っているのはこう。「ワンダラー(1ドル)、アウト」だよ。会社のお金をたとえ100円でも私用に使ったらクビだよ。イエローカードはない。

 まず不祥事のきっかけになるのはおカネなんです。カルビーにそういう悪い習慣があったとは思っていませんが、何が起こるかわからないのでしつこく言い続けていました。

──RIZAPグループはアパレルや補正下着、タウン誌などいろいろな企業を買収して成長を図っていますが、そういうビジネスモデルについてはどうみているのですか。

松本 減量ジムのRIZAPはユニークだと思いますが、企業を買収して再生していくビジネス自体は昔からあるものです。個々の企業の中身など、詳細はまだよく知らないんだけど、瀬戸さんは上手に人材を集めているよね。いい経営者が経営すれば立て直せる会社というのも結構あるからね。

 M&Aについては、おそらく買いにいっているというより、持ち込まれているんじゃないかな。日本の経営者のマインドも変わり、「このままでは3年後にだめになりそうだから、今のうちに売ってしまおう」と考える経営者も出ており、金融機関がM&Aの仲介をビジネスにするようになってきました。

7月からは減量ジムのRIZAPにも通います

──瀬戸さんは40歳と若いのですが、その彼の下でCOOになることについてはどう感じているのですか。

松本 彼は息子と同い年なんですが、抵抗なんかないですよ。COOは立場上はレポート to CEOですが、おそらく瀬戸さんも序列的な意識はないでしょうね。私は自分の経験や知識でアドバイスできることはたくさんあると思っていますし、それが私がこの会社に貢献できることだと思っています。

──松本さんはRIZAPではいつまで働こうと考えているのですか。

松本 RIZAPの仕事がどれほど面白いか、自分が貢献できるか次第です。6年とか8年とかスパンを設けてはいません。いつ何が起こるかわかりませんから。仕事では辛いことがいろいろあり、黒星ゼロということはないけど、差し引きして11勝4敗ぐらいで勝ち越せれば理想です。黒星ばかりなら辞めます(笑)。

──今回の話が来る前に、すでにRIZAPゴルフの会員になっていたそうですね。

松本 瀬戸さんに会いたいと言われ、初めて会ったのが今年の1月。2月に会った時には、営業がうまくて、その3日後だったか、RIZAPゴルフの銀座の店にいって契約書にサインしました。翌日、支払いましたが、高かった(笑)。

 ただ、教え方はうまいね。頭で理解してからでないと体が動かない自分のようなタイプには、それに合わせた教え方をしてくれます。僕はうちではゴルフの練習をしないのだけど、レッスンの終わりの頃にはいいボールが打てたりします。

 7月からは減量ジムのRIZAPにも通います。

──全然太っていないのに?

松本 体重は大学生のころから変わっていません。でも、ウェストは少し太くなったし、筋力が落ちた。RIZAPで筋力を鍛えるとゴルフもうまくなるだろうし、ウェストも4センチ絞ると見かけもよくなるんじゃないかな。そんな期待をしています(笑)。

カルビーでの功績点数をつけるとすれば59点

──RIZAPは高額ですけど、それはトラブルとかリスクにはつながりませんか。

松本 高いかどうかは価値があるかどうかによると思います。実は2年前に他のところにゴルフレッスンに行ったことがあるけど、続かなかった。うまくなったという実感がなかったからね。先生はいい人だったのですが。

 トレーナーとタッグを組んでダイエットに成功し美しくなった経験ができれば、それは大きな価値です。美はおカネで簡単に買えるものではありませんから。それによってその人が幸せな気持ちになれます。

──カルビーでの功績についてはどのように評価しますか。

松本 自分がいた9年間で会社の売上高は1.8倍、最終利益は6倍になりましたが、点数をつけるとすれば59点。もっとよくできたのではないかという思いはあります。

 企業イメージの向上や企業風土づくりでは貢献したのではないか。口を酸っぱくして報告の原則とうそをつくなと言ってきました。とにかくすぐに報告してこい。報告は悪いことからあげてくれ。

 ビジネスにはトラブルや失敗はつきものです。それを隠ぺいしようとしたりうそをついたりすれば、会社がだめになることもある。だれの責任というのは一切問わないので、問題が起こったらすぐに報告してくれ。「耳タコ」(耳にタコができた)かもしれませんが、ことあるごとに言い続けました。報告の文化はだいぶ、根付いたと思いますよ。

 こういうマネジメント手法はどの会社にも通用するし、必要なことなのです。それがRIZAPグループで僕が貢献できることだとも考えています。

松本 晃(まつもと・あきら)/カルビー会長兼最高経営責任者(CEO)。1947年京都府生まれ。72年京都大学大学院卒業。伊藤忠商事、ジョンソン・エンド・ジョンソン・メディカル社長、最高顧問を経て、2009年よりカルビー会長。6月に退任後、RIZAPグループ最高執行責任者(COO)に就任予定。

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