企業と消費者の距離感は、ソーシャルメディアの登場で一気に縮まった。
ユーザーの期待を越える行ないは"神対応"と称賛される一方、レスポンスのまずさで炎上することも珍しくない。「口コミ」に左右されるシーンも増えてきた。
あらゆる企業にとって、消費者への的確な対応とサービスが大きなテーマとなっている。
世界167の国と地域で事業を手がけ、パソコン出荷台数で世界第3位のデル。
ツイッターを活用したサポートや、ロバに乗って修理に駆けつけたエンジニアのエピソードなど、サービス面でもユーザーの想像を上回っている。その徹底した姿勢が貫けるのは、なぜか。
秘密を探りに、宮崎へ
今回ハフポストでは、デルの宮崎カスタマーセンターが実施している見学ツアーに同行。「ビジネスを止めないPC」の実態に迫った。
デルの国内サポート業務全体の約7割を占める宮崎カスタマーセンターでは、約400人が全員正社員として勤務し、主に法人向けサービスやプレミアムサポートなどを担当している。
見学ツアーは「工場見学のような楽しさが」
「宮崎カスタマーセンター自体は、見学用通路や説明ブースを備えた"見せるための施設"ではないんです」
そう述べるのは、カスタマーツアーをコーディネートする満石さん(写真下)だ。
「ツアーのための演出や設備などはなく、"ありのまま"を見せています。その方が、リアルなサポート体制が見られて、現場の臨場感を味わえる、といったご感想も。工場見学のような楽しさに近いのかもしれません」
手探りで始めた見学ツアーは、デルが提供しているサービスを「現場のマネージャーが直接、お客様に説明してみてはどうか」という社内の意見がきっかけだったという。この1年間で、100余りの企業・団体から、300人以上の人々が参加した。
24時間365日稼働のカスタマーセンターを訪ねてみると、ワンフロアの広々したオフィスで、丁寧に対応する社員の姿があった。パーテーションで仕切られた各人の担当ブースは、自分の部屋のように飾られて、社員のキャラクターが見え隠れする。
各部署を歩くたび、にこやかにあいさつをくれた。明るくアットホームな雰囲気。働きやすく、社員定着率の高い職場である理由を実感した。
オフィスの一角では、パソコンの実機を用いて、不具合を検証する姿も見られた。
新しい製品やソフトなどは情報が多くなく、社員自ら機器を検証する場合もあるという。昨年4月に入社した𠮷田さん(写真上)は、サポート業務をやりながらも、IT関連のニュースなどを常にチェックしているという。
「どういう社会の流れになっているかを知り、それをチーム内でも情報共有します。特にIT分野は、昨日新しかったことが今日古くなってしまうので...」
時にはアメリカ本社から、日本に滞在している顧客のサポートをお願いされることも。常にチーム内メンバー同士でもサポートをし合っているので、難しい案件もこなせる。
なぜ、宮崎だったのか?
デルがカスタマーセンター新設を検討した2000年代初頭は、地域活性化や雇用の創出を目的に、全国の自治体がコールセンターやサポートセンターの誘致合戦を繰り広げた時期だった。各地がしのぎを削るなか、宮崎市は地元のIT産業の現状に危機感を抱き、特に熱心な動きを見せた。
では、なぜデルは、最終的に宮崎を選んだのか?
宮崎進出のポイントについて、石口靖信センター長は、下記の3点を挙げる。
なかでも顕著だったのが、2点目だ。
デルが最終的に候補地を決める際、評価として高かったのが宮崎県人の"おもてなしの心"だった。親切で献身的な県民気質に触れて、「宮崎こそ最適地だ」と確信したという。「困っているお客さまを助けていく」とするカスタマーセンターの目的と、宮崎県人のホスピタリティが合致した。
総勢400人。全員が正社員である"価値"
日本で働く3人に1人が非正規雇用――。総務省の労働力調査によると、2018年4月末時点での就業者数6671万人のうち2104万人が非正規の職員・従業員だ。*1
近年、雇用スタイルの多様化が進むなか、宮崎カスタマーセンターの特徴として、サポートに携わる全従業員が正社員である点が挙げられる。なぜ、正社員にこだわっているのか? この点についても石口センター長に聞いてみた。
「たしかに電話を受けているスタッフが全て正社員であることには、みなさん驚かれます。彼らは電話オペレーターでなく、お客様をサポートするエンジニアです。正社員である彼らのロイヤリティは高く、カスタマーファーストの精神で質の高いサービスを提供しています」
「モチベーションの高さに加えて、"長く勤めたい"という社員も多く、長期雇用によるスキルアップが図れます。結果として、レベルの高いエンジニアを育てることが可能となります。正社員であることによる優れたパフォーマンスを通じて、お客様に質の高いサービスが提供できるのです」
顧客満足を重視するデルでは、アンケート調査も実施している。サポートを受けた顧客が、担当社員の対応を11段階(0~10点)で評価する仕組みだ。
デルでは、その満足の割合を90%以上にすることが、カスタマーサポートとしての指標だ。
サポート担当の社員は日々、顧客からの評価が可視化される。成果主義のデルでは、社員の学歴・年齢・性別に関係なく、実績を挙げていくことが昇格や昇給につながる。
加えて、宮崎カスタマーセンターによる独自の取り組みも。サポート1週間後をめどに再び顧客に連絡し、その後の状況をヒアリングする"フォローアップコールバック"だ。問題を解決するだけでなく、信頼の構築にも一役買っている。
24時間365日のサポート体制
「ビジネスを止めないPC」を宣言するデルは、その名の通り24時間365日、カスタマーセンターを稼働している。
このため、カスタマーセンターでは社員15~16人のチーム体制、8つの勤務シフトが組まれる。また、状況に合わせて出社時間を1時間単位で調整するなどの工夫も凝らす。
とはいえ、サポート部門はストレスの多い職場であることは明確だ。
そこで石口センター長は「お客さまに満足いただけるサービスやサポートの提供には、まず社員が安心して働きやすい職場環境づくりが大切」だと考え、社員との密なコミュニケーションを心掛けている。
社内イベントや、一年に一度開催するキックオフパーティーやファミリーイベントなども好評だ。ハロウィンでは趣向を凝らした仮装で勤務して、コンテストを行う。社員が楽しみながら仕事できる環境づくりに加えて、個別面談や各種の表彰制度にも力を入れる。これらの取り組みが、離職率の低下にもつながっている。
離職率が業界平均の"1/8"
コールセンター業界は、離職率の高い業種だ。多くの企業がブランチを置く沖縄県では、年間離職率が4割におよぶ調査結果もある。*2
デル宮崎カスタマーセンターに関しては、「業界平均の8分の1以下で社員の定着率は高い」と、満石マネージャーは述べる。
まず、現場からの提案や社員の声を尊重し、ボトムアップ型で課題を解決する姿勢が挙げられる。また、次世代のキャリアを育成するサークル活動や、ニュースレターの配信など、グローバルの取り組みにも参加する社員もいる。
さらには清掃活動や災害支援、募金活動などのボランティア活動にも参加要望が多く、地域貢献に汗を流している。
宮崎県が進めるIT産業育成を支援団体「Miyazaki IT plus」にも参画して、コールセンターコンテストや合同運動会も積極的に参加している。
これらの取り組みは、グローバル企業であるデルの中でも高い評価を得ており、全世界で100拠点以上もあるオフィスの中で、宮崎カスタマーセンターはベストプラクティスの一つに選定されている。
「デルが友達になった」
ツイッターでのサポートも話題のデル。「中の人」ことIYさんにも、ついに対面できた。以前は電話サポートのチームにいたIYさんは、自らツイッターの運営に興味を持ち、異動願を出したという。
「電話は1対1で直接お話ができるので、お客様の空気感もわかりやすいのですが、ツイッターは文章だけ。しかも、年齢も性別も違う多くのフォロワーさんに見ていただいているので、言葉遣いには人一倍、気をつけています」
2015年4月に開設した時点でフォロワーは7000人ほどだったが、3年目を迎えて2倍強のフォロワー数になった。「習うより慣れろ」の精神で、日々画面に向かっている。
サポートだけでなく広報としての役割も担っているので、今後は社内イベントの様子なども発信していきたいという。「ご購入いただいたお客様をフォローしたら『デルが友達になった』と喜んでいただけました。嬉しかったですね」
アカウントには日々、顧客からの感謝の言葉が数多く寄せられている。
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見学ツアーの終了後、参加者から次のような声が聞かれた。
「各社員の役割を明確化して、モチベーションを持たせる方は参考になり、当社でも導入したいと思う」
「デルの顧客サービスの品質管理や障害対応の取り組みが理解できて、非常に良かった」
「スタッフのモチベーションの高め方や、サポート品質を綿密に管理している点などが素晴らしいと思った」
顧客向けサポート業務の品質にこだわって、正社員雇用や成果主義を打ち出すデルは、人材投資を惜しまない。
「自分のキャリアは、自ら切り拓く」とするデルでは、グローバルでのキャリア開発プログラムも多数用意している。また、日本独自のプログラムでの資格取得制度も設けている。
宮崎の風土が支える"おもてなし"の精神と、やる気溢れる社員のサポートサービスが、デル製品すべての屋台骨となっているのは間違いない。