カンボジア:障がい児に向き合う姿勢に変化を起こす

著しい困難を抱える学習障がい児への対応方法を、実践を通して学びました。

AAR Japan[難民を助ける会]カンボジア・プノンペン事務所では、2013年からカンダール州クサイ・カンダール郡において、障がい児のためのインクルーシブ教育(Inclusive education:IE)推進事業を実施しています。毎年、同郡内の3~4校に校内のバリアフリー工事、教員研修、学校児童や地域住民に対する啓発活動を各地域のIE推進部会メンバーとともに実施し、障がい児を取り巻く環境の整備に取り組んできました。なかでも教員研修は、障がい児に限らずすべての児童の就学において重要な役割を担っています。研修を通して、教員が障がい児に適切な配慮をできるようになり、すべての児童にとって分かりやすい授業をできるようにすることを目指しています。

障がいやIEに関する基礎研修、すべての教員を対象に

クサイ・カンダール郡全域においてインクルーシブ教育が推進されるよう、対象校以外の学校教員も含め2017年9月~11月に各学校で計6日間の基礎研修を実施しました。

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障がい者が直面する障壁に関するロールプレイを実施。参加者からは「物理的バリアはもちろんないほうが良いが、周りからの手助けも重要だ」と声があがりました(クサイ・カンダール郡プラエク・タミア集合村、2017年10月12日)

カンボジアで活動をしていると、いまだに「障がいは、前世で行った悪行の結果の現れ」と考えている人に出会うことがあります。また、障がい者を「(身体や心身機能の喪失で)何もできない人、かわいそうな人」と見る人にも多く出会います。そのような考えに変化を起こせるよう、2017年10~11月にかけて実施した研修で、参加者は障がいに関する正しい知識や障がい者の能力について学びました。また、障がい者の社会参加を妨げているのは、障がい者の「障がい」ではなく、実は周囲の環境や配慮の欠如など、社会に存在する「障壁」が問題であることを知ることと、それを取り除くために各自ができることを話し合う機会を設けました。

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カンボジアの教育省職員の講師(右)から点字版の使い方を学びます(2017年11月29日、撮影場所は以下クサイ・カンダール郡プラエク・タミア集合村)

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知的障がい児がいる教室を想定した模擬授業。生徒が文章を読みやすくなるよう、教員は文字に定規をあてるなど工夫をこらします(2017年11月30日)

さらに、障がいの有無にかかわらず地域の公立学校ですべての子どもが学べる環境づくり(インクルーシブ教育の実践)について、講義やグループディスカッションを通して理解を深めました。障がい種別ごとの研修では、視覚障がい児や聴覚障がい児にとって適切な座席の位置や話し方・板書の仕方、知的障がい児に与える課題の難易度を考慮するなど、障がいの特徴とともに具体的な対策を学びました。研修の最終日には、グループごとに作成した授業計画に基づき模擬授業を行い、良かった点や改善点などを、参加者同士で話し合いました。

応用研修、障がい児の担当教員を対象に

基礎研修後、参加者の学校を訪問して授業の様子を確認したところ、視力や聴力に不自由のある障がい児を前の席に座らせるなど、早速学んだことを活かしている教員や、欠席しがちな障がい児を家庭訪問し、保護者と就学状況について協議するようになった教員の姿が見られ、確かな変化が感じられました。しかし、モニタリングや会合を継続する中で、授業に活用できる障がい児用・教員用の教材がともに不足していること、特に知的障がい児や発達障がい児を受けもっている教員がより専門的な知識や技術を学びたいなどの意見があがっていたため、障がい児を担当する教員を対象にした応用研修を2018年5月に実施しました。

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野菜を教材に取り上げる理科の授業計画を作成。実際に野菜を見せて「葉っぱを食べるもの」「根を食べるもの」「身を食べるもの」などに分類させます。実物でやることで理解を促します(2018年5月26日)

教材に関する研修では、授業に役立つ既存のゲーム教材の使い方を紹介し、その後各学校のニーズに基づき必要な教材を配付しました。学校予算やコンピューターなどの電子機器が限られているカンボジアでは、子どもが楽しみながら学ぶための教材に身近なものを活用することが重要です。実際に身近な素材で教材を作成する時間を設けると、参加者はそれぞれ工夫を凝らした教材を作成しました。それを用いて、模擬授業を実施しました。

また、長年障がい児のセンターや特別支援学級を運営している現地NGOの協力を得て、発達障がい児や知的障がい児の指導方法に関する研修も同時期に行いました。参加者は、発達障がいの一種である自閉症の特徴を講師の実演を通して考えたり、知的能力に遅れは見られないもののある特定の作業、たとえば「読む」「書く」「計算する」などに関して著しい困難を抱える学習障がい児への対応方法を、実践を通して学びました。

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識字障がい児のいる学級を想定した模擬授業の様子。識字障がいは、文字の読み書きに困難を抱えるため、絵を用いて理解を促します(2018年5月18日)

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交通ルールの模擬授業では、どの色で進み、止まるべきか体験しながら学習します(2018年5月26日)

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筆記に困難を覚える書字障がい児への指導方法を学でいる様子。似た形の文字を並べ、それぞれの違いを理解してもらいます(2018年5月18日)

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「遊びを通した学び」を楽しんでいる様子。トランプの神経衰弱のようなゲームで、記憶力を高める効果も期待できます(2018年5月19日)

IEが地域にもっと根付くように

インクルーシブ教育は一つの決まった形があるわけでも、すぐに達成できるものでもありません。日々変化する周囲の環境や子どもの状況を把握しながら柔軟に対応していくことが教員に求められており、継続した取り組みが必要です。研修を終えて、これまでは障がい児のわがままや怠惰だと考えていた行動が、実は障がいの影響だったと気づいた教員は、考え方を変え子どもと向き合おうとしています。AARは、これからも同地域において、インクルーシブ教育の取り組みがさらに地域に根付いていくよう、学校や地域、行政と協力しながら、活動を継続してまいります。

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分数を学ぶためのゲーム教材の遊び方を習っています。中央奥が駐在員の向井郷美(2018年5月24日)

【報告者】

カンボジア事務所 向井 郷美

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2013年11月より東京事務局で主にカンボジア事業を担当し2015年3月よりカンボジア駐在。日本の中学校や中国の高校で教師として働く中で、教育を受けたくても受けられない子どもの問題に関心を持ち、大学院で国際協力について学ぶ。「支援を必要とする子どもたちと支援してくださる日本の方々の気持ちをつなげたい」。青森県出身

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