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「睡眠負債」がもたらす仕事への悪影響 どんな対策が必要?

職場にひそむ、睡眠不足によるプレゼンティーイズム
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6時間睡眠を2週間続けると、2晩の徹夜と同じ?

睡眠が足りないと、酒気帯び状態と同じレベルまで作業能力が下がる?

そんな衝撃的なデータを専門家が紹介すると、参加者たちは驚きの表情を浮かべた。

6月22日、睡眠不足が健康や仕事に与える影響について考えるイベント「はたらくひとの眠り方改革」が東京都渋谷区で開かれた。

企業で社員の健康管理などを担当している男女7人が、専門家の講演を聴いた後、社内における睡眠対策の現状や課題について話し合った。

そこで明らかになったのは、「睡眠負債」がもたらす仕事への悪影響や、睡眠対策の進展を阻む、企業トップや年配社員たちの「昭和的」な価値観の数々だった。

「働き方改革」が進む中、企業にとって社員の睡眠の質の向上は「待ったなし」━━。


自覚なき睡眠不足が業務能率の低下に

イベント前半では、脳神経学者で早稲田大学 教授の枝川義邦氏が「『働き方改革』から考える“眠り”とは?」と題して講演した。

枝川氏は、脳神経科学や人材・組織マネジメントなどについて研究しており、2017年には「睡眠負債」という言葉で流行語大賞を受賞している。

睡眠負債とは、日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身ともに悪影響を及ぼす恐れのある状態のことを指す。

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Yasuhiro Suzuki
資料を示しながら講演する枝川教授。東京大学で薬学の博士号を取得後、早稲田大学でMBAを取得。科学と企業経営の双方にわたる領域を研究テーマにしている。著書に「ぐっすり眠れる睡眠の本 」枝川 義邦 (監修)」など。

枝川氏はまず、日本がOECD(経済協力開発機構)の加盟国中※1、最も睡眠時間が少ないことや、睡眠不足によって社員の「生産性」が低下し、それによる経済的損失が日本全体で年間約15兆円※2にのぼるとの推計データを紹介。

睡眠不足がいかに仕事の能率を低下させ、企業にとってマイナスになるかを浮き彫りにしてみせた。

次々と明かされる衝撃のデータに、参加者たちはメモを取りながらも驚きの表情を隠せない様子。

そんな彼らをさらに仰天させたのは、こんな研究結果だった。

「6時間睡眠を2週間続けると、2晩徹夜した時と同じくらい作業能率が下がる」※3

「起きてから15時間後の作業能力は、酒気帯び運転時と同じだけ低下している」※4

最低6時間睡眠が必要とよく言われているが、枝川氏は、ある実験から6時間睡眠では十分でない人もいることがわかったという。

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徹夜を3日続けたグループと6時間睡眠を2週間続けたグループとで、刺激が提示されてからの反応時間を測ってみる。

その結果、6時間睡眠をしたグループの脳の反応速度は、およそ2日間徹夜した脳の状態と同じだったそうだ。

厚生労働省が平成27年に実施した調査によると、日本人の睡眠時間は、6時間未満の割合が約40%で、わずか8年で9ポイントも増えていることが判明している。

蔓延するプレゼンティーイズム

出勤していても業務が十分にできていないことを「プレゼンティーイズム」という。

企業における社員の健康管理において最近、急速に広まっている言葉だ。

枝川氏も講演の中で触れ、睡眠不足が続くとプレゼンティーイズムの状態が職場に蔓延し、企業は大きな損失を受けると警告した。

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日本企業のプレゼンティーイズムによる損失は、1位「肩や首の凝り」、2位は「睡眠不足」。

「睡眠不足」による損失金額は、一人あたり年間約3.4万円にものぼる結果だった。※5

しかし、睡眠不足に不眠症などの「睡眠障害」を加え、“睡眠関連による損失”という切り口で比較すると1位の数字を上回ると枝川氏は紹介した。

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また、枝川氏は睡眠不足対策として民間企業で導入されている事例を紹介した。

ある会社はユニークな取り組みを始めた。

「居眠りをしてもいい講演会」といい、文字通り、社員に仮眠を促すための講演会だ。

これには思わぬ「副産物」がある。社員が講師役を務めることもあるが、聴講者が居眠りする中でプレゼンするため、メンタルを鍛えることにつながるという。

枝川氏は「まとまった睡眠時間が取れず、仕事中に眠気が襲ってきたときには“昼寝をすること”がベスト」と指摘。「然るべきタイミングで10〜15分の睡眠をとり入れることで脳がスッキリし、業務能率も上がる」と話した。

各社取り組む睡眠対策 意外な障壁が・・・

イベントの後半では、参加者と枝川氏がグラフィックレコーディングを取り入れながらディスカッションし、自分の会社の取り組み事例なども紹介した。

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Yasuhiro Suzuki
ディスカッションの中で各社の事例などを紹介し合う参加者たち(手前)

アビームコンサルティング株式会社 人事グループの高橋桂子さんは、健康経営の一環でパワーナップ(昼寝)を取り入れ、専用の椅子を導入している自社の取り組みを紹介した。

しかし、昼寝をしづらいと感じている社員も多く、「アイマスク」を1000個配るなど工夫しているものの、使用率が低いことが悩みだと明かした。

株式会社朝日新聞社の働き方改革実行委員会の空田陽史さんは、部署内で「8・8ルール」というよほどのことがない限り午後8時から午前8時までの間は、メールや電話をやめる自社の取り組みを紹介。

IT機器関連メーカーに勤める大坂巌さんは、自分の不規則な睡眠について悩んでおり、独学で改善を試みたところ、体の調子が回復。2カ月で8キロの減量に成功した。今まで以上に活動的になり、「ライフスタイルが一変しました」と打ち明けた。

大坂さんはそんな自身の成功体験を仕事にも生かしている。

睡眠をテーマに新規事業開発に着手し、社内でトイレの使用率を測る実験を行った。その結果、午後の使用率が非常に高いことが判明。

「トイレの中で寝ているのでは?」との仮説が浮かび、「対策の必要を感じた」という。

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塚本幸一郎さんが勤める株式会社フジクラ健康社会研究所は、トラッキングツールを用いて、睡眠とパフォーマンスの関連を調査する仕組み作りを行なっている。

ソネット・メディア・ネットワークス株式会社の経営企画管理部の高橋裕文さんは、 睡眠に対する社員の意識について触れた。

健康に関する社内アンケートで「健康で最も意識していること」と質問したところ、最も多かった答えが「十分な睡眠」だった。

ディスカッションの中では、企業が睡眠対策に取り組む中で共通の課題も浮き彫りになった。

睡眠対策を進める上で、“経営幹部や年配社員たちの理解を得ることに苦労する”との指摘が相次いだのだ。

企業上層部の一部は、寝ずに働くことを美徳とみなしたり、「寝る=休んでいる」という考え方を持っているため、睡眠対策を導入する上でこのことは大きな障壁になっており、同じ「働き方改革」の中でも、 “定時帰宅”や“有給・育休などの取得”と比べ、後回しにされてしまう傾向があるようだ。

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参加者の議論を受けて、枝川氏は「経営層がトップダウンで改革することが重要」とコメント。

その上で、「睡眠不足が企業の損失につながるというデータをもとに社内で対話をすることが有効だ」とも述べた。

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イベント当日に実施したグラフィックレコーディング、各社の取り組みと課題を可視化した

健康経営が採用活動の肝に

参加者からは、「睡眠対策の有無は、採用面にも影響する」という指摘もあった。

社員に対し過酷な労働を強いる「ブラック企業」問題がクローズアップされている近年、企業が健康経営に力を入れているかどうかは、就職活動をする上で重要な指標になっているという。

健康経営としては「禁煙問題」や「メタボリックシンドローム」の対策に取り組む企業が増えてきている一方、「睡眠」対策については、多くの企業に改善の余地がありそうだ。

枝川氏が指摘するように、睡眠不足がもたらす経済的な損失は無視できない大きさとなっており、働き方改革の推進には、パフォーマンス向上のための「睡眠」対策もセットで取り組むことが有効だろう。

「働き方」と密接な関わりをもつ「睡眠」。いま一度、見つめなおしてみてはいかがだろうか。

※1.OECD(経済協力開発機構) 2018年の国際比較調査(Gender Data Portal 2019)
※2.「Why Sleep Matters: Quantifying the Economic Costs of Insufficient Sleep」/RAND CORPORATION
※3.Van Dongen HP et al., SLEEP (2003) 26:117-126
※4.Dawson D, Reid K, Nature (1997) 388:235
※5.Nagata T et al., J Occup Environ Med (2018) 60:e273-e280