オウムのジェットストリームに巻き込まれ、シャツの袖から出てきた蜂を追い回す

自然との出会いは、いつも、驚くことばかり。

原生林と川と湖と氷河に囲まれた南米チリのパタゴニア地方で暮らす私たちの日常のストーリーを綴っています。今回は、その23回目です。

「シンプル・ライフ・ダイアリー」10月24日の日記から

今日は、霧雨が降っている。窓からは、黄色いケールの花と山吹色のアカシアの花が、風に揺れているのが見える。この時期、庭にある木々は、カラフルな花をつけ始める。

例えば、シルエリヨ(チリアン・ファイヤー・ブッシュ)の木は、大きくて華やかな赤い花、ミチャイ(バーベリー)の木は、小ぶりのスズランのようなオレンジ色の花、そして、エスピノ・ネグロ(ブラックソーン)の木は、繊細な紫色の花をつける。日本では、山が色鮮やかに染まるのは、秋の紅葉の時期だけれど、ここでは、オレンジや黄色、紫や赤などで山々が彩られるのは、春なのだ。

Open Image Modal
Paul Coleman

春には、雨の日と晴れの日が交互にやって来る。2,3日、冷たい雨が降った後は、2,3日晴れて暖かくなる。三寒四温という言葉がそのまま当てはまるように、一雨ごとに、暖かくなって行く。雨が降り、太陽が出るたびに、野菜や植物は、ぐんと一気に成長する。2週間前に畑に植えたキャベツやブロッコリー、芽キャベツやカリフラワーの苗は、2倍に成長し、グリーンピースの芽も、にょきにょきと出始めた。

畑の野菜だけでなく、庭に生えている野生の植物も成長し始めた。ナルカ(チリアン・ルバーブ)の葉は、1週間前には、私の手の平ぐらいの大きさだったのに、今日、見に行ってみたら、なんと、直径1メートル、となりのトトロの傘のように大きくなっていて、葉の陰に、赤い、50センチぐらいのトウモロコシの形をした花が咲いていた。一つ一つの花は、1センチにも満たない小さな花で、それが、何百も集まって、大きなトウモロコシの形を作っているのだ。庭にノーム(小人の妖精)がいたら、ナルカの下で十分、雨宿りできそうだった。

Open Image Modal
Paul Coleman

また、春は、渡り鳥がやってくる時期でもある。今朝は、アウストラル・パラキートが、「ギャア、ギャア」と喧しく鳴きながら、飛んでいくのを見かけた。彼らは、小さなオウムで身体は緑色で尾っぽがが赤く、春と秋の年に2回 、群れでやって来る。春にやって来るのは、ちょうど、今の時期、エスピノ・ネグロの紫の花が満開になる頃で、木に群がって花を食べる。そして、秋には、エスピノ・ネグロが、サクランボぐらいの大きさの紫色の実をつける頃にやって来て、実を食べるのだ。

私たちのゲスト・キャビンの後ろには、大きなエスピノ・ネグロの木が2本、生えている。春に、パラキートたちが百匹ぐらいの群れでやって来て、花を食べ散らかすと、紫色の花びらが紙吹雪のように、風に舞って、美しい。そして、秋に、彼らがエスピノ・ネグロの実を食べ散らかすと、今度は、種がキャビンの屋根に落ちて、まるで、雹が降ってきたかのような音がする。

彼らが、木の枝から枝へと飛び回り、「ギャア、ギャア」と鳴きながら、嬉しそうに花や実を食べている様子は、とても微笑ましいし、彼らの長い旅路の途中で、食べ物を補給し、身体を休めることができる場所を提供できることは、とても、嬉しい。でも、彼らは、どうやって、ちょうど、花が満開になったり、実がなったりしているタイミングを知ることができるだろう?どうやって、それらの木がある場所を見つけるのだろう?彼らの脳に、私たちの家の位置を記憶できる機能があるのだろうか?本当に不思議だ。

パラキートたちは、とても人懐こく、毎年、戻ってくると、私たちが庭に出ている時に、頭の上を飛び回って、「ハロー!戻って来たよ」と言っているかのように、ギャア、ギャア」と鳴く。私たちも、「ハロー!」と挨拶を返す。

パラキートたちと、信じられないくらい素晴らしい経験をしたことがある。ある日の朝、デッキに座ってコーヒーを飲んでいると、突然、後ろからパラキートの群れが飛んできて、私の腕をかすめるようにして飛んで行ったのだ。羽が風を切る音が聞こえ、空気が動くのを感じた。まるで、彼らのジェットストリームに巻き込まれたようだった。ほんの一瞬だったけれども、彼らの世界の一部になったように感じ、私は、歓喜に包まれた。何とも言えない、驚きと喜び。素晴らしい経験だった。

Open Image Modal
Paul Coleman

蜂がやって来るのも、春だ。私たちの庭には、4種類の蜂がやって来るのだけれど、昨日は、初めて、新しい種類の蜂に出会った。

昨日の朝、洗濯物を取り込んだら、何かが、ズズズズと音を立てているのに気がついた。Tシャツの中に虫が入っているのかと思って、見てみると、小さな虫が袖から出てきて、私の手に這い上がってきた。よく見ると、身体は真っ黒。楕円形の真っ黒な瞳が可愛らしく、口の周りが花粉だらけで、黄色いヒゲを生やしたように見えた。彼は、とても、落ち着いていて、全く何の懸念もなさそうに、私の手の上を歩き回った。私は、彼を驚かせないように、そっと外に出て、手を伸ばした。すると、風を感じた瞬間、彼は、ブーンと飛び立って行った。

家の中に戻って来ると、また、ブーンという音が聞こえた。他のシャツをチェックしてみると、同じ種類の蜂が、2匹、袖の中に入っていた。シャツを外に持って行って、袖を裏返しにすると、ブーンと飛んで行った。しかし、それで、終わりかと思ったら、そうではなく、家の中に戻って来ると、洗濯物の中から這い出た蜂たちが、家の中を飛び回っていたのだった。

彼らは、光を探して窓の方へ飛んで行き、上下に飛び回った。私は、小さな缶を持って来て、蜂の身体をはさんだり、足を挟んだりしないように注意しながら、そっと、蜂の上からかぶせ、ダンボール紙を蓋の代わりにして、蜂が缶から出ないように手で押さえて、一匹ずつ、外へ運び、蓋を開けて、蜂を逃がした。こうして、最終的には、15匹もの蜂を救出したのだった。

「これからは、洗濯物を取り込む前に、チェックしないといけないね」私は、言った。

ポールがネットで調べてみると、黒い蜂は、カーペンター・ビー(大工バチ)と言って、腐った木に巣を作る種類だった。彼らは、めったに人を刺さない、とても、穏やかな蜂らしい。攻撃的な蜂でなくて、本当にラッキーだった!

「彼らは、袖の中で眠っていたのかな?それとも、寒さを凌いでいたのかな?」

私が言うと、ポールが答えた。

「さあ、どうなんだろう。彼らは、カーペンター・ビー(大工バチ)なんじゃなくて、ランドリー・ビー(洗濯バチ)なんじゃない?」

「ランドリー・ビー!?」

自然との出会いは、いつも、驚くことばかり。だからこそ、私は、この上もない喜びを感じるのだ。