すべてのグラデーションが出会う場所――日比野克彦に聞く「UENOYES」

突然だけれども、「上野」と聞いて何を連想するだろうか。

突然だけれども、「上野」と聞いて何を連想するだろうか。動物園、美術館、博物館、不忍池、東北の玄関口、アメ横、西郷さん、花見、藝大......上野を訪れたことがあってもなくても、人によって様々な上野像があることと思う。最近は、ジャイアントパンダのシャンシャンを一目見ようとする人、外国から観光に訪れる人で上野は一層の賑わいを見せている。

そんな、世代も人種も異なる人々が行き交う上野の魅力を発信するプロジェクト「UENOYES」(ウエノイエス)が始動するという話を耳にして、一体どんなプロジェクトだろうと興味を持った。特に「UENOYES」という耳慣れない言葉が引っかかったのだ。折しもプロジェクトの総合プロデューサーを務める日比野克彦氏に話をうかがう好機を得たので、プロジェクトについて、あれこれ聞いてみた。

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NAO KIMURA
日比野克彦氏

日比野は1958年岐阜市生まれ。1984年に東京藝術大学大学院を卒業した日比野にとっても上野は思い入れのある地だ。

「上野に来ると受験の時のことを思い出しますね。最初の年は落っこちて受け入れてもらえなかったけど(笑)、自分の居場所を得て、動物園に行ったり美術館に行ったり、アメ横に行って飲んだり食べたりしました」(日比野)

1995年にはヴェネツィア・ビエンナーレ日本館の作家に選出されるなど、作家としてのキャリアを重ねてきた日比野。近年では、障害の有無や性など、あらゆる違いを超えた人々の出会いによる相互作用を表現として生み出すアートプロジェクト「TURN」の監修を務めるなど、人と違うこと、多様であることに価値を見出す文化芸術を通して、より豊かな社会の創造を目指して活動している。

「UENOYES」の舞台となる上野は、まさにその素地を有する場所だと日比野は言う。

「渋谷や銀座に行って居づらいな、居場所がないなって思うことはあると思うんだけど、上野は誰でも居ていいよって言われていると感じるというか、自分の居場所が見つかるのが上野の魅力だと思うんですよね。上野は誰が行っても迎え入れてくれる。当たり前すぎて誰も気づかなかったことをちゃんと声高に言っていこうというのが『UENOYES』です」(日比野)

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酷暑だった8月半ばも、上野は多くの人で賑わっていた

「UENOYES」を主催するのは、上野の文化施設が中心となって組織された上野文化の杜新構想実行委員会アーツカウンシル東京。様々な人が集う公共空間の可能性を拡張し、その成果を上野から世界に発信すべく立ち上がった「UENOYES」は、「社会的包摂文化芸術創造発信拠点プロジェクト」と位置づけられている。もう少し噛み砕いて説明してほしいというこちらの依頼に、日比野はこう答えた。

「メジャーが勝ち組でマイナーが負け組みたいな相関図があるじゃないですか。選挙も、一票でも多かった人がトップになり、支持者が多い方が法律やルールを決めていく。でも、それだけでは社会が上手く回らないことが分かってきた。メジャーがマイナーを土台にして成立する社会でいいのか。例えば、120色の色鉛筆って綺麗だけど、暖色、寒色というように、なんとなく分けますよね。でも、1番から10番まで赤があるとしたら、私の赤は1番だけど、私は5番というように、同じ赤でも限りなくグラデーションがあるわけです。73億人いたら73億とおりの赤がある。社会的には同じ赤だけれども、あなたと私の赤は違う、メジャーの色にマイナーの色を染めるのではなく、マイナーの色もすべて存在させていくのがソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)です」(日比野)

「UENOYES」の実質的な始動となるのは、9月28日から3日間に渡って開催されるキックオフイベント「UENOYES バルーンDAYS 2018」。子供を対象としたプログラム、防災・食をテーマとしたアートプログラム、社会包摂をテーマとしたアートプログラムの、大きく3つのプログラムで構成されている。噴水広場をアトリエにして、屋外彫刻(スタチュー)になりきったパフォーマーを写生する「スタチュー写生大会」、東日本大震災以降、被災地で継続的に活動してきたアーティスト、ホセ・マリア・シシリアによる展示やイベント、アオキ裕キ率いる路上生活経験者によるダンスグループ、新人Hソリケッサ!によるワークショップとダンスパフォーマンスなど、プログラムも多彩な色で彩られている。

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上野文化の杜新構想実行委員会
UENOYES バルーンDAYS 2018メインイメージ

「『UENOYES』には、NOとYESの間にある微妙なグラデーション全部を出会わせていきたいという大きなテーマがあります。実際、上野は既にそれを実現していると思うんです。他の地域にはグラデーションが10個しかなかったとしたら、上野には1000個あって、より自分にフィットした居場所を見つけられる。だから、家族連れも来るし、美術愛好家も来るし、ホームレスも来るし、言語の違う人も来る。上野は、もっと言えば文化は、グラデーションを全部受け入れることが出来るんです」(日比野)

キックオフイベントの後も、歴史的建造物の公開や、社会的困難者への文化的支援をテーマにしたプログラムなどが展開される予定だ。これまでも人は様々な理由で上野を訪れていたが、これからはそこに「UENOYES」が加わることになる。

「放っておいても、上野には人がたくさん来ますからね。とは言え、まだ上野に来たことがない人、上野に行くことすら諦めている人たちもいると思うんです。例えば障害のある子供を持つ家族とか。この子を連れて美術館に行くのは大変だよねという人も、『UENOYES』の上野だったら行けるかもしれないっていうところまで展開していきたい」(日比野)

「UENOYES」は多様な人を受け入れる上野という土地の発信であると同時に、人はそれぞれに違うのであり、違うままに存在して良いという価値そのものを表す言葉でもある。「UENOYES」という新たな価値観が上野から日本全国へ、日本から国外へ広がっていく最初の一歩に是非立ち会ってみてほしい。

(文中敬称略)

UENOYES バルーンDAYS 2018(ウエノイエスバルーンデイズ2018)

会期:2018年9月28日(金)、29日(土)、30日(日)

時間:10:00~17:00

会場:上野恩賜公園 竹の台広場(噴水前広場)、国立国会図書館国際子供図書館

主催:上野文化の杜新構想実行委員会、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)

参加費:無料

UENOYES公式サイト:https://uenoyes.ueno-bunka.jp/